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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第31話『佐古学園、マジサイテー学園』

第32話『佐古学園、マジサイテー学園』


ボタンを押した人は『おっ、丁度エレベーターがこの階で止まってる!基本1階と7階なのにラッキー!って開けたら人いたんだけど―!しかも何で後ろ向いてんの?』と思ってるだろう。ヤ、ヤバすぎる・・・。頼むから私の後ろにいる人が1人だけであってほしい。


しかし、数秒経っても誰かが乗る気配はない。相手もビビッて固まってるとか・・・有り得るな。横目で確認しようとした瞬間、フードを掴まれてエレベーターの中から引っ張り出された。


「ぐえっ」


「にー!」


――この乱暴さ・・・もしかして篠木?まさか()()来たの!?


バランスを崩して倒れるも、すぐに立ち上がる。篠木は以前よく分かんない理由で佐古大に来たという前科がある。あの時も散々好き勝手やってて、凄く疲れたんだよな。


しかし、その予想は外れていた。私の目の前には、篠木のような黒髪で篠木と同じくらい背が高く、篠木のように目つきが鋭い。そして篠木が普段来てそうな服を着た男性・・・篠木との共通点が多くても全くの別人がそこに立っていた。


――誰?


「・・・」


「・・・」


失礼な人は私を睨んだまま、何も喋らない。私は呆けた表情で彼を見ていた。エレベーターの扉はとっくの昔に閉じられ、ニャルラを乗せたまま既に5階まで上昇している。


――まぁニャルラなら心配いらないか。それよりも・・・。


(じゅん)!お前はえーよ!」


「・・・」


「!」


急に人が現れて、驚きの余り肩が跳ねる。


私の後ろ――エレベーターの横にある階段から、膠着状態を破ってくれる人が参上した。金髪の男性はじゅんと言う名前の篠木もどきと知り合いらしく、自分を置いて先に行ってしまったことを怒っていた。


当然、私は金髪の人とも面識がない。今分かっていることは、この篠木もどきが女にも手をあげる危険人物ということだけだ。今すぐ逃げなきゃ危ない。


――幸いあの人達の向こうに学生相談室がある。腐っても先生なんだから、ここは素直に頼った方が良さそうだな。走ってもすぐ捕まりそうだし。


「・・・失礼します」


コソコソ何か話している2人に軽く会釈をし、そのまま相談室に向かおうとする。


「待て」


「ぐっ」


再び篠木もどきにフードを掴まれた。もう大学でフードがついてる服着るの止めようかな・・・。


「だから止めろって!ごめんな。大丈夫?」


「いえ・・・あっ、足が滑った」


正直金髪の先輩に謝られるより涼しい顔をしたアイツの頭を下げさせたいが、今は彼の足を踏むだけに留める。


「テメェ・・・」


「い、1回で許してあげます!こっちは2回首絞められましたけどね!」


「淳!今は耐えろ!な?」


額に青筋を浮かべた彼に対抗すべく、金髪の先輩を盾にして喚いた。


――今は、って・・・信じてなかったけどこの先輩も十分危険だな。


「それで、私に何か御用でしょうか」


私は退路を確保し、2人を見る。篠木もどきは理性をかろうじて繋ぎ止めたようだ。腕を組んで私を睨みつけている。私なんかしたのかな。思考を巡らせていると、金髪の先輩が口を開いた。


「あぁ。あのさ、大杉由衣・・・大杉さんといつも一緒にいる子だよね」


その言葉を聞いた瞬間、私が持っている情報が飛び出してきた。それらが口から出る前に、そうですけど。と言うのがやっとだった。


――この人、片井先輩だ。髪色が変わってたから気づかなかった。そいえば、由衣ちゃんが『金髪も推せる』ってはしゃいでたっけ・・・興味な、すっかり忘れてた。ならこの篠木もどきは、この前すれ違った時にいた連れの人・・・。熊本先生が最後に言った『かたい』は片井先輩のこと・・・?それと、先生繋がりで『じゅん』ってまさか。


――『経営学部3年の浦本君って知ってる?浦本淳君』


全てが点と点で繋がった。この間も表では自己紹介を済ませ、会話が続いている。どうやら片井先輩は由衣ちゃんとコンタクトを取るため、私に接触しようとしたらしい。なんて手荒なんだ。


