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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第33話『猫なら猫らしく』

暴力描写有り。冒頭のみ第3者視点です。

第33話『猫なら猫らしく』


――なん・・・殴られた・・・?でも、痛くない・・・なのに、体が、動かん・・・。


「にー」


黒猫は座ったまま、鳴くだけだ。男は唯一動く右手に精一杯の力を籠め、傍に落ちたスマホに手を伸ばそうとする。だが、あと少しのところで、男の手は誰かの靴に踏み潰された。


男は悲鳴を上げるが、声が出ない。大声をあげているつもりなのに、自分の声が聞こえなかった。黒の皮靴は執拗に先程男が折り畳みナイフを握ろうとした手を踏み、アスファルトに擦り続けている。まるで煙草の火を踏み消すかの如く。


――痛ぇ・・・誰か・・・何で、俺が、こんな目に・・・。アイツに、沖谷幸生に関わった、からか・・・。何で、なんで・・・。


「そんなこと言わずに、構ってくださいよ」


無言で手を踏んでいた人物がとうとう口を開く。しかしその声は、男の耳にしっかりと届いたにも拘らず、男か女か、若人か老人か・・・判別することが出来なかった。頭はアスファルトにくっついたまま動かせない。男は最期まで、自分を襲った犯人が何者なのか――見ることは叶わなかった。


「全部いいようにしなくちゃならないんです。貴方がいると、悪いようになってしまう。だから、こうするしかないんです・・・全ては、主のために」


――死にたくない。死にたく・・・。


その言葉を聞いた瞬間、男の意識は闇の底に落ちた。


(=^・・^=)

数日後。バイトから帰った私は、歌いながら洗濯物をたたんでいた。窓は勿論開けたままだ。あとちょっとで7月になるけど、まだいける。まだクーラーつけなくても夜風だけで寝れる。大丈夫。


「ロメイン!ロメイン!皆のヒロイン!ヴァーゴもびっくり!おいしいロメイン~」


「にー!にー!」


急に合いの手が入り、ノリノリで歌っているのが恥ずかしくなってきた。


「起きてたんだ・・・」


先程まで寝ていたニャルラはベッドから出て、伸びをしている。


「ねぇ、実は今日、これ買ってきたんだけど、起きたんなら遊ぼうよ」


私はレーザーポインターを手に取った。


「懐中電灯にもなるし、ブラックライトにもなるんだって!しかもビームは8種類!最初は大学にあるレーザーポインター借りようと思ってたんだけど、家にプロジェクター置いてるなら使い道あるかなって。多機能のやつ買っちゃった」


スイッチを押すと、フローリングに赤いお花が映る。照明の明るさを落としても楽しいかな・・・。ニャルラの周りをレーザーポインターで照らしても、私の期待を裏切るかのように全く食いついてくれない。挙句の果てには欠伸をかまし、その場に寝ころんでしまった。


「何だって・・・。私が猫に唯一やってみたかったことだったのに・・・!」


ガクッと膝をつく。これだから猫は!散歩もいらないしお手も伏せもやってくれないしフリスビーを投げたらジャンプして口でキャッチ!とかもないんだ!


「・・・ニャルラって、もっと猫っぽいことできないの?」


「に」


拗ねた口調で洗濯物をしまっていると、ニャルラが耳をピンと立てて立ち上がる。


――おっ、もしやレーザーポインタータイム来た?来ちゃった?


