エピソード1 第1話「晴天におちる霹靂。」
東京、正確に言えば東京とその周辺のごくわずかの地域。そこは、日本で唯一の人が居住している土地である。これより外は、致死率の高いウイルスが蔓延しているために、人間は住むことができない。
現在は、東京は南地区、北地区、西地区、東地区、中央地区の五つの地区に分けられていた。
そして、東西南北の4つの地域全てに特異体質者が起こしたと思われる事件の捜査及び犯人の確保を担当する特異体質者対策機関の支部が置かれ、中央地区には本部が置かれている。
「あぁ?!なんだてめぇ!!」
そんな町の隅っこで、鋭い声が響いた。
そこには、大きな男と細く若い青年がいた。
「えぇと…。その、特異体質者対策機関南地区支部第弌班の阿須波火照と言うものでして…。」
そう言って、阿須波火照は胸のポケットの中から手帳を出し、その男に見せる。
「!!」
大男は、彼が特異体質者対策機関であるということに驚きつつ、その手帳をじっくりと見つめた。
「その、特異体質者対策機関の奴が俺に何の用だ?逮捕しに来たか?」
「逮捕というよりは、お話を聞きたくて。あなたは『神喰い』という方達の名前を聞いたことはございませんか?」
『神食い』のワードに大男は、ピクリと反応した。そして、顔から滝のように脂汁が、流れた。
「何か知っているのですか?」
阿須波は、ニヤリと笑い大男に迫った。
「あいつらの事には、あまり関わりたくないんだ。情報を提供したのがバレりゃ殺されてしまうんだ。本当に勘弁してくれ!」
「もし、ここで喋らないのなら、私たちが連行しますが?」
プチリ。そんな音を大男は聞いた。間違いねぇこれは、堪忍袋の緒が切れた音だ。
「なめてんじゃねーぞ。クソガキがー!!」
大男は、阿須波火照に殴りかかった。
バコン!!
乾いた鈍い音が、薄暗く細い道に響いた。
殴られたのは紛れもなく阿須波火照だった。
「え!?」
大男は特異体質者を殴れたという現実をなかなか受けいられなかった。全人口の1%の逸材で、神の子とさえ呼ばれる彼らが、こんなに弱いとは思えなかった。
「そっか。俺が強いのか…。はははっーーー!!こんなものか?特異体質者っていうものはよ!!おら、立てよクソガキ。」
大男は自分が凄いという結論に至った。
それからも、彼の暴行は終わらず。約10分の時間が経った。
「へっ!今日はこれぐらいにしてやるよ。」
大男は鼻高に立ち去ろうとしていた。
その時
「おい待てよ。」
大男は全身が凍りつくような感覚を味わった。
地獄の淵に、立たされたかのような恐怖が彼の脳を支配していた。
阿須波火照は、血を吐きながらも立っていた。そして彼の目が、血のように紅く染まっていた。
「テメェーがこれで満足したっていうのなら、次は俺の番だな。」
大男は、自らの死が迫ってきてるのを知った。そんな彼の思考はただ一つだけ。
逃げなければ“死ぬ”。
しかし、恐怖で足がすくんでまともに動けなかった。すぐに、大男は派手な音を立てて、転んだ。
「とりあえず、任意同行お願いしますね。」
阿須波は大男の肩に手を当てて笑顔で告げた。
大男は、涙目になりながらも、ガクンガクンと首を縦に振った。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
阿須波は、足の傷跡を消毒されて、絶叫した。
ここは、特異体質者対策機関南地区支部である。阿須波が、連れてきた男は現在取り調べ室でおなじチームである峰潮カズマがあいてをしている。
「こら!!あまり、足を動かさないの。消毒がし辛いじゃないの。」
阿須波の傷跡に、簡単な処置を施している女性の名は、歳刑 姫である。
「あなたは南地区支部の精鋭が、集められた第弌班の立派な班員よ。あんなやつ相手にボコボコにされてるんじゃないわよ。」
「でも、やっぱり、ナイフとか使って応戦すると怪我させちゃうかなって思って…。」
そう言って阿須波は、腕を見せた。
「ほら、治癒能力だって、ちゃんと働いてるし、一度、能力を発動させてしまえば、こっちのもんだよ。」
「まぁ、貴方がそれならべつにそれでもいいけれど…。」
彼女は救急キットを片付けて、資料をだした。
「鈴谷さんは、今日も来ていませんか?」
阿須波は、歳刑に聞いた。
鈴谷とは、つい先日新たに第弌班に入ってきた少女の事だ。
「そうよ。最近のJKは、4年も見ないうちに変わってしまたっよ。私がいた頃は、みんなあんなに捻くれてなかった!!」
「怪我だけは、しないでほしいですよね。」
阿須波は、心配そうに言った。
「お前が言うな。」
歳刑の冷静なツッコミは、つくべきところを瞬時で、ついた。
「しかし世の中も物騒になってきましたねー。」
阿須波は、ため息混じりに言った。
「特異体質者、それも特異体質者対策機関に所属する人達を殺す犯罪集団。『神喰い』。何のために僕たちを狙うのか…?」
「第弐班が、全滅するほどの強さだからね。私たちでもかなり、手こずると思うよ。」
阿須波は、現実逃避をするかのように資料を読むのに集中した。
「もしかしたら、中央地区支部と合同で捜査する事になったりしませんか?」
「第弐班は、全員死亡したわけじゃないから、まだ危険度はなきにしもあらずなのよ。私たちが全員死んだら、中央地区とどっかの地区の弌班の合同捜査が、始まるのじゃないかしら。」
「そうですか…。」
阿須波の希望は完全に折れた。
「あっ、歳刑さん。取り調べ終わりましたよ。」
そんな時、峰潮カズマは呑気な口調で部屋に入ってきた。口には、タバコをくわえている。
「峰潮!なにかわかった?」
歳刑が期待の眼差しを峰潮に向けると峰潮は、もちろんと言った。
「あの大男、組織の主要人物を全員知っていたぞ。しかも、能力もだ!」
それを聞いて阿須波と歳刑のかおが明るくなる。戦いにおいて、相手の能力を知れるのは、かなり大きなことなのだ。相手の能力を知るだけで戦闘はかなり有利になることもある。
「でも、その中にちょっと考えられない能力を持ってる人がいるんです…」
峰潮は、暗い顔をしながら言った。
暖かくなった空気は、たしかにピキリと音を立てて凍った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「やめてくれ!!せめて、命だけは!命だけは!!」
一人の男が、声を裏返すほどに必死に命乞いをしていた。
「は?」
少女は、それに明らかな嫌悪感を示しながら剣を振り上げた。
しかし、その剣を彼女は振り落とすことが出来なかった。剣が氷によって地上と結びつけられていた。その氷は、どんどん剣を侵食して指にまで迫っていた。
「誰かしら?私の邪魔をするのは。」
少女は剣を“消した”。
「生憎、彼は俺の仲間でな。彼を殺したいのなら、俺を殺してからにしてもらおう。」
「あなたは、『神喰い』の人かしら?」
「なら、どうする?」
「殺す。」
彼女の手の中から銃のようなものが出てきて、彼を狙い撃つ。
それを見た彼は一言言った。
「お前も、災難だな。あんなとこに入れられて。なぁ、鈴谷 華風。」