「直接聞くべきでは・・・」


「あ゙?」


「そんな『いいからとっとと送れや』って目されても!当然の意見では!?」


浦本先輩に凄まれた。この人が何故喧嘩腰なのかは分からない。この調子で熊本先生のミッションクリア出来るのかな・・・無理かも。


「・・・珍しいな。淳のこと怖くないん?」


片井先輩が意外そうに呟く。私が先輩方のことを前から知ってるってことはまだ言わない方が良いな。


「怖い・・・とかは無いです。ただ、何でオラついてるのかが分からないだけで」


「ブハッ・・・オラついてるって・・・」


片井先輩が吹き出す反面、浦本先輩の眉間のシワが深くなった。悪い悪い。と片井先輩が浦本先輩の肩を軽く叩いた。由衣ちゃんによると、groovyの仲良し部分も目の保養らしい。


「高校でもそうだったんじゃけど、大杉さんってかなり目立つんよね。男ばかりの佐古大にいたら余計に。直接聞きに行ったらすぐ噂んなって、本人にも迷惑がかかる。沖谷さんも可愛いし目立ってるけど、今みたいに一人で行動してる時の方が多いやん?だから聞きやすいと思って・・・」


だからお願い!と両手を合わせて頼まれる。普通なら、こんなカッコイイ先輩にそんなこと言われたら断れないよー。となるのが王道パターンだ。私もモブらしく、ヒロインである由衣ちゃんの為にも橋渡し役を勝って出なければ・・・。


「すみません。それはできません」


「・・・何で?」


考えるよりも先に断っていた。勿論由衣ちゃんの恋は応援したい。しかし、どうしても熊本先生の忠告が頭から離れない。だって出会いから不自然だった。


――『かたいには気をつけて』・・・そのかたいが発音にも合致する片井先輩のことだったら、由衣ちゃんに紹介するべきじゃない。


私はgroovyを――片井先輩のことを何も知らない。ファンの子達には悪いがぶっちゃけ今の時点で先輩方の印象はかなり低くなった。まだ豹変していないからただの直感ではあるけど、groovyの裏の顔は絶対にヤバい。本能がそう告げている。


安易な選択が、後に己の首を絞めることになるかもしれないんだ。私だけならまだいいが、今回は由衣ちゃんのことも私が望んでいない形で巻き込んでしまうかもしれない。それだけは駄目だ。


「嫌なんです。由衣ちゃんを紹介するなんて、私には無理です」


「だから何でなん」


片井先輩の口調に苛立ちが混ざる。この人も沸点低そうだな。


「それは・・・それは!」


――マズいマズい。何か、由衣ちゃんを売らずにこの場を切り抜けられる手は・・・。


「私も片井先輩のことが好きだからです!」


数秒の静寂が2階エレベーターホールを支配する。3人とも真顔で固まっていた。私はたった今発した言葉を反芻すると、心が急速に冷えていくのを感じた。


――何を言っているんだ、私は・・・。人生初告白だぞ・・・(嘘)だけど。


「え・・・そうだったん?失礼じゃけど、沖谷さんって今まで俺に告白してきた子と比べると大分テンションに差が・・・」


「嘘くせー」


す、鋭い・・・いや、なんて失礼な先輩方なんだ。乙女の告白を嘘呼ばわりするなんて。あぁはなりたくない。ならないぞ。


――勇気を出したこの告白!不発にするワケにはいかない!


「でも、好きなんです!返事はいりません!私自身の問題ですけど、他の女子を紹介なんてできません!今は!」


怪訝そうな表情を浮かべている片井先輩は、どうやらこの告白に半信半疑のようだった。流石モテる男は違うな。


「ありがとう。すげぇ嬉しい」


「いや、あの・・・これからも応援してます!頑張ってください!」


駄目だ。全く演技に身が入らない。思い込み不足だ・・・それでも、私のペースで進んでいるうちに、このままパッションで押し切る!


浦本先輩を見ると、口を半開きにして『俺は何を見させられているんだ』と顔に書いてあった。私も去年告白の現場に居合わせるという経験をしたため、今だけ浦本先輩に深く共感できた。


「それでは!」


羞恥に耐えかねて逃げ出すフリをしてこの場から去ろうとしたが、片井先輩にあっさり腕を掴まれた。


「・・・実は俺もなんよ。大杉さんの件は、沖谷さんと話す口実に利用した」


「え?」


「俺も、前から沖谷さんのことが気になっとって・・・」


私の右手が、片井先輩の両手で包まれる。


――イケメンの真剣な表情ってやっぱ絵になるな・・・じゃなくて。この流れは、まさか。


「俺と付き合ってください」


――は?な、な・・・。


もう一回言おうか?と熱っぽいまなざしで見つめられたが、かろうじて首を振ることに成功した。これ以上爆弾を投下しないでほしい。


「沖谷さんが好きです。俺と、付き合ってください」


――な、なにぃぃぃ!?嘘くせぇぇぇぇ!


話聞いてねーじゃん!何言ってんだこの人は!

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