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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第37話『はわわな展開に草生える』 

第37話『はわわな展開に草生える』 


簡単に説明します。そう言って島永君は椅子に座って足を組んだ。私も近くの机の上に座る。


「俺がカラオケ店でバイトしてるのはご存じっすよね」


「『スクワッシュ』だよね」


佐古駅から歩いて5分の所にある駐車場付き5階建てのカラオケ店『スクワッシュ』立地が良く利用料が安いことから、若者が絶えず利用している。島永君は今年の4月からそこでアルバイトを始めたらしい。休日は夜勤のシフトも入れているとか。


ちなみに私は一度も行ったことがなかった。何故ならあそこは島永君曰く『酔っぱらいと喫煙者とパリピの巣窟』らしい。他にも数々の治安の悪い話を聞いたことで、特に夜はスクワッシュ周辺に近寄れなくなってしまった。


「そうです。で、そこは片井グループが営業している店でして。他にもボウリングとか、クラブとか。佐古駅周辺にも系列店が何店舗かあるんです」


「片井グループって・・・」


「お察しの通り、片井先輩はそこの御曹司みたいっすね。中小企業っすけど、社長令息は社長令息です。よっお金持ち!ボンボン!玉の輿!」


嫌な予想をしてしまい、顔が引きつる。島永君は大きく頷き、本人がいないところで囃し立てた。それ絶対片井先輩の前でやっちゃいけないやつ。


「で、OC終わって皆と飲みに向かう途中店長から電話が入りまして、系列店の人手が足りないから来てくれって頼まれたんですよね。幸生さんの雑用で疲れてたし、めっちゃ飲み行きたかったんすけど・・・給料上乗せしてくれるって言うから仕方なくクラブ『groovy』に向かいました」


「断らなかったんかい!友情より金をとったところとか、ちゃっかり私を刺すところが島永君らしいね・・・仕事押し付けてすみませんでした」


「まぁ、幸生さんいないとつまんないっすから」


島永君は不貞腐れた顔でそっぽを向いた。流石SIGのツンデレ枠。次は絶対参加しよう。そう思う時に限って、今度は島永君がいないっていうフラグが立ったような気がするけど。


「大分読めてきたよ。groovyに片井先輩達がいて、島永君は偶然私の話をしている現場を押さえちゃったんでしょ?」


「流石SIGの推理枠。そうっすね。大体そんな感じです。VIPルームには若い男女が何人かいて、その中に片井先輩と浦本先輩と、片井先輩のことをお兄ちゃんって呼ぶ女性がいました」


クラブにVIPルームなんてあんの!?と言いかけたが、話が脱線しそうなので我慢した。またいつか聞こう。


「丁度通りかかった時たまたま机を蹴る音とグラスが割れる音が聞こえまして。慌てて入ろうとしたら片井先輩の妹さん?が酒瓶振り回して『沖谷幸生ァ・・・あのアマぶっ殺す!淳はあの部屋押さえて。機材も一緒に!お兄ちゃんはいつも通り言い寄ってそこに連れてきてや!アンタ達は他にも男用意!人生最悪の地獄に落としてやる!』って」


「・・・」


肝を冷やすとはこのことか。島永君が淡々と述べる所為で余計怖くなった。


「それ聞いて俺はわーってなっちゃって。マジで草・・・ビビりましたよ。あのアマ一体何しでかしとんって」


「驚きのリアクション軽いな!あともう私が悪いで確定なんだ・・・」


肩を落とす。『おきたに』だけだったならまだ希望はあったけど『さちな』はなぁ・・・。とぼけるだけ無駄だろう。片井先輩の妹さんは、間違いなく私を恨んでいる。心当たりはあった。恐らく――昨日篠木と話した、あれだ。


島永君に話すには、篠木のことから説明しなくてはいけない。バカ面倒なので今回は黙っておこう。


「駄目っすよー。自分より年下の女の子虐めちゃ。それとも、幸生さんお得意の『何もしてないのにいつの間にか毛嫌いされてる』パターンすか」


そんなパターンないよ!と言えないのが辛い。今まで、初対面のハズである人の好感度が初手マイナスだという事態に生じた件が山ほどあった。これも私が性悪だからなのか・・・。


「多分そう・・・。島永君は他に何も聞けてないんだよね」


「残念ながら。あの日クソ忙しかったんで」


「そうだったんだ。お疲れ様。バレなくて良かったね」


「・・・あの後大変でしたよ」


「え」


――背後から近づいてくるもう一人の仲間に気づかなかったとか!?


