表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100万円を置いた猫  作者: 椋木美都


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

108/414

 第98話『夏だ!海だ!サマトレだ!』

第98話『夏だ!海だ!サマトレだ!』


毎月行われるSIG定例会議の日、顧問教諭の竹村先生を始めSIG部屋にメンバー全員が揃っていた。会議では毎回リーダーの藤脇先輩が司会進行。副リーダーの仲達先輩が書記を務める。内容は活動の進行具合や、参加していないメンバーに向けて内容を共有するのが主だ。そして次に始まるイベントに向けてのお知らせや次の定例会議で取り上げる内容をまとめ、最後に竹村先生から一言二言頂いて締める。これが一連の流れだった。


しかし、春学期最後の会議は一味も二味も違った。私は周囲の温度差に顔が引きつる。


「引き分けはー」


『ノーだー!』


「目指すのはー」


『勝利だー!』


「いくぞチームSIG-!」


『うおおおおおーっ!』


今日のメイン議題は『リーダーシップ・サマートレーニング』略称『サマトレ』についてだった。去年から新しく始まった2泊3日の活動は『他大学との交流を深め、自身のリーダーシップ力を高めていく』というのが目的らしい。開催地は海の見えるキャンプ場だとか。


――何かバチバチに戦う雰囲気出てるんだけど・・・。


去年、私はバイトで不参加だった。だからこそ、今年は参加してみようと定員8名の中立候補したワケだが・・・早くも参加を後悔している。


「リーダー!幸生さんが口パクです!」


「むあっ!」


目敏い後輩に気づかれ、即座に密告される。島永この野郎!


「さっちゃん声出せ声!」


「お・・・おーーっ!」


羞恥心を取っ払って大声を出した記憶が、昨日の事であるかのようだ。年を重ねていく内に、時間の流れが速くなっていくのを感じる。


――トキメキが足りていないってことなのかな・・・そうだ。トキメキと言えば。


「『――トキメキ殺人鬼チーちゃんのお仕事』」


パンパン。と車内に手拍子が2回鳴る。


「『焼死体の推理』」


ななちゃんが古典ミステリーのタイトル名を挙げる。穂奈美ちゃんのように序盤で脱落するかと思いきや、この古今東西ゲーム――お題は『ミステリー小説のタイトル(空想でも可)』を案外しぶとく生き残っていた。


「『転生したら犯人だった件』」


沖谷君は最初から完全オリジナルのタイトルを連発していた。異世界ファンタジー要素が混ざっているのは彼の趣味だろうか。


「『男殺しマリコの快楽』」


「ぶフッ!」


島永君の回答に、次の番である仲達先輩と他数名が噴き出した。


「島永ーー!おまっ、それ俺が・・・」


「あれあれー?仲達さんどうかしました?次仲達さんっすよ?」


「今ので考えとったやつ吹き飛んだわ!」


「仲達もやられたか・・・」


初っ端で島永君の餌食になった藤脇先輩が仲達先輩に同情する。あまり深く考えたくはないが、島永君は小説のタイトルと称して先輩方が所有しているAVのタイトルを言ったらしい。彼は本当に怖いもの知らずだな。


「・・・っ。そろ、そろ・・・着くでー」


私達のゲームをBGMに運転していた竹村先生は、爆笑しながらミニバンを駐車場に停める。どんだけツボだったんだ。


「はぁ・・・」


「さっちんどした?車酔い?」


3日分の荷物が入ったボストンバックを持って歩く中、不安要素が多すぎて溜息が零れる。すると、近くを歩いていた安井君が心配そうにこちらを覗いた。


「いや・・・去年参加した安井君と先輩達以外、この活動の詳細知らないじゃん。何するんだろーって」


「内緒って言われとるからな。でもめっちゃ楽しかったで!」


晴れ晴れとした陽の笑顔が目に染みる。今回『サマトレ』の参加メンバーは藤脇先輩、仲達先輩、ダブル沖谷、ななちゃん、安井君。1年生は藤脇先輩の独断で島永君と穂奈美ちゃんが選出された。何故定員が8名と限定されているかには理由がある。それは――


「――『8番勝負』・・・一体何するんだろ。去年と内容一緒だったらいいね」


「分からん。じゃけど、一番は気負わず楽しむことだと思うで。藤脇先輩も、『去年俺等が勝ったから、今年は勝負より楽しむことに重点を置く』って言っとったし」


去年のサマトレの参加者は藤脇先輩が初参加者に告げた情報は3日かけて行う大学対抗戦『8番勝負』に挑むことと、持ち物に水着必須なことだけだった。


――リーダーシップの研修だよね?私帰ってからこの活動の報告書も書かなきゃなんだけど、大丈夫かな・・・。


去年サマトレの報告書を作成した青原君にそれとなく聞いても、ニヤニヤ笑うだけで有益な情報は得られなかった。勝負事で負けたくない。という気持ちは皆無である。重要なのは――私が皆の足を引っ張って失望されないことだ。海だ海水浴だとはしゃいでいるメンバーを1歩離れたところで眺める。彼等が能天気な分、私の中にある不安が肥大していくのを感じた。


