第112話『バット・ビコーズ・クイップスター』
第112話『バット・ビコーズ・クイップスター』
可愛いは正義。私は照れを隠すように俯くが、大きな手に頭部を掴まれ強制的に上を向かされる。
「・・・俺の時と反応違くね?」
「は?当たり前じゃん。楽村君は倉嶋さんの可愛さをよく知ってるでしょ?ぱっちりお目目に白い肌!手足も枝みたいに細くて声も滅茶苦茶可愛い!そんな彼女があーんのリクエストだよ!?緊張しないワケがないじゃん」
「さ、幸生ちゃん・・・」
何を当たり前のことを!といった心情を顔に書くと、楽村君の表情が益々険しいものとなった。手に力が加わり私の頭皮が悲鳴を上げる。
「チッ・・・沖谷が女子に免疫ないの忘れとった」
「秀悟君!?」
「い、痛い痛い痛い!私の頭はボールじゃないよー!」
「ラーク。火の近くではやめとき」
「すみません」
――ひ、東リーダー・・・先輩。火じゃなくて私の方を心配してほしかったな。
「やっぱお2人ってめっちゃ仲良いですね!」
「うぅ・・・どこが?」
半泣きで牧内さんを睨む。こっちは危うく食べかけの玉ねぎを落とすところだったんだぞ!
「さっちゃん先輩。僕にも同じのやってください!」
「はーい。あ、でもトマトもう無いや。どれでし痛たたたた肩!肩!」「手懐けんな」
焼く係を東先輩に託した楽村君が、ドス黒いオーラを纏って私の肩を砕きにかかる。万君は笑って「冗談ですよー」と言って離れていった。
――折角万君とも距離が縮められると思ったのに!
「あー楽村?さっちゃんはこういう子なんよ・・・」
「知ってます。沖谷はあーんも間接キスも抵抗なくやれるタイプよな?」
黙って頷く。何故藤脇先輩は可哀想な子に向けるような目で私を見てるんだろう。
「だってただの給仕だし・・・だから何?って感じ・・・」
「割り切んの上手じゃな」
「ヤキモチ・・・」「でも先輩には・・・」「自覚ない・・・」
1年生ズがバーベキューそっちのけでひそひそと内緒話をしている。嫌な予感しかしないぞ・・・穂奈美ちゃんだけ仲間外れにしていいのか。
「あの後輩どうなっとん」
「後輩・・・島永君のこと?」
肉が焼ける音に紛れ、楽村君が小さな声で話し始めた。その驚きの内容に思わず苦笑する。なんて島永君らしいんだ。
4番勝負で煽りあう私達とは別で、代表者同士もしっかりメンチを切っていたそうな。
『楽村さんって、幸生さんの元クラスメイトなんですか?』
『・・・そうじゃけど』
『へぇー。なら・・・当時幸生さんとどの程度仲良かったのか、また教えてくださいね』
『(あ?何だコイツ)・・・あぁ。これからは、高校の時以上に仲良くなるつもりじゃけどな』
――流石島永君。どこを刺せば相手が反応するのかを熟知している・・・天性だなぁ。
「そんな攻防があったなんて・・・芹尾君いい子なのに」
島永君が短時間で倉嶋さんに『良い子そう』ではなく『良い子』という印象を獲得していることに驚きを隠せない。
「はは・・・後輩に代わってお詫びするよ。ごめんね楽村君。彼が失礼なことを・・・」
「沖谷が謝ることじゃなくね」
「・・・島永君はこういう後輩なんだよ。だからサマトレに抜擢されたんだ!」
彼が失礼な態度を取るのは今に始まったことじゃないけど。頼むから他所様の前ではお行儀よくしてくれ的なことを島永君に言うと、彼はあざとく頬を膨らませて楽村君を睨んだ。
「だって楽村さんには芙由香さんがいるのに、幸生さんとも仲良くしてるから・・・」
「あ、それ俺も思った。2人って付き合っとん?」
他意のない声色で直球をかます藤脇先輩に対して、楽村君はあっさり否定した。彼以外のKGLが若干居心地悪そうにしているのが気になるな。
「・・・絶対KGLメンバー間での裏事情が潜んでますよね」
「分かる。そんで多分これ・・・知っといた方がええやつじゃね?」
「そうかもしれませんけど・・・知ったら知ったで気まずくなっちゃいません?」
特に芙由香ちゃんと楽村君の関係についてだ。この2人の背景には普通でない事情が隠れているに違いない。
今度は私と島永君と藤脇先輩で内緒話を始める。図らずも眼鏡勢が同じバーベキューコンロに集ってしまった。そのことを万君に指摘され、一旦和やかな空気が流れる。しかも3人とも同じ黒縁だ・・・島永君の場合は複数所持しており、シチュエーションによってフレームを変えているらしい。
「はえーお洒落さんだね」
「当然です。好きな人の前ではちゃんとした格好したいんで」
彼の小馬鹿にしたような笑みを見て、先程無視された件という名のトラウマは次第に薄まっていった。単純に聞いていなかったか、聞こえなかっただけだろう。
――良かった。いつも通りだ。嫌われてはいないようで良かった・・・。
「なー前から気になっとったんじゃけど」
ほっと胸を撫で下ろすと、藤脇先輩が興味津々といった顔つきで私達を見てきた。
「芹生ってぶっちゃけさっちゃんのことどう思っとん?」
「幸生さんですか?好きです」
「「え??」」
私と島永君以外の声が見事に重なる。私は狙っていたカルビの焼き色を確認し、すかさず自分の皿に置いた。
「おい・・・よくこの状況で普通に肉食えるな」
「え?え?」「うそー!」「きゃーー!」
「・・・はぁ」
牧内さんと穂奈美ちゃんは頬を染めてはしゃぎだした。万君と藤脇先輩は目を白黒させ、東先輩は私の言動に引いている。混沌に巻き込まれ、堪らず溜息が零れた。
――どうしてこんな紛らわしい言い方をするかね。
「俺、幸生さんのこと好きですよ。今まで出会った人の中で一番」
「ありがとう。凄く嬉しっ!」
「・・・まさかこの場で返事する気?」
急に手で口を塞がれてしまい、言葉が途切れる。楽村君が今どういう感情なのかは見なくても分かった。
「ラ、ラーク先輩!折角さっちゃん先輩が答えようとしてたのに・・・!」
「んーんー」
「黙れ。今サマトレ中じゃろ。沖谷も何考えとん」
「んー!」
――なんかめっちゃ怒ってるんですけどー!あーあーもうド面倒臭っ!
