第101話『沖谷幸生の0番勝負』
第101話『沖谷幸生の0番勝負』
「そうなの?」
――でもあの先生適当こくからなぁ・・・後で竹村先生に聞いてみよ。
勇気を出してもう一度楽村君と目を合わせると、彼は破顔一笑の表情で頷いた。
「沖谷がおるなら、もう少しKGL続けてみてもええかもな」
――それってどういう意味?って聞けねぇぇぇぇぇぇ!
「ん・・・まぁ私が力になれるなら。お互い頑張ろう?」
私の心情は早くも怪しい雲行きになってきた。まだ勝負すら始まっていないのに!
――大丈夫かなこのサマトレ・・・。
8番勝負はただのレクエーションではない。その後のリフレクションは勿論、メンバーのフィードバックも大切だ。私の主目的は勝負に勝つことじゃない。あくまで自身のリーダーシップ力の向上と自己分析の為に参加したんだ。あと就活に役立てるための材料集め。
――そうだ。恋愛に現を抜かしている場合じゃない。あれこれ考えず、楽村君とはあくまで『友達』として接しよう。下心もない、ただの男友達として。
ようやく先生たちがいるタープテントが見えてきた。私はそっと息を吐く。遠目で見る限り、皆はまだ海ではしゃいでいるみたいだった。
「なぁ。RICH交換せん?前のスマホお母さんに壊されて、俺のRICHも消えたんじゃろ?」
「あ、うん・・・」
――楽村君は男友達。ただの友達・・・あれそういえば。
ここで先日のはるまの会話がフラッシュバックする。
「そういえば、はるまが楽村君には彼女がいるって言ってたんだけど」
「は?あぁ・・・大丈夫。今はおらん」
楽村君は一瞬驚いたのち、すぐに頭を振った。恋人がいる異性のRICHを交換する気はない。連絡先くらいだったら大丈夫か。
「あ。おかえりー」
「にー」
――ただいまニャルラ。
「戻りました」
他の皆は?と聞かれたので黙って海を指差すと、熊本先生は呆れたように笑ってタープテントから出た。竹村先生は未だ夢の中・・・というか爆睡の域に到達している。いびきうるさっ。
「SIGの先生めっちゃ寝とるが」
「いやこれは多分・・・誰かがお世話したお陰だと思うよ」
先生の目元は冷たいアイマスクで隠されており、首には冷感タオルが巻かれていた。極めつけに静穏性が高いUSB扇風機とUSBアロマディフューザーが近くにセットされている。至れり尽くせりじゃないか。そりゃ眠りも深くなるわ。
「にー」
――ニャルラも一枚噛んでんのかい。
「誰かって・・・そんなんテディ先生しかおらんじゃろ」
「・・・そだね」
私は荷物を漁りながら、近くに寄って来たニャルラの頭をそっと撫でた。
(=^・・^=)
日焼け止めクリームを塗り、パステルグリーンのラッシュガードを着る。その間、楽村君の視線が痛くて仕方がなかった。
――うぅ・・・めっちゃ見られてる。RICH交換はしただろうがよぉ!
ニャルラもそんな彼を見てにーと鳴いた。シッ!見ちゃいけません!
「楽村君も日焼け止めいる?」
「・・・俺はええ」
振り向くと、彼はスマホを手に持ったまま首を振る。しかし、その体が一瞬硬直したのを私は見逃さなかった。今すぐ写真フォルダの中を改めたいところだが、私は涙を呑んで気づかないフリをする。
「にー」
――いやいやいやまさか楽村君が盗撮なんてするワケなかろう!
ねぇニャルラ。と期待を込めた目で見ると、私のスマホから不正解の効果音が流れた。
「――秀悟君!」
「・・・」
――わ。可愛い女の子だ!
タープテントの下で並んで座り、お互いの近況を報告し合っていると1人の女の子が浜辺から戻って来た。
――フリルがあしらわれたスカイブルーの水着×黒髪お団子ヘアなんて・・・ザ王道水着女子じゃん!楽村君もこの子の写真撮ったらいいのに!
「どこ行ってたの?急にいなくなって心配した」
「あーごめん・・・沖谷」
「はぁい!」
知らない女の子のあまりの綺麗さに、我を忘れてガン見してしまう。すると、急に話を振られ肩が大きく跳ねた
「何ビビっとん。あいつは俺等と同じ2年の芙由香」
「・・・初めまして。KGLの倉嶋芙由香です」
「く、倉嶋さん。初めまして。SIGの沖谷と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
すぐに立ちあがってペコペコとお辞儀をする。突然すぎて挨拶以降の会話が何も浮かばなかった私は、ぎこちない素振りで浜辺へと逃げた。
「秀悟君。あの子は・・・?」
「高校の同級生。前に参加名簿見た時、知り合いがおるかもって言ったじゃろ。そいつ」
「そっか・・・同級生」
『倉嶋芙由香』を中心とした恋愛相関図に、私の名が組み込まれたという事実に気づくのはそう遠くない話だ。
(=^・・^=)
「幸生さん。あれ何ですか?」
「う、うん。あれは・・・」
島永君に名前を呼ばれ、私は若干挙動不審になる。
――まだ見慣れないなぁ。
島永君の黒からホワイトグレーアッシュに染めた髪は、悪・・・非常に目立っていた。彼の名誉のために言っておくが、大変お似合いである。透明感が増して、よりミステリアスな雰囲気が出ていた。外国人みたい。
「・・・ビーチバレーコートだね。ご丁寧に線引いてあるや。あそこに置いてあるのはラケット・・・?」
浜辺にはビーチバレーコートが造成してあった。私はネットの下に置いてあるカゴに注目する。カゴからはみ出ている2本のラケット。ガットの部分が板になっているそれはテニスラケットより小さく、卓球のラケットより大きなものだった。
「あのラケット、何でガットの部分に穴空いてるんですか?」
「私も分かんない。初めてみるやつだ・・・安井君。あのラケットって」
「あー。なんじゃろーな?」
――ん?
