お茶会への支度
日に当たって反射しそうなくらいの金髪。目の色は翡翠色。こんな珍妙な姿では忍ぶどころか目立って仕方ないとおもったが、今生では珍しい色ではないようで、金や茶色などの髪色はあちこちにいた。南蛮か!いや、南蛮なのか?
敵地に潜入することは度々あったが、日の本を出たことなどはなく、こんなキラキラした国ははじめて見た。
両親と呼べる存在を得たのも初めてだ。前世では人間ではなく忍びだったのだから当然だが。
彼らはこの国に不慣れで正しい挙動をとれていないであろう私を責めることなく、食べ物や着る物を与えてくれた。どうやら淑女?とやらに仕上げようとしているらしいが、その恩義には応えたいと思っている。今生では腹を空かせたことなどない。なんと一日三食、加えて菓子なども食べれるのだ。これは返せるかもわからない途方もない恩義だ。故に、尊敬の意をもってこう呼ぶ。
「御方様」
「お母様!」
間髪入れずに叫ばれた。しまった。またやってしまった。この美しい夫人を母と呼ぶなど恐れ多いのだが、それが御方様の望みとあらば…
「母上様」
「ん〜…まぁ良いでしょう。それで、話はわかったかしら。」
わずかに違和感を感じたようだが納得して母上様は話を続けた。
「はい。王妃様のお茶会に行かれるのですよね。では母上様をお守りするにはこのような動きにくい装いではなく、着替えたほうが…」
「いや、守らなくていいから!キリーちゃんにお友達を作りに行くんだからね!?」
なるほど!いつか訪れる王城潜入の時に備えて下準備をせよとのお達しか!
「これは失礼仕りました。お言葉、しかと受け止めましてございまする」
「う、うーん?何かまた勘違いしているような気もするけど、まぁ良いわ。キリーちゃんなら可愛いからすぐにお友達ができるわよ。」
「御心のままに」
会話を終えると楽しそうに支度を始め、侍女たちに指示を出し始めた。
さすが母上様。謀反の心など全く悟らせぬような態度である。私も見習って手早く支度を済ませた。出来うる限りの支度を。
キリー7歳。このあと、運命の出会いが待ち受けているともしらずにいたーー。
公爵家に下克上の意思などはありません。