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100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


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 第100話『大事なのは、今』

第100話『大事なのは、今』 


高校2年生の時同じクラスで、同じ図書委員だった楽村君。ハンドボール部に所属していて、はるまイチオシのイケメン男子だったということは覚えている。下の名前は忘れた。でもブロッコリーが嫌いで英語が苦手科目だったのは今思い出した。


――さっきから視線が痛いな。


我慢の限界が来て私も彼に目を向けると、ばちっと視線がぶつかった。


「・・・」


「・・・何?」


――コイツ。水着姿の私をジロジロ見てたことは一旦誤魔化すつもりか。


まぁ男ならしょうがないかと納得する。今の私は白地に花柄のオフショルダービキニで、下は同じ柄のショーツ付きミニスカートといった姿だった。私から見ても露出はそこまで無いし、おまけにでかいスミックマの浮き輪を太ももの上に置いていた。私はいつ如何なる時でもそこそこ可愛らしい見た目になるよう気を使っているが、女性としての魅力度は低めのスタイルだと自負している。


「・・・いや?楽村君背伸びたなーって。顔もちょっと大人っぽくなったし」


「それは沖谷もじゃろ。見た目はそう変わっとらんけど、雰囲気が・・・」


「おいちょっと待てぃ!」


――変わってないだと!?目ついてんのかコイツ!


わあわあと化粧を覚えて髪型と髪色とおまけで眼鏡も変えたと喚くと、それでも高校の頃とほぼ同じだとほざきおった。


「駄目だ・・・完全に思い出補正かかってる・・・」


「沖谷は・・・・・・まぁ、元から可愛かったし。でも雰囲気は変わったと思う。憑き物が落ちたって、今の沖谷の事を言うんじゃな」


「ソウデスカ」


ちょいちょい失礼な奴だな・・・そうだ。彼はそういう人だった。ようやく昔の感じを思い出して眉間にシワが寄る。


「俺は今の沖谷の方がずっといいと思う」


「ありがとう。多分楽村君がそう思うのは、私が一人暮らしを始めたからかな・・・」


「そうなん!?良かったが。沖谷のお母さんとは今どんな感じなん」


――あ。そうか。彼は・・・。


記憶の封印が解けてしまった。思い出したくないことを、思い出してしまった。


「覚えてたんだ。その節は大変失礼いたしました」


「俺も・・・ごめん。実は本気で怒ったんあの時が初めてなんよ。一生忘れられんわ」


楽村君は――はるまに次いで私の家族事情を知る人物だったということを。


――あぁ懐かしいな・・・。シーバーに話した内容よりもやや重めで話したら、滅茶苦茶怒られたんだっけ。


目を閉じて懐古の海に浸る。普段誰に対しても物腰柔らかで気さくな彼が、怒りを露わにして思いの丈をぶつけてきたのは衝撃的だった。だからこそ、私は二度と思い出さないよう忘却の底にしまい込んだんだ。


「仲は・・・良くはなってないけど、これ以上悪くなることも無くなった・・・と、思う。今のところは」


「ほんまに大丈夫なん?」


「うん・・・この前家族で投票しに行って、ついでに実家で晩御飯食べたんだけど・・・驚く程何も無かったんだ。めっちゃ拍子抜けだった」


楽村君は無言で続きを促す。私は両手を組んで俯き、真っ先にニャルラに報告した内容をぽつぽつと話す。


「お母さんと話すときは敬語だったし、妹とは一言も話さなかったけど」


「俺からしたらその時点で異常じゃけどな」


「投票所まで3人が横に並んで歩いてて、私はその3歩後ろを歩いて・・・」


「いや距離」


「私の分のご飯に使った食器が全部来客用のだったけど・・・どれも温かくて美味しかった」


「は?全部捨てられとったん?娘に対する扱いじゃないやろ」


「お母さんに怒られたのも、夕ご飯が出来るまで2階の物置の中でじっとしてたのを指摘されたくらいで」


「クーラー効いてない部屋で何しとん・・・」


冷静なツッコミからそっと目を逸らす。しょうがないじゃん。実際にあったことなのだから。


「まだ妹とは喋れないし、お母さんともまともに話せないけど・・・お母さんが怒鳴って喧嘩に発展することも、私が泣くこともなかった。私にとっては――中々の快挙だったんだよ」


