ハルカ
ミツヒロはヨースケに続いて、食堂へと入った。
「A定食はハンバーグで、B定食は魚の味噌焼きか。ミツヒロ、お前、B定食にしろよ。俺はA定食にするから」
「なんだよ急に」
「それぞれが別のモノを頼んで、途中で交換すれば、両方味わえるだろ?」
「、、、」
「ん? 俺、なんか変なこと言ったか?」
「いや、お前、頭いいな。その発想は無かった」
「なんでだよ! どんだけカロマックス食えばそんな思考回路になるんだよ。頭の中もカロマックスなんじゃないのか?」
「違うよ」
ミツヒロはそう言うと、カウンターでB定食を受け取る。
食堂に入って、カウンターで食事を受け取る。そうすれば勝手にその分の料金が給料から引かれる。そのくらいのことはミツヒロも知っている。
「混んでるんだな」
割と満席に近い食堂を、お盆を持ってミツヒロは見渡す。
「そりゃそうだろ。昼時だからな」
「そんなにみんな、食堂に来るんだな」
「昼食の時間も計算されて、会社は俺たちに仕事を振ってるんだ。それを、時間の無駄だとか言って、カロマックスだけ食べて仕事してるのなんて、そっちの方が少数派だよ」
ヨースケはそう言うと、四人がけのテーブルへと向かった。そこにはひとりの女性が座っていた。
「ここいいですか?」
「ええ、私はもう済みましたから」
ヨースケがその、白衣を着た女性に声をかけると、彼女はそう言って席を立った。
そして、空になった器の乗ったお盆をカウンターへと返すと、彼女は食堂から出て行った。
「何やってんだよミツヒロ。早く座れ。のんびりしていたら、それこそ昼休み終わるぞ?」
「あぁ、わかってる」
ミツヒロはそう言うと、ヨースケの向かいに座る。
「彼女に悪いことしたかな?」
「なんでだよ。食い終わってたんだからいいだろ?」
「そっか」
ミツヒロはそう返すと、ヨースケと同じように食べ始める。
ミツヒロは、食事とはどのようにすべきなのか、イマイチわかっていない。
ミツヒロは、ヨースケを真似るように、味噌焼きを箸で小さく分けると口へと運ぶ。
骨が口の中に刺さる。骨を取り出し、皿に戻す。
今度は骨を外してから、口へと運んだ。
やはり食事とは面倒なものだ。ミツヒロはそう感じる。
「それにしても彼女、変わってるよな?」
「知ってるのか?」
「有名人だよ。ハルカって名前らしい」
「へー」
「なんでもかなり優秀で、政府の極秘プロジェクトをほぼひとりでこなしてるらしい」
「そうなんだ」
「付き合いも悪いらしくてな。仲のいい同僚もいないらしい。それもあって、彼女がどういう人物なのかけっこう謎なんだよ」
「極秘プロジェクトやってるんだったら、仕方ないんじゃないか? 誰かと仲良くして、うっかり話してしまうことだってあるかもしれないし」
「なるほどなぁ。そうなのかもな。それより、そろそろハンバーグと味噌焼き、交換しようぜ」
「あぁ」
「ところで、この魚、なんの魚なんだろうな?」
「さぁ、ハンバーグも何の肉なんだろ」
「しらね」
ヨースケはそう答えると、味噌焼きを頬張り、器用に骨だけを口から取り出した。