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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第102話『人によってはマジで無理』

後半第3者視点です。

第102話『人によってはマジで無理』


SIGとKGLはそれぞれ円になって砂浜の上に座る。お題当てゲーム――これは以前別の研修でやったことがあった。一言で表すと、代表者1名がお題を確認し、他のメンバーにそれを当ててもらえるような説明をするゲーム。場合によってはカタカナ言葉使用禁止や、ジェスチャーのみで説明するなどの縛りが設けられることがあるが・・・今回はどうなんだろう。


「正解者は立ち上がって、全員が正解すればゲームクリア!問題は沢山用意したから、これ無理!ってなったらパスしてもOK!回答者からの指示は極力ナシ。それじゃあ代表者の2人。準備はいいかな?」


「「はい」」


「頑張れ穂奈美―!」


「マッキーふぁいとー!」


1番勝負はお互い1年生女子を選んだ。妥当な判断だと思う。仮に負けても精神的ダメージが少なくて済むからだ。


このゲームで最も重要なのは他者に自分の考えを正しく伝える力――即ち意思伝達力だ。それに加え自分にとって表現するのが難しいお題が来た場合の選択も重要になってくる。諦めて別のお題に変えるか、それとも最後までやり通すのか。そういった判断力と決断力も問われるのだ。


しかも恐ろしいことに、このゲームは同時に回答者である私達のコミュニケーション能力も問われる。出題者の意図を汲み取る力――対人調和力。島永君は同期として、私達は先輩として。最小限の情報で彼女の意図を理解するべきだ。


――先生は指示はなるべくしないでって言ってたけど、1年生だし。多少のサポートを入れても大丈夫でしょ。


竹村先生(やっと起きた)がチームSIGのお題係兼審判を務める。このゲームで私がするべきことを念頭に置いて、私は穂奈美ちゃんの一挙手一投足に集中した。


「・・・!?」


――あれ。穂奈美ちゃんの顔が凄いことになってる・・・。


最初のお題を確認して戻って来た彼女は、とても苦しそうな表情をしていた。それは果たして緊張によるものか。それとも・・・と一抹の不安を抱くが、熊本先生の合図と共に、1番勝負がスタートした。


「・・・!」


「えっ」


何故かラッシュガードを脱いだ穂奈美ちゃんは円を抜け、真っ直ぐ海へと走り――勢いよくダイブした。


「芝崎ーー!!」


「穂奈美ちゃーーん!?」


穂奈美ちゃんはすぐに上がって、ずぶ濡れのまま戻って来た。ほぼ全員が彼女の奇行に面食らう中――


「あ、分かった」


――笑顔で手を挙げる人物がいた。


「ダイビング」


ある意味空気を読まずに挙手したのは仲達先輩だった。解答を聞いた穂奈美ちゃんは満面の笑みで頷く。竹村先生はすぐ正気に戻り、「正解」とよく通る声で言った。


「よっしゃ!」


「流石先輩です!飛び込んだ甲斐がありました」


「いやもっと伝え方あったじゃろ!」


全員のツッコミを背に、穂奈美ちゃんは次のお題を確認する。また渋い顔してるけど大丈夫かな。


「・・・」


「は!?ちょっ・・・!」


穂奈美ちゃんは突然島永君の眼鏡を奪い、装着する。彼女は私に背を向けたまま背中をピンと伸ばして正座し、本を読むジェスチャーを始めた。


「・・・え?さっちゃん?」


「正解!」


「はぁぁぁぁ!?」


私を含めた複数人の感情が一致する。んだこのクソお題!正解した藤脇先輩は腹を抑えながら立ち上がった。続いてのお題は英語でしか喋ってはいけないようで。彼女は持ち前の英語力を駆使してお題を表現する。


「刺身!」「はずれ」


「寿司」「はずれ」


「海鮮丼?」「正解」

 

