転機
冒険者として生活し始めて二週間がたった。
俺は、薬草採取から卒業し、ゴブリンやロイヤルウルフといったモンスターを討伐できるまでになった。
受付のお姉さんからは、パーティーを組むようお勧めされるけど、俺は人を信じない、信じることができないため、ずっとソロで活動している。
今のところ命に係わるほどの傷を負ったこともないし、これからも無理するつもりはないからソロで十分だ。
今日もガフトフォレストに入り魔物を狩る
この後俺の人生が大きく変わることになるとはこの時は知る由もなかった。
あれ?
ガバッ
意識が戻り起き上がると森の中で寝ていたことに気づく
ここはどこだ?体が重い…そういえば俺は何をしていた?
確か森でいつものように魔物を狩っていたはず…そこで馬鹿でかい魔物に遭遇して…体は無事とは言えないが、傷はふさがっている。そうだ!!あの時誰かが助けてくれて…
「気が付いたか?」
「―!?」
声のする方を向くと、伸びた白髪を後ろで縛り、腰には黒い鞘に収まった曲刀をぶら下げた、精悍な顔つきの初老の男が木に腰掛けこちらを見ていた。左腕は肘から下が切断されており、彼から放たれるオーラが経験の少ない俺でも修羅場をくぐってきたのが伺える。それこそ学園長の比ではない。
「あの時助けてくれた人ですよね?ありがとうございます。」
この男がどういう人間かわからないが助けてくれたのは事実、
彼の雰囲気に少し怖気づきながらも感謝を述べる。
「構わねぇよ、それにしても災難だったな」
きっとあの得体の知れない魔物の事だろう、他にも思い当たることはいくつもあるがこの人が知ってるはずがない。知りたいと言われても断るが。
「あの魔物の事知ってるんですか?」
「奴はロイヤルウルフの突然変異種だ」
「突然変異?そんなこと聞いたことないですけど…」
「ここ数日、この大陸のあちこちでそういったモンスターが目撃されるようになった。」
「そんな魔物いるなら被害が酷くなる前に情報を公開するべきたまと思いますけど。」
「学者連中が神罰だとか厄災の前触れだとか騒ぎ始めてな、上は混乱を招くのを恐れ公表しなかった、この情報を知っているのは一部の貴族とギルド上層部、そして原因解明に駆り出されたS級冒険者と言われる人間達たけだ。」
S級冒険者という言葉に息を呑む、目の前にいる男がこの大陸に十人もいないと言われるS級冒険者の一人かも知れないということに。そして俺は聞かずにはいれなかった。
「では貴方もS級冒険者なんですか?」
「俺は元だがな」
その言葉に驚愕する、あの得体の知らない魔物を倒し、戦闘をしていない今でも、背筋が凍るようなプレッシャーを放っているこの男が現役から退いているという現実に。
「あの、なぜその情報を俺に教えてくれたんですか?」
「深手を追った当事者が何も知らないのは後味が悪いと思っただけだ」
「俺から情報漏れるとか考えたりとかは…」
「お前人を信じられないんだろ?」
その言葉に俺の心臓が鷲掴みされたような感覚におちいる。なぜこの男はこの短時間でそこまで見抜くことがてきるのか、もしかしたらバリロラの人間なのか、そう思うと呼吸が荒くなるのがわかる。
「別にお前のことは何も知らんし、興味もない。俺は結構な場数を踏んでるからな、お前みたいな奴はごまんと見てきたし、その人間がどういうやつかっていうのはある程度分かるもんだ。それに、お前の目には誰も映ってない。」
それがS級冒険者たる所以なのかはわからない。
俺が想像することもできないほどの修羅場を抜けてきた経験からなる観察眼
人の本質を見抜くことのできるそれは、見る人が見れば気味悪く、不快感を感じるだろう。
だが俺にはその眼が、その強さがひどく輝いて見えた。
それもそのはず、俺は今までその人間の本質を見抜くことができず悪意に晒され、関わった人間に理解されず、すべて失った。
彼のような眼を持っていたら、彼のような力を持っていたら俺はここまで苦労はしなかっただろう。いや、苦労した故の力だということはわかるが、それでも喉から手が出るほどに欲しいと、そう思った。
「俺を強くしてください」




