第二部 4.再会-3
王城の庭園に慣れたジェニーの目には、ベアール家の庭園はひどく手狭に見えた。といっても、ジェニーの住む小城にある庭園と比べれば、その二倍以上の面積はあるだろう。一面に広がる緑の地には、夜宴よりは軽装だがそれでも豪華な服装に身を包み、紳士淑女たちがあふれかえっている。招待客たちの波間には、ジェニーが滞在していた頃にはなかった、数体の白い彫像が見え隠れする。庭園の中央奥に設置された噴水も、真新しさを感じさせる白に塗り換えられていた。
独特のきらびやかな雰囲気に、ジェニーはやはり馴染めない。場違いだ。
ジェニーと接した誰もが、非常に礼儀正しく、好意的な笑顔でジェニーを迎えてくれた。だが、ジェニーがどこかに動こうとするたび、好奇の目がさりげなく、ジェニーの行く先々まで追ってくる。来客たちはジェニーの立場をよく知っているのだ。ジェニーにとって初めての園遊会は、居心地がよいとはとても言えなかった。
ユーゴは誰とでも旧知の仲のように会話を楽しんでいるようだったが、ジェニーを同伴して話した人たちとは、ほとんどが初対面だという。彼はもっとジェニーを招待客に紹介してまわりたいようだったが、ジェニーの隣には影のようにライアンが付いて歩き、不自由さを覚えたようだ。ユーゴは彼をさりげなく追いやろうとして失敗し、少し前に妻に呼ばれたのをきっかけに、ジェニーの前から退散していた。
ジェニーは、来客たちを退屈そうに眺めるライアンを見上げた。彼は楽しみを享受するために、この会に参加したのではなかったのか。ジェニーを嫌いなはずのライアンは、馬車を降りたときからずっと、ジェニーの隣について歩いている。
「……何か?」
ライアンは鬱陶しそうにジェニーを見て、目を細めた。
「ここにはあなたの知り合いも多くいるんでしょう? 皆のところに行ってください」
「ほとんどは知り合いだ。なにも今、ここで話す必要もないだろう」
彼はまた庭に目を移す。
「じゃあ、あちらの女性たちも? 彼女たち、あなたとお話がしたいようだけど」
ライアンは、ジェニーの示す、木陰にいる若い女三人を一瞥し、興味もなさそうにジェニーに注意を返した。
「女たちが交流を持ちたいのは、私よりおまえだろう」
「私? 私と知り合っても得することなんかないもの、あなたの方でしょう?」
ライアンが小さく息をつき、目をそらした。
「せっかくの園遊会なのに、誰ともしゃべらないなんてもったいないわ。もし私を気遣ってくださってるなら――」
「私がおまえに気遣いなどするか! 私は女たちの退屈な話に付き合わずに済むように、ここにいるだけだ。……とりあえず、おまえは、くだらぬおしゃべりはしないようだからな」
ライアンは突き放すように冷たく言ったが、普段のように、憎らしそうにジェニーを見て、顔を歪めはしない。
ジェニーが女たちを再び見てみると、彼女たちはまだこちらを気にしているようだった。彼女たちの恥じらいぶりは、好きな男を見て照れている少女そのものだ。
ジェニーが木陰の女たちの前に進むと、ライアンは当然のように隣に立った。女たちは緊張しつつも彼を意識している。
こんにちは、とジェニーが彼女たちに第一声をかけたときだ。
「やあ、ジェニー、ここにいたか! 探したよ」
さっき姿を消したユーゴが、失礼、と女たちに笑いかけながら、ジェニーと彼女たちとの間に割って入った。
「ジェニー、私の一番上の姉がさっき着いて――ほら、今あそこで父と話している女性が見える? 彼女にきみを紹介したいから、ちょっと来てくれないか」
ユーゴの姉というと、ジェニーの父の妹だ。
