東屋にて
案内された東屋は、茶会の庭園と比べて簡素なものだった。もちろん手入れの行き届いた高そうな造りではあるのだが。
「どうぞ、座って」
王太子がこちらを向いて言うが、まさか私に言っている?
「いえ、恐れ多いことにございます。私のことは影だとお思いになってください」
「いや、思わないよ?!レディを差し置いて座ってしかも、え?影??」
王太子がオロオロしているが、この国には影はいないのだろうか。そういえば先程仕掛けをしている最中も全く誰にも気づかれなかった。
「それに君、先程茶会で紹介された、確か公爵家のご令嬢だよね?」
「公爵令嬢??」
驚きの声をあげたのはバルク公爵子息…名前、わからない。えー、…カエル少年だ。
「エイル公爵が娘、キリルシュカ=エイルにございまする」
「えーと、とりあえず座って?命令、なら聞いてくれるかな」
「王太子様が命にございますれば」
すっと座ると、王太子は満足気な顔をしてカエル少年にも着席を促す。
もしや先程通路の確認や万一に備えて軽い仕掛けをしておいたのが気付かれていたのだろうか。なんたる失態…!これから厳しい尋問が始まるというのか…!
「こんなことを言っては何だけど、実は僕も茶会に飽きてきてしまってね。君たちも親に言われているのだろうけど、側近や婚約者を選べと言われても一回会っただけで決められないし困ってもいたんだ」
…?なんの話だ?
「俺、いや、私は…」
「楽にしゃべってくれて構わない。ガルシア=バルク。ここにいるのは僕と彼女と数名の護衛のみだ」
ほうほう、それがカエル少年の名か
「えーと、じゃあ、お言葉に甘えて。…正直俺は側近とか興味ないです。将来は剣を極めて諸国を旅したいと思ってるんで」
こやつ、傾奇者か!
「ははっ!いいね、楽しそうだ」
なっ…!出奔の意思を見せているこやつになんと心の広いお言葉…!
「君は?何か将来の夢とかあるの?」
急にこちらに話を振った
「私に夢などありませぬ。良き道具として使って頂けたらそれだけで満足でございます」
ガタッ!と童2人が立ち上がる
「おまっ…!家でどういう扱い受けてるんだ!?」
「公爵家は娘を人間扱いしていないのかい??」
?そうか、公爵家の娘としてこの返答は間違えたか!
「いえ、父上様におかれましては日々の恩義、実に返しきれぬほどのものにございます。ですので、えーっと、親孝行?できたらなぁ、と…」
「そう、か。君は孝行娘なん、だね?」
やや腑に落ちてなさそうだが一応納得して頂けたようだ。危なかった。
「政略結婚、を受け入れると言う考えなのかな?」
「それは当たり前のことにございます」
忍びではなく高貴な家の娘として役目を果たすなら、それくらいしなければタダ飯喰らいの穀潰しではないか。
「今時そんなんも古いと思うけどなぁ」
カエル少年が言う
「まぁ…最近は貴族の間でも恋愛結婚が増えてはいるね。ある程度自分で選んでいいとのことで今日のお茶会があるのだし」
確かに。今日はたくさんの令嬢がいたな
「王太子様ほどのご身分であればご正室はともかく、5、6人は好みで側女を選べましょう」
ぶっ!と王太子様がふいた
「いやいやいやいやいや」
「失礼いたしました。少なすぎましたか」
「え、王族ってそんなに結婚できるのか⁈」
カエル少年、おぬしはまだ童だのう
「ご正室は1人でしょうが、それだけではお家の繁栄が難しかろう」
「繁栄?」
「左様。種はたくさん蒔いた方が…」
「待って!」
急に王太子様が声を張り上げてきた
「過去に!そういう王もいたらしいが、ここ数代の基本は一夫一妻制!妃は一人でじゅうぶんだ!」
…まぁ、王太子様もまだ童か。成長してのちのち増やしていくのだろう
「何…その生暖かい目は」
「いえ、素晴らしきご正室様が見つかるとよいですね」
世界の都合上、王国は一夫一妻制です