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消えた加護






『正確には、女神様にはもう、そのお力がないのです』





「「!!?」」



レティシアの言葉に思考が停止した。



その力がない・・・?

どういう事だ?




「それは・・・もう、女神様にはわが国に加護をもたらす力はないという事か・・・?」



弟が驚愕した表情を浮かべながら、か細い声で尋ねる。



「そうです」


「何故そんな事に!?」


「───それは、近年行われていた悪政により、国の実りが衰え、国民が疲弊し、教会で祈る機会が減ったからです。神の力の源は、加護する者達の信仰心。つまり王家を含めたこの国の民達の祈りです。それでも女神は国に加護を与えて民を救う為にユリカを召喚した。ですが───そのユリカも巫女の務めを果たさなかった。だから巫女の力を取り上げ、異世界に戻したのです。そして私が巫女の代わりに神聖魔法を授かったのは偶然であり、スタンピードを収める為の苦肉の策だったのだと思います。───私が力を授かる時には既に女神様は弱っておいででした」


「悪政・・・・・・そんな・・・・・・我が王家が・・・・・・加護を消したのか・・・」



弟と僕は絶望した。


兄弟で何とか国を回せるほどに立て直したが、事態はもっと深刻で、今後オレガリオは加護無しでやっていかねばならないという事だ。



「レティシアが以前、教会の在り方も見直して民達との繋がりを深めて欲しいと言っていたのは、この事があったからなんだね」



そう言うとレティシアが頷いた。



「当時は国全体が衰退して民達は疲れていました。でも立て直しの時だからこそ、教会が積極的に民達と交流を持って支援していけば、いずれまた信仰心が戻ると思ったのです」


「何故もっと早く言わなかったのだ?そうすればもっと早く何か出来たのでは───いや、国にいなかった私がとやかく言える問題ではないな。もう過ぎた事だ」



「陛下、レティシア嬢が神聖魔法を継承した事実について箝口令を出したのは私だよ。当時王家の威信は地に落ちていた。あの混乱時にその事実が広がれば、これを機に彼女を担ぎ上げて反逆を起こす者達が出ていたはずだ。犯罪者を出した王家の存続など望んでいる者は少なかったのだから・・・」


「──────兄上・・・。・・・確かに、そうですね」



弟はそこまで考えが及ばなかった事に対して落ち込んでしまったようだ。


でも当時この事について対処したのは僕ではなく、ジュスティーノ国王と前アーレンス公爵夫妻、そして、ガウデンツィオ国王だ。


国の権力争いを防ぐ為もあったが、一番はレティシア達をそんな争いに巻き込まない為だった。相手がレティシアを引き込むには弱味を握るしか方法はない。


それほどにオレガリオとアーレンス一族の間にある溝は深すぎる。




ならば取る方法は一つ。

レティシアにとっての弱みを握り、縛りつけること。



───レティシアの弱み。


それはアレクだ。




そんな事、到底許せるものではない。



だから僕は、スタンピードの件からレティシア達が関わった事実を消した。




当時、僕が置かれている状況がどれほど危うい場所だったのか、レティシア達と別れてから気づき、自己嫌悪に襲われた。 


あの頃、何度命を狙われたかわからない。周りに敵が多すぎて、それほど父は恨まれていたと言う事を身をもって知ったのだ。


そんな男の血を引く僕を、貴族達が信じられないのは当然の事。



王族派と貴族派の対立が激化し、僕はそんな殺伐とした環境で、新しい国王として矢面に立たなければならなかった。


今となっては、レティシア達がオレガリオに残らなくて良かったと心底思う。





「兄上、レティシア嬢の情報を今後も伏せるのであれば、教会の者達にはなんて説明しますか?」


「───そうだな・・・。先のスタンピードで名誉の死を遂げた事になっているユリカの遺品で手記でも見つかった事にしてはどうだろう?教会も女神の声を聞く神の巫女からの情報であれば無下にはできないだろう」




「なるほど・・・ではレティシア嬢、申し訳ないが女神の力の源について書き記してもらえないだろうか?これは王家と教会幹部との間の機密文書とする。あまり気の進まない事だとは重々わかっているが、国の安寧の為にどうか力を貸して欲しい」