父を知る人に会える、そう思うと、ジェニーはいても立ってもいられなくなる。
ジェニーが館の方に振り返ると、庭園に向かって広く開放された窓の近くに、祖父とふくよかな女性が長椅子に腰掛けて会話をしているのが見えた。彼女の顔はジェニーからはよく見えなかったが、祖父やユーゴとは違う、濃い茶色の髪をしている。父と同じ髪だ。
「姉の方がきみの父をよく知ってる」
ユーゴがジェニーに顔を近づけ、瞳を覗き込んで笑った。
失礼します、とジェニーは女たちに断りを入れ、ライアンに振り返った。
「ライアン様、すぐ戻ってくるから、ここにいてもらえますか?」
彼はジェニーと一緒に彼女たちの前から去ろうとしていたのか、出鼻をくじかれたように、不満そうに顔をくもらせた。
「私が?」
「ええ、ぜひ彼女たちのお相手をお願いしますよ、ライアン様?」
ユーゴが今にも吹き出しそうになって言うと、ライアンは睨みつけるようにユーゴとジェニーを見たが、何も反論せず、二人に背を向けた。
よく響く女の声に、祖父の楽しそうな笑い声が重なって聞こえてくる。他の人々の声も屋内から漏れてくることから、外の陽光を避け、室内で静かに会話を楽しんでいる者たちもいるらしい。
ユーゴは祖父たちの談笑する場には正面から近づかず、開かれた扉の陰にジェニーを誘い入れた。館の脇に立つ大木が、ジェニーの顔に当たる直射日光を遮り、涼しい風だけを運んでくれる。
姉は会話を遮られるのを嫌う、とユーゴはそこからは見えない彼女を指差して、ジェニーに耳打ちした。
「姉の機嫌を損ねないように、私がうまく声を掛けてくる。ここで少し待っていて」
「わかったわ」
「すぐ戻るよ」
ジェニーが笑うと、ユーゴはジェニーの肩を軽くたたき、ジェニーから離れていった。
ジェニーの位置からライアンは見えなかったが、ジェニーが声を掛けた女が嬉しそうな笑顔でいるところを見ると、彼はあの女たちとその場に留まっているようだ。ジェニーは満足した。
ジェニーは今まで、ライアンが女たちと喜んで会話する光景を目撃したことがないが、彼が女嫌いという噂は、やはり嘘なのだろう。彼はきっと、単に女性が苦手なだけだ。そもそも、女を嫌うんであれば、男女の出会いの場ともなる、こんな園遊会には出席しない。
地面を踏む足音がジェニーの背後から聞こえ、ジェニーの鼻にユーゴのつける匂いが香った。
「ユーゴ様、もう――」ジェニーは振り返り、自分の前に立った人物を見て、目を疑った。
「静かに」
男は囁くようにそう言い、ジェニーの隣に並ぶと、警戒して周囲をさっと見回した。
「ああ、でも……!」
「何も言うな。おまえは興奮すると大声で叫ぶから」
隣に立つ彼の存在があまりに信じられなかったのだが、震えるジェニーの前で、彼は顎を引きながら、ジェニーがよく知る独特の笑い方をした。
「それとも、今はもう大人になって、叫ばなくなった?」
ジェニーを見つめる瞳は、ジェニーと同色の、彼女たちの父親から引き継いだ瞳だ。
正真正銘のローリーだ。
でも、まさか。まさか、こんなところで。
ジェニーは必死で口をつぐみ、大きく首を横に振った。少しでも口を開こうものなら、ジェニーは彼の名前を叫び、泣きわめき、庭園中の人々の注目を引いてしまいそうだ。彼の首にかじりついて、抱きつきたいのに、そうできない状況が恨めしい。
ジェニーを見ていたローリーの目が優しく揺れ、困ったような笑顔が広がった。
「……泣くのもだめだ、ジェニー。皆が不自然に思うよ」
「そんなこと言ったって……無理よ!」
ジェニーは唇を噛み締め、ローリーの右腕をつかんだ。彼は、抱き返してはくれなかった。だが、彼はジェニーを見つめると、頬にゆっくりと唇を押し付けた。
