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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第103話『つまらない勝負にするのは君達次第』

2番勝負『得点を予想しろ。ビーチバレー対決』 ルール


・1対1のビーチバレー試合。先に5点取った方が勝ち。

・残りのメンバーは1点ごとに、SIGは『安井が得点or失点するか』KGLは『金子が得点or失点するか』を予想。

・2番勝負の勝敗はあくまで『ビーチバレーで勝った方』予想の正答率が高かったチームには良い事がある・・・?

第103話『つまらない勝負にするのは君達次第』 


安井の勝利を疑っていないのはこちらも同じだった。最初のジャンプサーブを見た瞬間、この勝負は捨てるとの判断を下したリーダーは正しい。


――分かってたことじゃけど・・・捨て駒なんよな。俺。皆も俺が点取れんの分かってて失点って予想しとるし。次も同じじゃろうな・・・。


向こうのミスを願う以外、自分がポイントを取れる未来が見えなかった。それでも、取れそうなボールは息を切らしてでも拾うのは――彼なりの意地だった。


「ぐっ!」


金子は全速力で走り、フライングレシーブで相手のコートへ返した。


――負けるって分かってても、諦めるなんてダサいことできん・・・!本当は棒立ちのまま終わんの待ってたいけど、女子が見とる前でそんな姿見せたら終わりじゃろ!


彼をここまで動かしているのは他でもない。自分に注目している水着女子のお陰だった。同期の倉嶋や後輩の中で一番顔が良いゆるふわ系女子牧内は勿論、今回初めましての佐古学女子。サバサバ系金髪女子も大人し眼鏡茶髪女子もギャルっぽいベージュ髪1年女子も――タイプは違えど全員もれなく可愛い!


――俺的には金髪女子が一番タイプ・・・ってあのボールアウトじゃないん!?やべ届かね・・・!


「・・・っ」


「3ポイント目は安井君の得点!予想は・・・両チーム正解!」


「はぁ・・・はぁ・・・」


――やべぇめっちゃ疲れる・・・。俺ばっか動いとるが。


「意外と頑張ってんな」


「金子ー!あまり無理すんなー!」


「KGLがんばえー!」


野次に近い応援が敵からも味方からも飛んでくる。皆の言葉が、声色が、表情が、彼の勝負心を潰していった。疎外感が、誰にも期待されていない現実が毒となって身体を蝕んでいく。


――なんか・・・もうええわ。汗だくで頑張ったところで、点取れんし。十分頑張ったじゃろ。ここまでの実力差なら、女子も俺に同情する・・・。


ホイッスルの音が鳴る。4回目も安井サーブだ。金子は相手の顔すら見れず下を向き、汗を落とした。


「・・・」


――金子君・・・じゃったっけ。とうとう俺の方見んくなったな。


彼はきっと、自分がサーブを打った後もその場から動かないだろう。相手の戦意喪失を見た安井の表情が曇る。これは余興に近いレクエーションだ。この勝負で大切なのは、『チームで相談して一つの回答を決めること』だと彼は考えている。自分たちはただのおまけ要素。それでも――自チームの為に、対戦相手の為に自分が出来ることは何か。安井は目を閉じて深呼吸する。


「――え?」「は!?」「おおっ!」


「・・・ん?うわっ!」


――トサ・・・。


観客の声に思わず顔を上げた次の瞬間、金子の斜め上から放たれたボールがもの凄い速さで通過する。声を上げて尻もちをついたと同時に、ボールの威力は砂浜に吸収された。


「・・・えー。安井君が禁止していたジャンプサーブを行ったので、第4ポイントは金子君の得点です。そして、KGLは『金子君が失点する』に予想。SIGは・・・『()()()()()()()()』に予想したので、チームSIG正解!」


「よっしゃぁぁ!これで1点リードじゃぁ!」


「すげぇ!アイツほんまに失点しやがった!」


「・・・は?」


――なんで?わざと点落とした?つーかSIGの予想がなんで当たって・・・?


耳を疑うような結果に我を忘れて叫びだしたくなる。それは自分だけに当てはまることではなかった。この試合を観戦していた者達は皆、一様に驚きの声をあげた。特にKGLはこの結果に納得がいかないようで、審判である熊本に判断を委ねる。


