研究室
「まだかな」
目の前の空間にモニターを表示させるが、ハルカからの連絡はなかった。
今日、一緒に帰ろうとハルカから言われていたミツヒロは、それでも社内から一緒に帰ることに少し抵抗があり、会社から少し離れた公園で時間を潰していた。
夜の暗い公園には子供の姿はない。公園に面した道路を、仕事に疲れた者たちが、家路を急ぎ通り過ぎていく。
「何かあったのかな」
ハルカから告げられていた時間は、とうに過ぎていた。
ミツヒロは、公園を出ると、家路を急ぐ彼らの流れに逆らうように歩き出した。
退社してから数時間ぶりに、会社へと戻ってきた。
さすがに夜も遅いので、職員の姿はほとんどない。
ミツヒロは、傍で誰も見ていないのを確認してから、もう一度、通知モニターを出現させる。公園を出るときにハルカにメールを送っていたのだ。だがその返信はない。
少し悩んで、ミツヒロはハルカの研究室の方へと向かうことにした。
ハルカの研究は極秘プロジェクト。社内のほとんどの職員が、その内容を知ることは出来ない。当然、研究室に近づくこともできない。
それは当然、ミツヒロもそうだ。
だが、ハルカのことが気になるミツヒロは研究室に向かうことにした。もしかしたら、ハルカの同僚などに会い、彼女の居場所を聞くことができるかもしれない。
エレベーターの扉が開き、廊下に出ると、突然大きな扉が出現した。
この扉の向こうには、中に入れる権限を持つ者しか入ることはできない。
あたりに、職員の姿もない。
「やはりダメか」
そう諦めかけ、扉の前に立つと、勝手に扉が開いた。
「えっ? なんで?」
扉の向こうには、廊下が続いていたが、やはりそこにも誰の姿もない。
「おっ、おじゃましまーす」
ミツヒロはそうつぶやきながらゲートをくぐる。
静かな廊下を進む。
途中、いくつか扉があったものの、鍵が掛かっていて開かない。
「どこだろ」
更に進むと、一箇所、扉の開いている部屋があった。
中を覗く。
「えっ、、、」
あまりの衝撃に言葉を失う。
部屋の中にはもう一つ、透明な壁で仕切られた部屋があり、その中には血だらけの何かが倒れていた。
そして、その何かの傍に、何者かが佇んでいる。
その何者かが、いきなり電気が点いたことに驚き、こちらを振り向く。
「ヨースケ?」
「ミツヒロ、、、何でここに?」
ヨースケは、ミツヒロと同じく驚きの表情を浮かべている。
「いや、ハルカさんの帰りが遅いから心配になって、、、そんなことより、ヨースケ、これは一体、、、それは一体、何なんだ?」
「これは、、、ミツヒロは聞いていなかったのか? ハルカの研究対象だよ。絶滅したと言われていた生物。もう死んでるけど」
「えっ?」
「違う。俺じゃない。俺が来た時には死んでいたんだ」
「じゃあ誰が。というか、なんでヨースケがそれを?」
「それなんだが、、、」
そこで、ヨースケは懐から拳銃を取り出すと、ミツヒロへと向ける。
「ちょっ、ヨースケ、何を」
「やはりお前だったか。残念だよ、俺の読みが当たったことが」
「一体、何を言って、、、」
引き金を引くヨースケ。それに、思わずミツヒロは目を瞑る。
そしてゆっくりと目を開ける。
体に異常はなかった。
目の前には拳銃を構えたままのヨースケが立っていた。
そして後ろで何かが倒れる音がする。
ミツヒロが恐る恐る振り返ると、そこにはヨースケの放った弾丸で左目を破壊されたメグミがいた。