「ジェニー……」
ジェニーが彼の乾いた頬にキスを返すと、その頬が小刻みに震えた。
「会えてよかった」
心の底から安堵したような兄の口調に、ジェニーは耐え切れなくなって、彼の背中に手をまわした。
「会いたかった……!」
「ジェニー、離れて」
「いやよ、離れない。やっと、やっと会えたんだから!」
「周りに聞こえるよ、静かに」
「心配しなくても、皆はあなたをユーゴ様だと勘違いするわ」
ローリーの目にうっすらと涙の膜が張り、ジェニーの体はローリーの胸に押し付けられた。
「ジェニー……!」
ローリーの腕に体を締め付けられ、ジェニーの脇腹が痛んだ。耳がこすれて痛む。でもその痛みは、ローリーの実体がジェニーを抱きしめているという、確かな証だ。
ユーゴの香水をつけたらしい首筋から香る匂いを別にすれば、兄は数年前と何も変わらない。肩の温かさも、ジェニーの頭を支える手の大きさも。
ジェニーは涙と嗚咽が外にもれないように、兄の肩に深く顔をうずめた。
それから一分もしないうちに、ジェニーの背中にきつく巻かれていたローリーの腕が、一度大きく揺れたと思うと、直後に解かれた。
ジェニーがはっと顔を上げると、彼は鋭い目で辺りを見渡し、ジェニーを見て短く息をついた。それから、何かを思い出したように顔をほころばせる。
「どうしたの?」
ローリーは、ユーゴの今日の服装に似せた自分の格好を指し、くすくすと笑う。
「彼と僕はよく似ているね。ジャンヌ叔母さんにそう言われても信じられなかったけど、実物に会ってみて驚いた。おかげで、こっちは何かと助かったけどね」
「祖父にはもう会った? ユーゴ様にそっくりなの、だからローリーにも」
「会ってない」
ローリーはジェニーの言葉を遮ると、やわらかな笑みを消して、祖父のいる方向を見つめた。
「僕がここにいることを知ってるのは、僕をこっそり家に入れてくれたユーゴだけだ。僕はジェニーに会いに来たんだ、ほかの誰かに会う気はないよ」
ローリーが背後の庭園を素早く見やり、ジェニーの手を引いて館の壁面近くに移動した。
「ジェニー、今まで一人で心細かったろう。事情は……ジャンヌ叔母さんから、いろいろと聞いた。まったく、ひどい話だ! おまえが抵抗できないのをいいことに――どんなにか、おまえも辛かったろう……!
ごめん、ジェニー。もっと早く来られればよかったけど、今のおまえの状況だと、僕もそう簡単には動けなかった。今日を待つのが精一杯だった」
兄の悲しげな口弁に、ジェニーの頭の中がぐるぐると高速で回り出す。
一人で心細く辛い毎日を送ったのは本当だ、兄に会いたくて涙した日も一回や二回ではない。今の兄のように憎悪に燃え、反発し、屈辱的で嫌な思いをしたことの方が圧倒的に多い。ジェニーは今でもその思いを忘れていない。そのときどきの、王や王城の人々のいる情景を鮮明に覚えている。
でも、あれほどに否定し反発していた日々が、今ではときどき、遠くにかすむ。ゴーティス王が一庶民であるジェニーの心に歩み寄ろうとする姿を知るたび、彼を家族の仇とみなして許さないことに、どれだけの意味があるのだろう、とジェニーは疑問に思う。だからといって、彼の罪を帳消しにするのではないが。
時は進み、人の心は移ろう。兄が知る、ジェニーの身に降りかかったことは事実かもしれないが、兄が思う、ジェニーの現在の心は、彼の想像とは違っている。ローリーの知るジェニーは、彼らが生き別れたあのときから、成長が止まっている。そして、ローリーの時間もたぶん、あのときで止まっている。今のローリーには、きっと、ジェニーの心は解ってもらえない。