作業を中断し、はやる気持ちでレーザーポインターを握ると、ニャルラは無言で机の上に飛び乗り――口でティッシュを抜きまくった。


「にーー!」


「あーーー!」


一枚、二枚と引き抜かれ、最後は塊で取り出された。そしてその上にどっしりと座り、箱ティッシュが無事死亡した。


「それでもしそのティッシュをニャルラが食べたら困るのは私なんでしょ!?」


慌ててティッシュを集めていると、ニャルラが今にもスマホの電気コードを齧ろうとしていた。


「ノ―――!」


スライディングでコードを守ると、ニャルラは高くジャンプした。コードの無事を確認する間もなく、ニャルラはその先にあるカーテンに爪を立て、ズタズタに引き裂いた。


「はぎゃ―――!」


それからもニャルラの悪行は続いた。飲みかけの水をラグに零し、電子レンジの電気コードを甘噛みされ、乾きたての服の上に転がり毛をまき散らした。


「分かった・・・分かった。ニャルラは真の猫だよ・・・完璧に理解した。生意気言って本当にすみませんでした」


半泣きで土下座すると、ようやく洗濯物からどいてくれた。ご褒美にローズマリーを食べさせる。最近、ニャルラのためにローズマリーとカモミールを育て始めた。植物を育てるなんて小学生ぶりだったが、やってみると結構楽しい。基本部屋干し派だから必要性を感じなかったけれど、ベランダ付きの物件にしておいてよかった。


――知性があるからか、本当に噛み千切ったりしないし、家具に傷をつけたりもしないんだよなぁ。それにニャルラの毛が落ちるところも初めて見た。


服の上にコロコロをかける。ふと気になって、ニャルラの短くて黒い毛をつまんだ。


――何かの検査に回したらどうなるんだろう。こう・・・宇宙人を研究している施設とかに渡したら・・・。


「にー」


「えー!?」


邪なことを考えていたのがバレたのか、私の手と服からニャルラの毛が消えた。


「やっぱニャルラだ!猫じゃない!ニャルラっていう生物だ!毛が落ちない猫なんて猫じゃない!アッ違いますホット便利でいいですね。やめて!これ以上カーテンをボロボロにしないで!」


――もうカーテンのライフは0よ!ただでさえ安物なのに!


激おこぷんぷんニャルラによって、我が家のカーテンはレースごとおじゃんになった。


「まぁ・・・サイズ測らずに買ったやつだから裾足りてなかったし。いつか遮光性の高いものに変えなきゃとは思ってたんだよね。まさかニャルラはそれも見越して・・・」


『〇』


後日、20分かけて3駅先のインテリア用品店までカーテンを買に行った。ニャルラは家を出る直前までレンタカーを勧めていたが、私が1年以上車を運転していないことを伝えたら、大人しくカゴに乗った。未来予知でもしたんだろうか。



おまけ 『もしレンタカーでカーテンを買いに行ったら』


「初心者マーク!これさえはっとけば多少無茶しても許される!皆優しくしてくれる!魔法のアイテムなのさ!」


「に・・・(不安)」


「『まもなく、右方向です』」


「右と。(左のウインカー点滅)」


「にーー!」


「やべ。ごめん左利きなもんで・・・」


(=^・・^=)

「あっここで曲がるの!?通り過ぎちゃった・・・で、ここで左・・・車線変更しなきゃ・・・オレンジの線って跨いでいいんだっけ」


『×』『×』『×』


「車入れてくれないよー!左行けないよー!うわーーん!」


「にー!」


「バック駐車・・・一番苦手なんだよなぁ。でもこの車パーキングアシストシステム搭載してるしいけるか・・・」


『△』


「いやどっちよ。まぁ何事もチャレンジ!」


「『ピーピーピー!』」


「うっ・・・もう一回・・・『ピーピー!』いや、これならいける気が・・・『ピーピー!』」


「にー」


「無理だ・・・バック駐車ムズ・・・大人しく前向き駐車するか・・・」


『〇』


(=^・・^=)

「あ、あれ。エンジンが入らない?鍵回してるのに・・・壊した?」


「ニ!?」


(原因調べ中)


「・・・あ、ニュートラルのままだった。」


「にー!(怒)」


(=^・・^=)

「弱くて~ごめん!ヘラって~ごめん!酔ってて~ごめん!それでもI!MY!ME!己を~」


「にー!にー!(車線はみだしアラート鳴る)」


「うわーいつの間にめっちゃ寄ってた!しかもトラックで前が見えないー!そんで後ろもカーテンで見えないー!」


「にーーーー!」


(=^・・^=)

(予知終了)


「に・・・(汗)」


「今日は休日だから車多いし・・・また平日に行こうよ!海とかどう?」


『×』


「何で!?あんなにドライブしたがってたじゃん!」

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