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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第40話『自分しかいない場でこそ吐き出せた怒り』

後半片井しお視点

第40話『自分しかいない場でこそ吐き出せた怒り』


――おばあちゃん・・・ごめん・・・。私がコレに気づいたって相手にバレるのは良くないと思って・・・。


「に・・・」


ニャルラの視線がいたたまれない。


「あ、あとでお詫びするから・・・探すの手伝って、ください」


『ヒソヒソヒソ・・・』


軽蔑の効果音止めてほしい。これには深いワケが。


「だってぇ!っていうかいつ誰、が・・・」


――私の位置情報を把握して得する人間・・・熊本先生やしおさんや篠木・・・?


「いや容疑者多くない?」


「にー」


ニャルラがそれな。と言っている気がした。


「はぁ・・・とりあえず、終わらせにいこうか」


このままバス停まで歩いて、佐古大に行こう。そう決めた私は、佐古地下道に続く階段を下りる。ここを通れば、目の前に佐古大学行きのバス停がある。ちなみにスクワッシュもその近くにあるらしい。私は人気のない地下道を浮かない顔のまま進んでいった。ニャルラも黙って私の後をついていく。


――悲しいかな。こんなものを仕掛けそうな人物の候補が多すぎる。


「何で、私は・・・普通の、一般人だろ・・・?」


段々と腹が立ってきた。


――話が通じない人も、成愛も、篠木も、しおさんも、熊本先生も、島永君も、片井先輩も浦本先輩も、猫でさえも・・・皆、皆・・・簡単に怒りをぶつけられていいよね。


私はそんな簡単なことすら出来ない。しかし、黒猫の激しい怒りを思い出すと、胸の中から熱い何かが込み上げていくのを感じた。それはいつもの悲しみじゃない。悲しみに変換される前の怒りが、口からとめどなく溢れて零れた。


「・・・キモい」


「に?」


「キモいキモいキモいキモいんだよ片井しおん!篠木が言ってたgroovyにいるダリィ奴ってお前のことだろ!親の金使って好き放題してるガキがよ!犯罪だって分かんねーのか!?年下のクセに身勝手な思いで人を巻き込みやがって!ほんマジで頭おかしい!馬鹿じゃないの!?そんなことしてる暇があったら勉強しろ!深夜まで外出歩いてんじゃねー不良娘が!何が『威弦の彼女なんですけど』だよ!知ってんぞ虚言なの!どーせガキ扱いされて相手にされなかったんだろ!?それもあるだろうけど、多分篠木はお前の性格ブスさに嫌気がさして離れたんだよ!絶対お仲間内でうんざりしてる奴いるから!何か色々知ったかと妄想混ぜて語ってたけど、ずっと片想いなんだろ!?篠木に彼女いねーよ!それで私はただの友達!調べたなら私と篠木の間に何もないってことくらい分かってるハズだろ!?なのにブチ切れてgroovy使うとか意味分かんない!二度と会わんでとかお前が勝手に決める権利なんてどこにもないから!ガチ怠いわキモすぎ!醜い嫉妬で暴走してんじゃねーよ他人の不快指数気にしたことあんのか!この害悪地雷系迷惑虚言癖女が!裏でストーカーみたいな粘着行為しやがって!そんなんだから相手にされてないんだろ!私より可愛がられてないんだろ!お前が地獄に落ちろ!篠木の彼女なんて来世でもなれねーわ!」


「に、にー」


足首に柔らかい何かが触れ、正気に戻る。


慌てて辺りを見渡すが、幸い誰もいなかった。


――よ、良かった・・・。本当に。あぶなっ。


「ご、ごめん・・・急に大声出じてっげほっ!」


喉が痛い。すぐに水を飲んで喉を癒す。こんなに叫んだの何年・・・というか生まれて初めてじゃないか?怒って長文シャウトしたの。


「くはー。でも、ちょっとスッキリしたかも・・・。自分でも何で急に・・・」


『言いたいことはナウで言え!溜めた鬱憤はぶっ放せ!Hara-Show!』


「うわーーああれ何でまた別の場所にスマホが!?」


急にスマホから音楽が流れだした。サイドポケットに触れると、そこには何も入っていない。耳につけていたハズのイヤホンも消えていた。


余談だが、今流れた曲はカラオケで歌う用にダウンロードしたものである。私は普段音楽を聴かない。これといって好きだと感じる曲はなく、流行りの曲やアーティストも全く知らない。学生時代の友人はそんな私に気を使って1回もカラオケに誘ってこなかった。