ローリーの左手がジェニーの手をぎゅっと力強く握り締め、彼はまたジェニーの額に唇をつけた。
「今まで一人にして、ごめん」
ジェニーは兄の顔が直視できず、弱々しく首を振った。
「私は、大丈夫だったわ」
「これからはずっと一緒だ、ジェニー」
ジェニーが驚いて顔を上げると、彼が小声で囁いた。「屋敷の近くで仲間が待ってるんだ。人の出入りの激しい今なら、僕たち二人くらい、難なく抜け出せる」
ジェニーは咄嗟に後ろを振り返って、ライアンの姿を探した。が、ライアンは見当たらず、庭園に出ている人々も彼ら自身の会話にますます熱中しているようで、誰もジェニーたちに関心を向けていない。
「でもローリー、それは危険だと思うわ」
「危険には慣れてる。さ、見つからないうちに早く。この裏手をまわれば近道だから」
ローリーがジェニーの手を取って、館の裏手へと促す。ジェニーは立ち止まり、彼の手に抵抗した。
「ジェニー?」
「ローリー、私は行けない」
ジェニーが兄の左手を押し戻そうとすると、彼は唖然としたようにジェニーを見つめた。
「私は行けないの。ローリーが知ってるかどうか……私には、カミーユって娘がいるの」
「ああ、知ってるよ、ヴィレール王の子どもだろう? そんなことは、国中の皆が知ってる」
ローリーは苦々しげに唇を斜めに曲げ、ジェニーの手をもう一度掴んだ。
「だから何だっていうんだ。ああ、おまえがあの王にそんな酷い仕打ちを受けたって想像しただけで、はらわたが煮えくりかえる! あんな王の子どものことなんか、おまえが気にする必要はないよ。そんな呪われた子ども、ヴィレール王にくれてやればいい」
ローリーの嫌悪を目の当たりにして、ジェニーは激しく動揺した。
「父親が誰でも、私の子どもなのよ、ローリー」
「おまえが産みたくて産んだんじゃないだろう?」
ジェニーが唇を噛んで俯くと、ローリーの手がジェニーの肩を軽く撫でた。
「ジェニー、今行かないと、もう二度と僕たちは会えないかもしれない。さあ、早くここを出よう。生活は楽じゃないけど、おまえ一人くらいは僕も何とか養っていけるから」
ジェニーの肩にあった手がジェニーの頬に移り、ローリーが笑う。
彼の指が頬を滑るのを感じていたジェニーは、ふと、彼がさっきから左手ばかりで自分に触れていることに気がついた。ジェニーを抱きしめたのも、手を握り締めたのも左手だ。彼の利き手は右手のはずだったが……。
――そして、ジェニーは思いだした。ジェニーの故郷がヴィレールの急襲に遭ったとき、ローリーはゴーティス王の剣を右肩に受けた。ローリーが血を流しながら地面に倒れ、無念の唸り声をあげていた、あの瞬間だ。
「ローリー」ジェニーは自分の予想が外れることを祈りつつ、尋ねた。「まさかとは思うけど……もしかして、右手が不自由なの……?」
彼の指がジェニーの頬の上で止まった。
「動かないよ」あっけらかんと、ローリーは返答する。「ヴィレール王に斬られた、あのあとからね」
でも左手があるから、と言った彼の横顔を目にして、ジェニーの胸がつまる。
兄に剣傷による後遺症があるとは、思いもしなかった。よく考えれば、重傷を負った彼が五体満足で生きていることの方が確率としては低かったのだ。利き手である右手が使えないとあれば、自慢だった剣は当然使えず、日常生活でさえ、ローリーはずいぶんと不自由を強いられてきたことだろう。
ジェニーは、小城の庭園内で、「必ず戻れ」と言った王の顔をぼんやりと思い起こした。ローリーへの同行を拒否して王のもとに戻るのは、本当に正しいことなのだろうか……?
