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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第12話『ハンパ開催』

第12話『ハンパ開催』


佐古大学経営学部イベントサークル『SIG』。結成初期はメンバー全員で居酒屋に行ったり、人生初体験のカラオケオールをしたり、打ち上げで焼肉屋に行ったり、SIG部屋でお泊り勉強会を定期開催したりしていた。


しかし8人もいれば当然何グループかに分かれる。次第に固定で集まれるメンバーが減っていき、1年の冬頃には「病み会」、「多忙」、「麻雀」の3グループ(名前は私が勝手につけているだけ)に分裂していった。バラバラになったといっても仲違いしたワケではない。イベント運営や企画会議ではちゃんと集まるし、偶に混合で飲みに行くこともある。


とは言え、私は最後の皿をスポンジでこする。12期生のいざこざ話をあちらこちらで聞く限り、私達11期生はまだマシな方だろう。まだメンバーが決まってひと月と経っていないのにも関わらす、ヤンチャな子達が羽目を外しすぎて厄介な事件へと発展しているらしい。1年生歓迎会も無事成功したことだし、これがきっかけで皆が仲良くなってくれたらいいな。それでも・・・。


「この調子じゃ、何人かはSIGを見限って消えちゃうんだろうな」


零れた独り言は、食器用洗剤の泡と共に排水溝へと流れていった。


皿洗いを終え、タオルで手を拭く。考え事をしているとあっという間に時間が過ぎるな。喚起のために開けておいた窓を閉めようとリビングに戻ると、見計らったかのようにニャルラが散歩?から帰ってきた。


「おかえりニャルラ」


「にー」


施錠してカーテンを閉める。ニャルラは真っ直ぐクローゼットに向かい、ニーニー鳴き始めた。


「あぁごめん。今日は朝言った通りななちゃんと沖谷君が来るからベッドはクローゼットの中に」


言葉が途切れる。ぐりぐりと扉に顔を押し付けていた次の瞬間、液体のようにちゅるんとクローゼットの隙間に吸い込まれていった。


「液状化した超生物みたいなことするじゃん。さては今私が読んでる小説勝手に読んだな?」


冷静にツッコんでいく。アンビリーバボーな光景であるが、ビビりすぎてもう慣れた。私に害があるワケじゃないしね。


戸をノックするが返答はない。断りを入れてから静かに開けると、トイレベッドの上で寝息を立てていた。私は脱力して扉を閉める。この黒猫ならざるものは本当によく寝るな。


 ――ピーンポーン。


「ひょあ!!」


肩が跳ねる。何度聞いても一向に慣れない。来客が来ると分かっていても、このチャイム音が部屋に響く度私の心臓に害をなしている。


「やーいらっしゃい」


「おじゃましまーす」


「邪魔するぜー」


「荷物冷蔵庫に入れちゃうね」


2人が手を洗っている間、お酒や牛乳、卵などを冷蔵庫にしまう。なんで味噌ダレがあるんだろう・・・。今日ハンバーグ作るんだよね?隠し味?


「んじゃ俺米研ぐわ」


沖谷君が腕まくりしてキッチンに立つ。


「タニ君これ使って!」


ななちゃんが手に持っていた袋を投げた。何かは綺麗弧を描き、沖谷君の足元数メートル手前にボテっと落ちた。


「下手くそ!!」


しっかりななちゃんの投球を評価していくう。袋を見ている彼に近寄って覗き込むと、それは

『初心者でも簡単にできる!生地から作れる手打ちパスタ』だった。瞬時に状況を理解した私達は顔を見合わせる。


「これが噂の・・・」


「友達からもらってさー。でもあたし一人じゃ大変じゃん?パスタなんて作ったことないし」


「俺だってねぇわ!」


「右に同じ」


「今日は手作りハンバーグと手打ちパスタパーティー!皆はりきっていこう!」


「嫌じゃー!」


「あれ。デジャブ」


ななちゃんに詰め寄って文句を言いまくっている沖谷君を尻目に作り方の手順を読む。ここに来てる時点で覚悟は決まっているだろうに。ツンデレだなぁ。


――パスタって、へぇ・・・こねて休まして伸ばして切って茹でたらできるんだ。もっと難しいものだと思ってた。


「えっ!?」少し大きな声が出る。


「まさか賞味期限切れとる!?」


残念だ沖谷君。私は的外れの期待から目を逸らす。どうにか逃げ道を探そうとする哀れな彼にこれを言ってしまうのは酷だけど・・・どん底に突き落とすのもまた一興だなぁ。


「ななちゃんこのパスタ・・・調理時間約1時間って」


「は?」


現在19時4分。私の空腹ゲージは20%を切っている。2人は知らないけど、今からパスタとハンバーグ作りにとりかかるとなると・・・。


「そう!だからちゃっちゃとこねて伸ばしてゆでよ!ハンバーグは焼いてさ!」


 