しかし、大学に入ってようやく音楽に興味を持ち始めた。今は主に女性4人組ロックバンド『Watya Poi』の曲を聴いている。カラオケでもほぼこのアーティストの曲しか歌わないというか歌えない。通称わちゃぽいの曲はどれも素敵だが、私は特にアラーム音にもしている『この世のすべてにごめんなさい』という曲が一番のお気に入りである。


勿論今ニャルラが勝手に流した『ハラショー通称ディナーショー』も聴いてて元気をもらえるが、私の一日はこの曲――『このごめ』から始まるのだ。他にも好きなゲーム実況者のオリジナル曲や『歌ってみた』に投稿された曲など、少しづつ音楽への興味を広げつつあるこの頃だ。


ようやくフロントポケットに入っていたスマホを取り、そのまま聴きたいのを我慢して一時停止ボタンをタップする。何故イヤホンが繋がったままの状態で本体から音が流れたんだ・・・普通に謎なんだけど。


イヤホンを手繰り寄せると、小さくて四角い黒色の物体がコードに絡まっていた。落とさないよう慎重につまんで、じっと観察する。


――ぇ。なに、また、GPS・・・?


だが、これは先程のより薄く、正方形に近かった。勿論私の私物ではない。


「ニャルラ・・・これ、は」


「にー」


またスマホで教えてくれるのかと期待して画面を見ると、QWERTY(クワーティ)配列になったキーボードが勝手にアルファベットを入力していく。私が指一本動かさずに『eavesdropping device』という英単語が検索にかけられた。


「・・・!!」


謎の機械を持つ手が震える。この機械の正体が判明した今、そのまま落とした方が良かったのかもしれない。


検索結果の一番上には、大きなフォントで『盗聴器』と表示されていた。


(=^・・^=)

――あああああああうわあああああああ!!


階段を一段飛ばしで駆け上がり、ニャルラと猛ダッシュでスクワッシュを横切る。途中コンビニが見えたので、外付けされた燃えるゴミ箱に盗聴器を投げ捨てた。分別なんて知るかって思っちゃってすみません。


「ニャルラ言ってよおおおお!」


「にーーー!」


イヤホンからオッフェンネッケの『天国とポスト』が流れる。運動会を思い出すな・・・じゃなくて!


――絶対浦本先輩だ!ボールペン置くとき!めっちゃ距離近かったもん!


勝手に仕掛けたのは浦本先輩だと断定し、盗聴された内容がしおさんの耳にも入っているという最悪の事態を想定して顔を青ざめる。バスを待っている暇なんてとてもじゃないけどなかった。今日休日だから本数少なそうだし。


――さっきの文句?陰口?は多分先輩に全部聞かれた!?ニャルラと話してる時も!?うわー相当ヤバいぞ!?私どこまで独りごつってた!?


いつハンターが私を視界に捉えてもいいように、私は知らないマンションに植えられていた大きな木の前でリュックを降ろす。


「にー!」


「ちょっと待って・・・!」


私は水色のキャップを目深にかぶる。


――あとはスマホの設定を・・・よし。


諸々準備していると、ニャルラが急かすように服の裾をくわえて引っ張ってきた。


「さぁ。逃げる・・・よっ!」


スマホを尻ポケットに入れ、私は左手を大きく振り上げた。


(=^・・^=)

「・・・何で知っとる?淳、しおのこと話したん?」


「いや・・・俊二(しゅんじ)やろ」


淳は舌打ち交じりに幸生ちゃんが出ていったドアを睨む。


「お兄ちゃん・・・何で。でも、だから幸生ちゃん、たいして驚かんかったんか・・・初めから知っとったんじゃな」


ギリ。と無意識のうちに歯と歯が摺り合う。


威弦があの女に特別な感情を抱いていることなんてすぐ分かった。今までの女とは態度が違う。しおにだってあんな優しい目、向けてくれたことなかった。


許せんと思った。威弦が見たことない顔をしてた。しおには絶対に見せてくれない表情。あんなやつよりしおの方が可愛いし威弦の隣に相応しい。なのに何で。


――威弦は笑ってくれんの?前みたいに、頭撫でてくれんの?抱き着いたら嫌そうな顔して引き剥がすのは照れ隠しよな?


淳から封筒を受け取り、中に入っていた写真を見る。幸生ちゃんがとぼけた時用に見せようと思っていた、動かぬ証拠。威弦と幸生ちゃんが並んで歩いている写真。幸生ちゃんの体にオレンジ色の爪を立てる。


――何であの女にはベタベタするん?それで、あの女は・・・威弦とこんなにくっついていられるのに、何でそんな疲れた顔しとるん?本気で嫌なら突き飛ばせや。


「威弦・・・今何しょんじゃろ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 冒頭の幸生ちゃんの長文暴言最高です!目覚めそう!!
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