「ジェニー、早く」
ローリーが焦りをにじませて、ジェニーを急がせる。ジェニーは無意識に彼の手をよけ、後退した。
「ジェニー、どうしたんだ」
「やっぱり行けない」
ローリーが苛々として、ジェニーの手を引っぱった。
「迷ってる時間はないんだ。おまえがどうしても子どもが必要だって言うんなら、あとで取り戻すことを考えよう。ともかく、来て」
ジェニーは彼の手を振り切ろうとし、彼の驚きを呼んだ。
「行けない。行かないわ、ローリー。一緒に行きたいけど、私は行けないの」
「ジェニー、困らせないで」
ローリーの真剣な表情を見れば見るほど、ジェニーは辛くなる。
王と残るのが正しいのか、兄と一緒に行くのが正しいのか、実のところ、ジェニーには判断がつかない。どちらも正しく、どちらも間違っているように思う。ただ、ジェニーは王に「帰る」と約束したのだ。ジェニーはもう一度、王のあの笑みを彼から引き出したい。
ジェニーの手を引きずっていこうとしたローリーが不意に立ち止まり、ジェニーを凝視した。
「……ジェニー、おまえはまさか――ヴィレール王が好き……なのか?」
好きだ、どうしようもなく。
王の顔を思い出すと、ジェニーの目に勝手に涙がにじんだ。彼の前から何も言わずに消えるようなことだけは、絶対にしたくない。
「王城なんかにいるから、おまえもおかしな考えになるんだ。ジェニー、僕と一緒に行こう。ジャンヌ叔母さんもおまえに会えるのを楽しみに待ってる」
ローリーの手にいっそう力がこもり、ジェニーはそこから逃れようとして、体をねじった。その反動で、ジェニーの瞳から涙が流れ落ちる。
「ローリー、やめて」
「黙ってついて来るんだ」
「私は行かないの、放して」
ジェニーたちが押し問答となっていると、急に周囲に複数の足音が聞こえ、騒がしくなった。そしてそれと前後して、ローリーの背後に、剣を手にした男たちがいきなり現れた。
「そこの男、ご婦人から手を放せ!」
ベアール家の使用人ではない、招待客の男たちだ。ジェニーがローリーの背後に見たのは二人だったが、ローリーが身を硬くして見つめている先には、あと三人、やはり招待客の若い男たちが剣を抜いて控えていた。その後ろには、ジェニーの侍女が短剣を持って身構えていた。
「ジェニー様、ご無事ですか?」
そのうちの一人が放った言葉に、ジェニーは彼らが近衛の者だと確信する。
近衛を動かせるのは王だ。彼が園遊会に出席するジェニーを心配し、近衛を動員して、身辺警護にあたらせたのだろうか? だから、ジェニーにぴったりと付き添うように、ライアンが王城から同行してきたのか。
ジェニーが何も問題ない、と答えても、彼らのローリーに対する疑いは晴れないようだ。
「本当に何もないの、ちょっとした行き違いがあっただけ」
庭園にいる人々の注目を浴びたくなかったジェニーは、男たちの後ろから、ライアンが歩いてくるのをみとめて、ほっとした。彼は事態を収拾してくれる。
だが、ライアンが口を出す前に、ユーゴが慌てて飛び込んできた。彼はローリーを腹違いの弟と説明し、ローリーの軽率さを謝罪し、ジェニーの前からローリーを急いで奪い去っていった。あっという間の出来事だった。
ジェニーは、ライアンが近衛の男たちに何かを指示しているのを見ていて、突然、彼らの任務はジェニーを守ることではなく、ジェニーの逃亡を防止することにあったのだと気づいた。ベアールの家には護衛担当の者たちが各所にいるし、園遊会という平和な場で、何人もの男がジェニーを守る必要はない。ライアンが、嫌いなジェニーと共に窮屈な馬車に揺られて来ることも、彼女を監視するためにほかならない。
王は今でも、ジェニーが逃亡すると疑っているのだ。