「そうか・・・」


「お母さんは大分優しかった・・・というか、かなり我慢してくれてたと思う。それなら私も・・・このまま少しづつ、家族の仲を修復させたい」


――次は成愛とも話せたらいいな・・・でもまだ難しいか。お母さんと違ってアイツはまだ17歳のクソガキだし。


「あんま無理せんでもええんじゃね。また首絞められるで」


「・・・っ!」


反射的に首元を抑える。楽村君は失言に気づいたのか慌てて誤ってきた。私は無言で首を振る。


「・・・もう恨み続けるのは疲れたし、忘れたいの。過去に起こった出来事を眺めて、泣くのはそろそろ止めにしたい。今これからを変えていく努力をしようって思ったんだ」


事前に連絡が来た日からずっと、身構えていたのが嘘のように平和だった。向こうが歩み寄ってくれるのなら、私もそれに応えなければならない。


「私を傷つけたお母さんも、突き放すお父さんも、見て見ぬフリをして悠々と過ごす成愛も大嫌い。死ぬほど憎いけど・・・かつての『普通の親子関係』に戻れるなら、戻りたいの。だって――家族だから」


「・・・」


楽村君の苛烈な眼差しに耐えられず、私は浮き輪を被って海に飛び込んだ。


「ごめんね。折角の再会なのに湿っぽい話しちゃって。楽村君の話も聞かせてよ」


と言いながら私は泳いで海蝕洞の外へと出た。後ろで楽村君が何かを呟いていたが、あえて言及しないでおく。無駄な争いはこちらとしても避けたいからだ。


「・・・俺は、まだクソじゃと思っとるけーな。沖谷を苦しめる親と妹も、すぐ絆されて都合のいいところに転がるお前にも」


(=^・・^=)

近くの浅瀬まで泳ぎ、歩いてタープタープテントまで向かう。本日の冠頭内海は快晴。日射しはてっているが湿度はそこまで高くなく、定期的に爽やかな風が頬を撫でる。まさに絶好の海水浴日和だった。マジ感動。


「楽村君は去年のサマトレには参加したの?」


「いや。他に行きたい言う奴がおったけぇ、そいつに譲った」


――チッ。情報ゼロかよ。なら参加メンバーの学年と特徴を・・・。


2人で並んで歩きながら、それとなく今回参加しているKGLメンバーについて情報を引き出していた。


冠頭大学からは男女比2:6と、去年より女子が少なめの構成だそうだ。3年生はリーダーと副リーダーと役職無しの計3名。全員男。2年生は楽村君と男の子と女の子の計3名。1年生は男の子と女の子の計2名が参加している。


8番勝負は1勝負につき代表者1名を選んで戦う。年上と当たれば絶望。年下に当たれば楽勝というワケでもないだろう。全ては競技の内容で決まる。


――簡単な勝負で、私より弱い相手とマッチングして、無事勝ちを収められますように・・・。


「・・・俺、サマトレ終わったらKGL辞めよー思っとった」


「え」


――そうだったの?


気にかけることがサマトレから楽村君へとシフトする。どうやら、彼が原因で起こったトラブルに嫌気が差したらしい。楽村君に好意を抱いている一部の女子が、今回のサマトレにも参加しているKGL女子に執拗な嫌がらせをしていたそうな。


――それでも、その子に迷惑がかかるからってだけでコミュニティを抜けることないのに。


「いつも俺の一番近くにおるのが気に食わんかったとか・・・キモすぎ」


「・・・高校の時も似たようなことなかった?」


「一時期沖谷も巻き込まれかけたやつな」


重い溜息が彼の心労を物語っている。私は誰に対しても人当たりが良くて、優しくて、損得無しで人に寄り添う心を持っていて――楽しむところと真面目に取り組むところの線引きをはっきりさせている彼を尊敬していた。


――タイプは安井君と同じだな。安井君からギャンブルと酒癖を抜いたら、楽村君みたいな人生になりそう・・・。


脳内で最低な公式を作り上げる。本当に顔の作りが良い人って難儀だな。


「本当は夏休み入ると同時に抜けるって話にしたかったんじゃけど、テディ先生が『折角なら、思い出作りの意味も兼ねて最後に参加してみたら?』って・・・」


「・・・」


熊本(テディ)先生というワードを耳にして渋面を作る。なーんか仕組まれている感じがして嫌だなぁ・・・。


「参加して正解じゃったな。またこうして沖谷に会えた」


「うん。私もまさかサマトレで被るとは・・・」


思わなかったと言いながら顔を上げると、楽村君は心から嬉しそうな表情で私を見つめていた。彼の瞳の奥にある熱情を察知して心が凍る。


――え?あれ?いやそんなまさか。え・・・?いやいやいやいや!


私はこの目を知っている。でもいつから?彼と会ったのは高校時代が最後だ。約2年ぶりの再会。しかも私は楽村君の顔を綺麗さっぱり忘れていた。そんな女を、楽村君は・・・?


「あ、でも!楽村君にとってこのサマトレがKGL最後の活動ってこと?」


「・・・って決めとったけどな。テディ先生曰く、今後もKGLとSIG合同の・・・サマトレみたいな活動を増やすって話が進んどるらしい」


何それ初耳なんだけど。

幸生の家族事情を知っている人(深い順。groovyは例外)


はるま>楽村>シーバー>SIGや中高の部活仲間に覇弦>保衣不やバイト先の人や篠木など

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