「どしたん!そっちめっちゃ盛り上がっとるが!」
この事態をどう収拾するか考えているところで、隣のバーベキューコンロにいた残りのメンバーが参戦してきた。楽村君もこのタイミングで手を離してくれる。
「ぷは」
口周りが一気に涼しくなった。何してくれとんねんという意思表示をすると、私以上に強い目力で応戦されてしまい、サッと目を逸らす。
――めめめ目・・・!めっちゃ据わってた。
一瞬だけ見えた彼の瞳は真っ黒で・・・よろしくない感情がぐつぐつと煮えたぎって零れてしまいそうな感じがした。
「何の話してたんですか?」
「あーえっとな・・・」
事の発端である藤脇先輩が簡単に説明すると、先輩達と金子君の目が驚愕に見開かれた。
「えーマジ!?」「やるなぁ」「で、さっちゃんはどう返したん?」
「普通に嬉しいです。私は藤脇先輩や仲達先輩みたいな・・・後輩に慕われるような先輩になりたいって思っているので」
「「え??」」
「・・・ブフッ!」
愛想笑いで返すと、ずっと笑顔を保っていた島永君の表情がくしゃくしゃになった。
「あはははははははは!あー何も知らない人達踊らさせるの楽しー!」
「君は相変わらず良い性格してるよね・・・わざと言葉抜くの止めな?」
「・・・どういうこと?」
呆然とするKGLに向かって、島永君は半笑いで答える。
「幸生さんは俺が今まで出会った人の中でいっちゃん最高な先輩っすよ。こんなおもろい先輩他にいないでしょ。もー大好き。歩くネタ製造機。あ、勿論尊敬もしてますよ」
「今度は一言余計だなぁ・・・でも、ありがとう。これからも君みたいな優秀な後輩のお手本になるような先輩にならないとね!」
「それは手遅れ・・・」
「ん?」
「何か聞こえましたか?」
「――というワケで!」
私は皿と箸を傍にあったミニテーブルの上に置き、隣のバーベキューコンロに移動する。
「島永君はとっても優秀な後輩です。彼が私のことどう思っているのかなんて、藤脇先輩以外のSIGは全員知ってますよ」
「・・・マジ!?」
「うん」「はい」「見たら分かるくね?」「1年メンバーの中では常識ですよ」「え?逆に気づいてなかったんですか?」
私の発言を裏付けするかの如く、残りのSIGメンバーは平常運転だった。皆モリモリ肉を食している。私はまだ焼いていない野菜が入った皿(殆ど手をつけていない)をもらい、元の位置に戻った。
「マジかよ・・・」
「・・・お前も苦労しとんな」
自分だけ知らなかったという事実にショックを受けた藤脇先輩を、東先輩が慰めるように背中を叩く。2人はそのまま先生がいるテーブルの方へと向かって行った。
「ぼ、僕も先輩達のこと好きです!東リーダーは優しいし、小田副リーダーはいつも遅くまで勉強に付き合ってくれるし、きっしー先輩は面白い話してくれるし、金子先輩は趣味が合うし、ラーク先輩は神で、ふーちゃん先輩は料理上手で・・・僕も明日の8番勝負勝ってみせます!」
「「沐阳・・・」」
――それ、東先輩がいる時に言った方が良かったんじゃ・・・。
東「参加名簿見た時、沖谷さんのこと男じゃと思いよーた」
幸生「あぁ・・・(よくある質問その1だ)漢字だけ見ると高確率で間違われます」
小田「一応聞くけど、タニ君とは親戚?」
幸生「(これもまたよくある質問)あっちは駄目な方の沖谷なので違います。赤の他人なので一緒にしないでください」
東「バッサリいくが(笑)。嫌いかよ」
岸野(通りすがり)「それ沖谷君も言うとったで」
幸生「おい駄目沖谷どこだー!今日こそ呪ってやる!」(猛ダッシュ)
小田「・・・あの子も見た目と中身のギャップ激しいな」
岸野「ほんまそれ」




