ミツヒロとヨースケ
「ミツヒロ、食堂に行かないか?」
同僚のヨースケに誘われたのは、彼女に興味を持ち始める一週間前のことだった。
「いかないよ」
「どうしてさ?」
「わかっているのに、どうして聞くんだ?」
「わからないな」
ヨースケは意地の悪い笑みを浮かべている。
ミツヒロは、一つため息をつく。
「俺には、これがあるから大丈夫だ」
「あー、カロマックスだろ? あれ美味しくないだろ?」
ヨースケは、俺が引き出しから机の上に置いたものを見て、いや見ることなく、そう答えた。
カロマックスは、完全栄養食だ。それ一つで、半日分の栄養素を補える。しかもほとんどひとくちで食べることが出来るので、食事に時間も取られない。
ただし、味付けもあまりされていないため、それを嫌い、食堂での旧来の食事を楽しもうという人も多くいる。
ヨースケもその一人だ。
「一瞬で終わる食事に、わざわざ時間をかける必要なんてない。時間の無駄だ」
「そんなこと言うなって。たまには食堂で一緒に飯食おうぜ」
ヨースケも懲りずにしつこく誘ってくる。
食事に時間をかけるのは無駄だとは思っている。しかしながら、そんな無駄なことに時間を費やしている暇がないほど、今は忙しいわけでもなかった。
正直、断る理由もない。
「わかったよ。行くよ」
「そう来なくっちゃ」
ミツヒロは、諦めて、ヨースケと食堂へ行くことにした。