新しい病気
西暦3000年。
今やアンドロイドでも病気にかかる時代であった。
私はアンドロイド専門の医者である。
今日は若いタイプの女性が尋ねてきた。
「それで、どうかしましたか?」
「先生聞いてください。私の彼って酷い人なんです!」
「酷いとは」
「私だって仕事をしているのに食事、掃除、洗濯、全て私にやらせるんですよ! それも、感謝してくれるならまだしも、その間に彼はゲームで出会った別の女とイチャイチャ会話してるんです。だったら私と話しなさいよ。常に側にいるんだし!」
「……なるほど」
「酷くないですか!」
「まあ、酷いですね」
「そうですよね」
「まあ、酷いですが、話しを聞く限り、よくあるケースだと思いますよ。貴方が酷いと思うのでしたら、彼と別れれば済む話ですし」
「それはイヤ」
「……イヤですか」
「だって、わたし彼のこと好きなんだもん」
「でしたら、まず、お二人で話し合いをするとか」
「彼は変わらない。変わるぐらいだったら彼は別れるって」
「……そうなるともう貴方が彼の態度を我慢するしかないのでは」
「それは分かってますけどシャクじゃないですか」
「しゃく?」
「だって私ばっかり我慢して。彼は好き放題でずるいです」
「……はぁ」
「先生ってば、ちゃんと私の話しを聞いてます?」
「聞いてます。聞いていますが、それは普通のイザコザであって他人の私に言われても。貴方は医者の私にどうして欲しいというのです」
「好きだけど、彼のことを憎みたいんで、憎むデータをインストールしてください」
「……それは」
「可能ですよね。彼に対する愛情は消さないでくださいよ」
「貴方はアンドロイドなので可能ですが」
「なにか問題があるんですか?」
「本当にそれで良いんですか」
「はい」
「また、どうなっても知りませんよ」
「はーい」
彼女に迷いはなかった。
医者として患者の要望はできる限り叶えたいと思っている私は、彼女に言われるがまま『彼を憎むデータ』をインストールしてあげたのだった。すると彼女は満足気に帰っていった。
終わると若い医者が質問してきた。
「ええええー。先生、本当に彼女に処置したんですか?」
「……ああ。本人が望んでる事だからね。違法でもないし」
「でも、つい最近、彼女はサボりグセのある彼のことを怒りたいから『怒りデータ』をインストールしてくれって来たばかりじゃないですか。その少し前にも似た事がありましたし」
「ああ」
「あまりにも治療の頻度が多いです。こうなるともう薬物依存と変わらないですよ」
「だが、彼女にインストールしたのは普通の感情だ。何の中毒成分も、違法性もないだろう」
「……そうですけど」
私の言葉に若い医者も押し黙ってしまった。
だが、確かに彼女のような症状をなんと言えばいいのだろうか。
やっかいな時代になったものだ。