運よく正解した私は立ち上がり、軽く伸びをする。1番勝負が始まってから何分経過したんだろうか。

――はー良かった。向こうはどんな感じかな・・・。


「え・・・」


私は安堵の息を吐き、チームKGLの進捗状況を確認する。すると何という事でしょう。こちらが5人残っている中、敵さんは残り1人まで減っていた。王手じゃん。


――これは、もう・・・。


「はいそこまでー!先に全員クリアしたのはKGL。ということで、1番勝負はチームKGLの勝利―!」


「よっしゃー!」


「・・・っ」


KGLが勝利の雄たけびを上げている様子を、私達は黙って見ていた。最後まで諦めずに頑張った穂奈美ちゃんが、悲痛な面持ちで俯く。


「すみません・・・」


「いや穂奈の所為じゃない!俺等がアホだった!」


「まだ最初じゃけぇ気にすんな。次取るぞ次!」


フォロー役は皆に任せ、私は竹村先生の方に向かった。


「先生。お題の紙見せてもらえませんか」


「おう。このゲーム、ちょっと芝崎には難しかったかもな・・・」


「うわ」


――こりゃ酷い。人によっては即死の内容だな。


『沖谷幸生をジェスチャーで表現しろ(会話禁止。彼女に背を向けてやること)』


『お題・・・海鮮丼(英文または英単語のみ使用可)』


『お題・・・クラゲ(ジェスチャーのみ)』


などなど、私でも表現できるのか怪しい激ムズお題ばかりだった。これを7問クリアしたKGL女子凄すぎるでしょ。


「おいSIGめっちゃ残っとるが!」


「実力の差でちゃったかぁー」


といった野次が着火剤となり、ほぼ全員の中にある闘志が音を立てて燃え始める。


「言ってろカンガルーがよぉ!」


「次お前等が負けた時のツラ見れるのが楽しみじゃコルァ!」


「さー続いて2番勝負はーー」


両チームの煽りを止めもせず、先生方は淡々と勝負を進行する。熊本先生はビーチバレーコートに置いてあった荷物を持ってきた。去年参加した人は、次の勝負がなにかを大方予想しているようで・・・。


「テディ先生道具見えとるで!」


「どーせ去年と同じビーチテニスじゃろ」


「と見せかけてのードン!」


熊本先生はビーチテニスの道具をタオルで覆い隠し、次にタオルを剥いだ時には――ビーチバレーボールに変わっていた。


「得点を予想しろ!ビーチバレー対決ー!」


「何ぃぃぃ!!」


主にKGLの皆さんの声がハモり、余裕の表情が驚愕に変わる。ビーチテニスの対策でもしていたのだろうか。


「だって去年と同じじゃつまんないじゃん。ということでルール説明!」


私とななちゃんは先生の話を聞かずに、先程の手品について喋っていた。そのことを呆れた様子の沖谷君に指摘される。私達は何を言っているのか分からない。という顔をした。


「いやだって・・・」


「バレーはやす君じゃろ。予想せんでも結果見えるわ」


「お前ら・・・」


2番勝負は安井君がビーチバレーをプレーし、私達がその結果を予想するといった内容だった。経験者の安井君はハンデとしてジャンプサーブ禁止。アタックはバックアタックのみ・・・などといった縛りがかけられていた。


「穂奈美ちゃん」


「はい」


「さっきの勝負、ほんま気にせんでええから。俺がここで勝つけー元気だして」


「・・・はい!頑張ってください」


「やす君!遠慮はいらん。完封しろ」


「え・・・あー」


藤脇先輩の命令を受け、安井君は気まずげな目線を私に送る。私はにこっと笑って、彼にボールを手渡した。


「折角だし。ウォーミングアップも兼ねてKGLに安井君の実力見せてあげたら?アタックでもサーブでもなんでも」


「やす君!あたしジャンプサーブ見たい!本番では見れんし」


「俺も俺も!」


「ええよー」


「えっ」


――ジャンプサーブって、そう簡単に打てるもんじゃないんじゃ・・・。しかもここ砂の上だし。


安井君は笑顔で皆のリクエストに応えてくれた。KGLが作戦会議をしている中彼はサービスエリアに立ち、ボールを高くトスした。軽く助走をつけてジャンプを――。


ドッ!――トサッ。


「「・・・」」


音だけ聞くと大したことないように思うかもしれないが、私達は安井君のサーブを見て思わず無言になってしまう。スパイクの威力やボールが向こうのコートに到達するまでの速さがもう・・・私の想像の範疇を超えまくっていた。


「先週サークルの皆とビーチバレーしとって良かったわ!これなら全然いけるで!」


「おー凄い凄い。やっぱ現役のプレーは違うね」


「流石じゃな」


竹村先生も熊本先生も、安井君のサーブを見て手放しに誉めた。向こうはようやく代表者を決めたようで、選ばれた男子は死んだ顔でネットの向こうにいる安井君を見つめていた。


――これはSIG圧勝だな・・・。


安井君の爽やかな笑顔を見て、参加者全員の意見が一致した。対戦相手が不憫でならない。


(=^・・^=)

2番勝負の代表者である2年生の金子は、何回目かの溜息を吐いた。


――いや無理ゲーじゃろこんなん。


今回のメンバーの中で唯一のバレー経験者という理由でコートに立たされた金子。しかし、経験者といっても小学生の時のクラブ活動のみで、素人よりは基本的な技術が身についているといった程度の実力だった。


――しかも1対1とか。地面が砂の所為で全然思うように動けんし!


安井が打ったフローターサーブを甘い球で返す。彼にとっては落とさずに返球するのが精一杯で。


――早く終わらせてくれ・・・。


 安井がレシーブしたボールが金子の手の届かない距離に落ちる。これで2点目だった。


「2ポイント目は安井君の得点!予想は・・・両チーム正解!」

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