「は、はぁぁぁぁぁぁ!?」


「談合したじゃろ!」


「せんせー!流石に今の結果はおかしくね?」


熊本は笑みを深めて人差し指を口に当てる。金子も熊本の方に意識がいっていたため気づかなかった。


「――はい。次金子君のサーブな」


「うわ!あ、ありがとう・・・」


――いつの間に・・・。近くで見ると身長と顔面の作りの差エグ・・・。


安井がコートから抜け出して、金子の代わりにボールを拾いに行っていた。安井からボールを受け取った金子は当然、疑問を口に出す。


「何でさっき、わざと点落としたん。事前に決めとったとか?」


「・・・そんなことせんよー。ただちょっと俺が嫌じゃっただけ。金子君がめっちゃ本気でやってんのに、周りうるせーなって思ってたらこう・・・体が勝手に動いたんよね」


「なんそれ・・・」


「俺も分からん」


2人してふっと笑みが零れる。熊本はそんな2人の様子を微笑えんで見守っていた。


「この2番勝負。実は1番勝負より穴ありまくりのルールでね・・・牧内(まきうち)さん。この2つの勝負に共通する必勝法って何か分かる?」


急に名指しされたKGL1年の牧内は、ぱっと顔を上げて視線を彷徨わせる。そして自信なさげに回答した。


「言い方は変えますけど、1番勝負は代表者しか見れないお題を回答者と共有することで、2番勝負は代表者と回答者の答えを一致させること・・・?」


「そうだね。事前に通しやサインを決めておけば容易に勝てる。事実、1番勝負で牧内さんは()()()使()()()()()()()()()()()()、爆速でクリアした」


「・・・手話?」


「ちょっテディ先生!?何でバラすんですかまだバレてなかったのに!」


『手話』という言葉にSIG全員の目の色が変わる。芝崎が体を張って1番勝負を攻略しようとした中で、相手は手話という通しを使って楽に勝とうとしていた・・・この事実を彼らが黙っているはずもなく、SIGは一斉にKGLを責め立てる。その矛先は審判の熊本にまで向かった。


「だって・・・『8番勝負に勝つために全員で手話を勉強しました』なんて言われたら、その努力を無下にもできなくて」


――確かに、一朝一夕で取得できるものじゃないしな・・・。というか8番勝負に臨む熱量がこっちと違いすぎる。


幸生は熊本先生の言い訳にほんの少しだけ同情した。


「『勝つためには何でもする』その心意気は評価したいと思ったんだ。時に悪知恵を働かせるのも、社会を生きる上で必要になってくるしね」


「先生がそんなこと言ってええん」「そうだそうだーそれでも教師かー」


「昔と比べて大分改善されていってはいるけど、それでも今の社会は腐ってる。僕らが綺麗ごとばかり言っても、君たちの為にならないからね」


ねぇ竹村先生。と熊本は笑顔で彼に同意を求める。話を振られた竹村は、悲しそうに目を伏せた。


「それでも俺は、お前等に綺麗な部分を見せたい・・・。それぞれが納得して、好きな道に進めるようにしてやりたい」


「竹村先生・・・!」「俺等は真っ直ぐ生きます!」「いつも好き勝手やってすみません!」


SIG一同が竹村の言葉に感動し、日頃の感謝や謝罪のメッセージを送る。幸生は今後の展開を予想して、静かに島永の背後を取った。


「流石に相手チームによる妨害は看過できないけどね。あーあとこれを機に言っておくけど、不正行為や談合について僕らは言及しない。君らが気づけば禁止するけどね。だから1番勝負の勝敗は変わらないよ」


――ということは、これ以降の勝負もチームKGLは出来る限りズルをして、勝率を上げていこうとするワケで・・・。


熊本の言葉を理解した者達の顔が次第に曇り始める。森本が、嫌悪に歪んだ表情でぽつりと呟いた。


「2番勝負が勝ち確の時点で思っとったけど・・・クソゲーじゃが。勝負予想も、お互い同じ答え続きじゃったし」


「そこだよ!2番勝負も、予想する側が代表者の選択を事前に知っていれば安牌だ。まぁ今回は安井君がいるから一択だったんだろうけど・・・KGLは去年の反省を活かして、色々と小細工を仕掛けてきたようだね」


「頭使うとこ間違っとるじゃろ」


藤脇の冷静な指摘に、KGLリーダーである(ひがし)は歯を食いしばる。


「しゃーないじゃろ!おめーらみてーな低偏差値集団に負けっ」「おいおいおい言い過ぎ!分かった!イカサマしたのは認める!妨害は考えんかったけど・・・サインはもう使わん」


感情的になった東を、KGL副リーダーの小田(おだ)が手遅れになる前に止めた。ここで2番勝負の作戦会議中、彼らの話し合いを聞いていた竹村がやんわりとフォローを入れる。


「俺は2番勝負の代表者が金子君に決まるまでKGLを注視しとった。その間、金子君に何かを吹き込んでいる様子はなかったで」


「今回責めるべきはSIGじゃろ!どう考えても!」


竹村の証言を聞いた東が水を得た魚のようにSIGを追求し、KGLも疑いの視線を送った。熊本はこの混沌とした状況を楽しんでいるかのような口ぶりで話す。


「僕はSIGの様子を見てたけど、応援だけで特に誰も安井君に指示は送っていなかった。なのに何故、()()4()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のか・・・皆に教えてくれる?」


熊本は体をSIGの方へと向ける。糸目から見える瞳は鋭く、幸生は反射的に自分自身を抱きしめ――ようとしたい気持ちを懸命に堪えた。それをするということは熊本に、自分は後ろめたいことをしたと言っているようなものだからである。

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