近くにいた安井君を捕まえて聞くと、含みのある反応が返ってきた。私と島永君は思わず顔を見合わせる。
「いや、ここまで分かってるんだから隠さなくていいでしょ」
「知らん。って言わないんですね。ってことは知ってますね?」
私と島永君が眼鏡の奥の瞳を爛々とさせて詰め寄ると、彼はあっさり折れてくれた。他の皆には黙っておく代わりに、私達はある情報を入手する。
「去年の8番勝負・・・確か2回戦じゃったかな。ショーがビーチテニスしたんよ」
――青原君が?
「青原さんがビーチテニス・・・?」
去年の2番勝負の内容は、5点先取のビーチテニスだった。対戦形式はシングルス。ビーチテニスの公式ルールに加えて、代表者以外は1ポイントごとに自チームの得点になるか、失点になるかを予想するらしい。正答率が多かったチームは、昼食が少し豪華になったそうな。
「去年は惜しいところで負けたんよ。予想も全然当たらんくて」
「へー。もし内容が前回と同じなら、2番勝負は誰が出るんですかね」
2人が話している間、私は置いたままにしてある道具たちを眺めていた。
「・・・この道具は去年も最初からここにあったの?」
「いや・・・?なかったような。ごめん分からん」
私はそっかと言って顎に手を当て――唇の端を歪めた。
「――安井君。私と賭けない?」
(=^・・^=)
8番勝負が始まる直前、私達は座って藤脇先輩の話を聞いていた。
「去年俺と仲達と安井が参加した8番勝負・・・厳密に言えば引き分けじゃったんよ」
私は腕を組んで語るリーダー2人を冷めた目で見つめる。7番勝負までは勝ち越していて、最後の勝負で追いつかれたらしい。それを勝ちと言い張るのは何とも醜・・・強がりさんだ。
「去年俺等に足りんかったのが何か分かるか。ヒントは今回のメンバーに共通するもの」
「はい」
「はいタニ君!」
「女子のハンデ!」
最低か。
「あー。それも狙っとるけど、違うんよ」
狙ってるんかい!と心の中でツッコんでいると、隣に座っていたななちゃんが手を上げた。
「陰険!」
「あー惜しい!」
「惜しい!?」
つい口に出してしまった。絶対碌な答えじゃないだろ。
「はい」
「はい芹尾」
「リーダーが言いたいこと分かりましたよ――『煽り』っすね?」
「――正解」
指パッチン腹立つな。もしかして今回のチーム編成って・・・。
「今年は煽り要素を追加!『毒舌』の芹尾!」
「いぇーい」
『挑発』のタニ君!」
「ヘイヘイヘーイ!」
「『嘲笑』の穂奈美ちゃ・・・」
「あ?」
「しるぅ、『辛辣』のななちゃん!」
「・・・大丈夫そ?」
「そして事実陳列のプロ!さっちゃん!」
「不名誉な・・・」
事実は時に鋭い刃となって、相手の心に深く突き刺さる。私はたまに吞みの席でそういった言葉を真顔で零してしまうのだ。皆曰く、それが私らしくてツボなんだとか。
「当然皆に期待しているのはそれだけじゃないけん、1人1人が活躍できるよう――悔いなくやるぞ!」
「おーー!」
KGLを見ると、向こうは円陣を組んでいた。それに焚きつけられたのか、こっちでも円陣を組む動きになってしまう。
――はぁ・・・頑張ろ。
皆の熱量に心が冷めていく。私は疲れた顔で息を吐いた。
「はい注目。サマトレ恒例『8番勝負』やーっていくよー!皆心の準備はよろしいかー」
参加者の元気な声が響く。熊本先生は笑顔で持っていたタブレット端末の画面を私達に見せた。
「1番勝負は・・・『お題当てゲーム!』」
KGLリーダー「俺等まだ自己紹介してないんですけど」
SIGリーダー藤脇「時間設けずに始めるんですか?」
熊本「え?まだしてないの?海水浴中何やってたの?今サマトレ中ってこと忘れちゃった?」
参加者「「・・・」」
SIGとKGLの親密度が少しだけ上がった!