「承知しました。ただ・・・、図々しいのは承知の上で私からもお願いがございます」


「なんだ?申してみよ」


「私の息子であるアレクセイは、魔族の国であるガウデンツィオで育ちました。今後は公爵であるルイス様の実子として学園に通う事になります。社交界に出ればその事で悪意を向けられる事があるかもしれません。先程私が話した事実を全て伝える必要はありませんが、魔族は虐げていい存在ではない事を、王家の考えとして国民達に開示して欲しいのです。どうか差別を無くし、ガウデンツィオとの架け橋となる事を望んでいるアレクセイの想いを、汲んでいただきたく存じます」



レティシアは椅子から立ち上がり、国王に深く頭を下げた。



「───わかった。聞き入れよう。元より他国でガウデンツィオの話は聞いている。魔王と呼ばれる国王は優れた為政者だと聞いた。そして膨大な魔力と力を持っている事も。魔族は人間が虐げてよい種族ではない。竜族やエルフ族に並ぶ力を持つ種族だ。国民を守る為にも、虐げるなどの自殺行為を防ぐのは私の望む所でもある。ただ、長く根付いた偏見を覆すのは難しい。それは王家が犯した罪でもある。だからこそ、アレクセイがこの国に来た時には力になろう。兄上は言わずともアレクセイを守るつもりなのだろう?」


「当たり前です。私の息子を害する者がいるなら、私が全力でお相手しますよ」



にっこりと答えれば、僕の言葉が冗談じゃない事に気づいたのか、弟の笑顔が引き攣った。



















◇◇◇◇




「ルイス様!すごい偶然だわ!お会いできて嬉しいです」



アレクの入学の事で王立学園に出向くと、校内でロスタ公爵令嬢に声をかけられた。


頬を染めながらねっとりとした粘着質な視線に辟易する。



彼女は隣国の公爵に嫁いだが、最近離縁されて息子を連れて実家であるロスタ公爵家に出戻ってきた。


その時から兄であるロスタ公爵から妹との縁談の話を持ちかけられ、兄妹にずっと付き纏われている。



彼女曰く、独身の頃から僕に懸想していたが、僕がレティシアや神の巫女と婚約していたので泣く泣く諦めて隣国に嫁いだらしい。


でも神の巫女が居なくなり、僕が独身でいる今、自分を妻にして欲しいとしつこくて仕方ないのだ。公爵も妻と折り合いが悪い妹を早く追い出したいのか、王宮で会うたびに縁談の話をされる。




厄介な人物と鉢合わせたと思った。




「ロスタ公爵令嬢、貴女が何故ここに?」


「わたくし今日は兄の代理で学園の寄付の件で伺ったところなんですの。数年後に私の息子も入学予定ですから、ご挨拶をと思いまして。息子は家庭教師にはトップの成績で入学できるとお墨付きをいただいているのです。きっとルイス様のお役に立てると思いますわ」


「ロスタ公爵令嬢、私は名前呼びを貴女に許した覚えはない。今日のところは見逃すが、次回からは控えていただきたい」



言外に己の振る舞いが王族に対しての不敬だと匂わせる。


その辺りは公爵令嬢として弁えているのだろう。僕の言葉の意味に顔が青ざめ、「申し訳ありません」と小声で謝罪してきた。



「では私は急いでいるので、これで失礼」



そう言って僕は学園長室へと向かった。




「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」




「・・・・・・彼女とは何でもない。何度断ってもしつこく縁談を申し込まれているが・・・」


「・・・別に、何も言ってませんけど?」


「無言の圧がすごいじゃないか」


「公爵様の気のせいでは?」



黒いローブの中から見えるのは社交用の笑顔だった。



()()()・・・か。

完全に線を引いてるじゃないか。



認識阻害のローブを着ているレティシアは、僕以外の人間には姿が見えない。自分より魔力量が上か、魔力登録した者にだけ姿が見える魔道具なのだとか。


アレクが15歳になるまでは、まだ2人の存在を知られるわけにはいかない。だからレティシアが外を歩くときはローブを着て歩いている。


アレクが学園に安全に通えるようにする為に、憂いは振り払っておかなければならない。



僕に実子がいる事が社交界に知られれば、少なからず貴族派の連中は騒ぐはずだ。アレクの高い能力を危険視してよからぬ事を起こすかもしれない。


その為にも、公表する前に()()を終わらせておく必要がある。




特に、ロスタ公爵家は───ね。





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