ごねている場合では、ない。おなかへったおなかへったおなかへった。


「じゃあ私はハンバーグの準備しとくよ!」


「お願い!あたしとタニ君でパスタこねるけん。ここ使って大丈夫?」


「うん!」


ななちゃんはテーブルに新聞紙を敷き始める。工程に必要な道具――ビニール手袋ないからビニール袋で代用してもらおう。はかりもない。計量カップじゃ駄目かなぁ・・・とりあえずボウルと片栗粉渡さなきゃ。


「やるか・・・」やっと覚悟を決めたのか、沖谷君が大きく息を吐いた。


「やっと復活した」


「オメーちゃっかり楽な方に逃げやがって」


「そんなワケないじゃないかぁ~馬鹿だなぁ」


湿った視線から目を逸らし、沖谷君に道具を押し付けた。


――ちゃんとバレてた。ハンバーグは私に任せといてって!まだ一人暮らししてから1回も作ったことないけど、少なくとも不味いものができちゃいました。なんてことはないだろう。レシピさえあれば沖谷幸生に失敗の2文字はない。


「ハンバーグも不安になってきたんじゃけど」


「沖谷君、これ道具諸々。一部代用品紛れ込んでるけど何とか頑張って!」


「クレンラップで生地伸ばせってか!」


「私の家に麺棒なんてニッチな道具はない!」


実家でさえクッキーの生地伸ばすとき以外使ったことがないのに。何に使うってんだ。武器?


こうして私達は夕飯作りを始めた。料理する時はいつも声を発さず真顔で手を動かしているため、こんな騒がしい空間の中玉ねぎを炒めたことはなかった。2人の掛け合いに吹き出して、たまに会話に参加する。一人では生み出すことのできない幸福が、1Kの空間を満たしていた。


一人でいる方が好きだけど、今も凄く楽しいな。2人はいつも私の幸せを生み出してくれる。このままずっと『病み会』で遊べたらいいな。まぁ、こんなこと素で言うのは恥ずかしすぎるから絶対に口には出さないけど。


一人暮らしと食通が揃っているため調理中は特にこれといったアクシデントはなかった。


私がタネを作るまでの工程を終えた後、パスタ係と役割を交代した。2人がタネを形にしている間きし麺のようなパスタを茹でることに徹した。ちなみにあと茹でるだけの麺を見た時色々察した。2人がパスタ生地と格闘しているシーンはたまに見ていたけど、やっぱり機械には敵わないみたいだ。包丁も家庭用の三徳包丁だし。


「おおー!粉だったものがちゃんと麺になってる!」


「さっちゃん。出汁の素ある?」


「いやないけど・・・」


「なら麺つゆ」


「あ、それならある」


「よし!」


何が?私は顔をしかめる。


「いや、今からパスタ食べるんだよ?ソースはカルボナーラかミートソースどっちがいい?」


レトルトのパスタソースを掲げる。


「さっちゃん現実味見ろ」「ミートソース!」「分かった」「おい!」


「タニ君まだ分からんやん!ソースかけたらこれがパスタになるかも」


「そうだよ!このうどんをパスタにしたげよう!」


「・・・言ったな?」


あ、ヤバ。咄嗟に口を閉じたが遅かった。沖谷君が水を得た魚のように追撃してくる。


「お前言ったな!?ついに言ったな!俺はうどんなんて言ってねーから!」


「さっちゃん?」


ななちゃんが苦笑いを浮かべる。わわわわわ大変だぁ。


「もうとっとと仕上げよ!めぇーっちゃお腹すいたぁ」


時計を指さすと19時半を少し過ぎた頃だった。


「嘘やんもう1時間半経っとる」


私はあらかじめ沸騰させていた鍋にパスタを全部入れる。その間2人はタネこねこね作業を再開した。

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