「怪我人いないのが奇跡ってくらい荒れてました。酒って床に零すとべたつくから掃除怠いんすよね」


「ルーム掃除お疲れ様・・・ってもう興味失くしてんじゃん!薄情者!」


噛みつくと、彼は口笛を吹く真似をしてそんなことないっすよーと言った。


「まぁこのままだとヤバそうなんで、生徒の為なら何でもしてくれそうなテディ先生に相談しました。案の定二つ返事で『後は僕にまーかせて』って」


「はぁ・・・そういう事だったんだ」


まず私に相談してくれても良かったんじゃ。と恨みがましい目つきで島永君を見ると、彼は真顔で「言ったところで幸生さんに何が出来るんですか」と言われた。た、確かに・・・。


「それは」


「その会話を聞いていたのは俺だけ。録音もしてません。分かっているのは先輩があの部屋に連れてかれて輪姦されて、しかもその様子を撮影されるってことだけ。こんな話、警察にも竹村先生にもできません。何も起こっていませんからね。だから・・・幸生さんが何も危険なことをしなくていいように、俺とテディ先生がなんとかします」


「え」


島永君がボールペンの真ん中を回すと、中に入っていたのはインクではなく、USBコネクタだった。すぐに私も胸ポケットに入れっぱなしだったそれを取り出して分解する。


――『こういうちゃんとしたやつ』って、そういうことだったのか・・・。


「あれ。幸生さんもテディ先生から貰ったんですか。お揃いっすね」


これ取説です。と座ったまま小さな紙を渡された。私そんなの貰ってない・・・。彼の後ろに立ったまま読んでいると、島永君は自分のノートPCにボールペン型ボイスレコーダーの録音データを取り込み、再生ボタンをクリックした。


『――俺も、前から沖谷さんのことが気になっとって・・・俺と付き合ってください』


「わーーー!」


「声デカッ」


後ろで急に叫んでしまったので、島永君は反射的に両耳を抑える。


「ご、ごめん・・・というか、録ってたの!?あの時いたの!?」


「いえ。このデータは最初から入ってたんで、多分テディ先生じゃないんすか」


 あ の 熊 野 郎 !!


――いたんなら助けてよ!いや、先生も何か考えがあって・・・。いやそもそも!


「そのデータどうするの・・・」


「あげますよ。幸生さんのボイレコと、RICHにも送っときますね」


「はぁ」


素直にボイレコを渡すと、島永君は嬉々とした表情でデータを転送した。もう溜息しか出てこない。やっぱあの先生ヤダ。


「告白話は酒の肴にするとして、そろそろ片井先輩来てるんじゃないっすか?」


「・・・そうだね。このデータを切り札にして交渉に挑むとするよ」


私はスマホを取り出し、音声データを別のアプリにもコピーする。3限開始まで残り20分を切っていた。


「ありがとう。島永君のお陰で助かったよ。でも、熊本先生には気をつけて。私が思っているだけなんだけど、あの人は怖いよ。あまり頼りすぎない方が良い気がする」


「・・・そんなこと言う人なんて、幸生さんくらいじゃないっすか?」


島永君は肯定とも否定とも捉えられない表情で私を見つめた。


「まぁ、変なことしなきゃ目をつけられることもないだろうけど」


「それも『お願い』っすよね」


「ん?うん」


「なら、俺の願いも聞いてほしいです。絶対に、幸生さん1人で危険な道を選ばないで下さい。俺的には、種類が違うけど幸生さんの方が怖い。先輩は1人だとあっさり死にそうっすから。身の安全を最優先して下さい。人とか、道具とか、俺とか・・・遠慮なく使い倒していいんで」


島永君は感情のこもった本音で、私の身を案じた。彼は後輩のクセに先輩である私を見下してからかってくるけど、何だかんだ後輩の中で一番私に懐いてくれている。そして今もこうやって、私のことを考えて心を痛めて・・・。


――それだけで、私は幸せ者だ。だからこそ私が、私をちゃんと守ってあげなきゃいけないんだ。


「分かった。約束するよ」


「げ」


島永君はノートPCを閉じて、嫌そうな顔で呟いた。一瞬私に対して言ったものかと思ったが、視線が合わない。彼の視線の先は、私の後ろにあるようだった。一体何を見たんだろう。


「?」


私が振り返ると、遠慮がちにドアが開いた。


「急にごめんな。幸生ちゃんの友達に聞いたら、ここにおるって・・・幸生ちゃん今大丈夫?」


「片井先輩・・・」


まさかそっちから来てくれるとは。先輩は、可哀想な人を見るような目で私を見た。


「沖谷先輩。俺林先生のところ行ってきます。先輩も、話があるならここでしてくれていいんで」


「ほんま?ありがとう。すぐ済むけん」


「はーい。ではどうぞごゆっくり」


「あ・・・」


 止める間もなく、彼は私をおいて出ていった。私は渋い顔で片井先輩を睨む。


――何でいつもノータイミングで現れるかなぁ!

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