(=^・・^=)

集合場所には、既に他の大学生と思しき集団が待機していた。


「おせーぞ佐古学―!」


「時間ピッタリじゃボケ」


着いて早々、向こうのリーダーと思しき先輩と我がリーダーがメンチを切り始める。今回交流する冠頭(かんと)大学経営学部の皆様は、心なしか殺伐とした空気を放っていた。


――何か皆めっちゃ睨んでる・・・怖。


私はそっと沖谷君の後ろに移動して気配を消す。後輩ズは大丈夫だろうか。私と同じように全然歓迎されていないような雰囲気に怯えて――なんていなかった。寧ろその逆。島永君と穂奈美ちゃんは1歩前に出て不敵な笑みを浮かべた。


「冠頭大の先輩方初めまして!今年は圧勝させてもらいます!」


「カンガルーの足震えてません?ビビってんですかー?」


――すっげぇー!でも何でカンガルー?


島永君の煽りに?マークが浮かぶ。向こうの男子生徒は穂奈美ちゃんを視認して俄かに色めき立った。


「やっぱり女子だ・・・しかも可愛い!」


「今年は可愛い女子が2人もいるぞ・・・!」


「てか1人足りなくね?」


「おいおいまさかの1人欠けかぁー?」


相手側が私達を見定めている中、この場に7人しか並んでいないことに気がついたようだ。


――ってようだ。じゃない。隠れてたの忘れてた。8人目ここにいますよー!


「さっちゃんもっと前来い!」


「えっ・・・うわっ!」


仲達先輩に引っ張られ強制的に前の方へと押し出される。冠頭大の学生達の視線が、一気に私に集中した。目立たぬように隠れていたのが仇になるとは・・・不覚。


「あ、ちゃんと8人いるので・・・ひょ、本日はよろしくお願いします・・・」


と言いながら沖谷君の後ろに隠れる。おい。今どもりすぎって言って笑ってる奴全員後で覚えとけよ。特に沖谷君は絶対に許さない。


「早速やっとるな」


「やーやー皆さんお揃いで!SIGの皆。まずは荷物置きに行こっか」


竹村先生と聞き覚えのあるのんびりとした口調に、SIGの皆が反応する。


――え。く・・・。


「熊本先生!?」


「はーい。今回冠頭大の引率を任されました。熊本です。何人か僕の授業を受けたことがあると思うけど、サマトレでは冠頭大側ってことでよろしくどうぞ!」


――な、何だって!?聞いてない!


驚きを隠せないでいると、「せんせー俺等を裏切ったんですか!」「初耳ですよ!」「このスパイ教師!」などといったブーイングが熊本先生を襲う。君ら本当に元気だな。


熊本先生は笑顔で受け流し、私達を今晩泊まるキャンプ場へと案内してくれる。今日の流れは荷物を置いた後、海水浴場で自由時間を設けているらしい。8番勝負の昼食の準備はその間に先生達が行うんだとか。もうこの説明を熊本先生がしている時点で怪しさマックスだ。警戒を怠らないようにしよう。


「――沖谷!」


――ん?


振り向くと、冠頭大の男子がこちらにやってきた。沖谷君の知り合いだと判断し、私はスッと沖谷君の後ろに回る。すると私達の目の前に立った彼は、何故か驚いた顔で私を見た。沖谷君も慌てて口を開く。


「は?何で隠れるん。さっちゃんの知り合いじゃろ?」


「え?沖谷君の友達じゃないの?」


「俺のダチにこんなイケメンがおる訳ないが!」


――それは失礼では?


沖谷君は声を潜めてイケメン冠頭男子をチラチラ見る。私も思い出すために彼の顔を見つめるが――無理だった。この人誰?


「沖谷君の昔の知り合いがイケメンに大変身したのかもしれないじゃん」


「その言葉そっくりお前に返すわ」


「――沖谷」


私達がひそひそ話をしているのが気に食わなかったのか、冠頭男子がもう一度苗字を呼んだ。私達は反射的にそちらを向く。冠頭男子の瞳には――私が映っていた。


「・・・本当に俺の事覚えてないん?高2の時同じクラスだった楽村(らくむら)!しかも同じ図書委員だったじゃろ」


――らくむら・・・?楽村・・・!!


彼の苗字を聞いた瞬間、埃をかぶっていた扉が重い音をたてて開いた。

仲達先輩「さっちゃんから始まる!古今東西ゲーム!」

幸生「えっ」

幸生以外「おーー!」

幸生「えーと-えーと『ミステリー小説のタイトル(空想でも可)!』」

幸生以外「!?」

幸生「(手拍子)『ハングマンは誰だ?』(今読んでいる小説)」

ななちゃん「(手拍子)『そして誰もがFになる』(有名な推理小説)」

穂奈美ちゃん「(手拍子)えーー『佐古学園大学殺人事件!』(やっつけの空想)」

安井君「(手拍子)……『殺す!!』(どシンプルで草)」

全員「審議!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