私の好みが世界を変える 後
第三話です。あと一話、お付き合いくださいませ。
彼女が元の世界に還ってから3年が経った。
正直いってあの時の憂いの全てが晴らされたわけではない。相変わらず頭を抱えている。
それでも、多少異文化が入ったことで人々好奇心が満たされ、興味が分散された。
お蔭で、ただの荒くれ者になりそうな者達や人間以外の、人より身体能力が優れている獣人、人には無い魔力を持っている魔人といわれる者達とも今はうまくやれている。
とはいっても、どこにでも自分本位のバカは居るもので、あちこちに火種は落ちている。
そんな状態なので、心穏やかにとは中々いかない。
王は相変わらず何故危機を持つのか分からないでいる。
突然、それは起こった。
各国同時に起こったということは目の前の状況でわかった。
目の前に、大きなスクリーンが現れた。
それには見覚えがあった。あの日に、彼女が設置したものと同じだ。
各国の様子が映った。そして、各国との音声も通っている。
そして、あの小島にあの時の女が居た。
《久しぶりであるが、元気にしておるか?》
「ああ、元気だ。そちらは変わりないか?」
驚きと懐かしさに目の奥が熱くなる。たった3年。印象深く刻まれた女の変わらない姿にあの時のお礼を言わなければと思ったが、言葉を紡ぐより先に話しかけられた。己の口からとっさに出たのが当たり障りの無い言葉であるのが悔やまれる。
《こちらでは近頃天狗が騒がしくてな。なかなか大忙しな日が続いておる》
『天狗』が何かわからない。
《利口だが血気盛んでな。そのやんちゃ具合が可愛いのだ。山の頂上決戦をさせておるのだが中々終わらない》
以前の時より饒舌だ。
《なかなかの美男子揃いでな、ふふ、勝者のもとに嫁ぐといったら始まってしまった。アヤカシと番になっても子は成さぬというのに。困ったものだ》
困ったとは言っても嬉しそうだ。人間ではないが同様の体や知能を持つ生き物なのだろうか?我々でいう獣人やアンデッド、の様な括りの人のことを指すのかもしれない。
「美醜の感覚は同じなのか?」
《そのような個人差があるもの、聞くだけ無駄であろう?》
懐かしさと驚き、不思議さを感じながらも冷静さを失わず話していると他国からも会話に参加するものがでた。
「なんとお呼びすればよいか、娘御よ」
《これでも一応、国では姫神子と呼ばれている。だが、どのように呼んでもらってもかまわない》
「では、姫様と呼ばせてもらうことにする」
《わかった》
一国の姫であるのか?。この落ち着き具合は育った環境も一因であるのか。
「姫様!先ほどの天狗とは?」
《黒い大きな翼を持っている鳥のような人型のアヤカシだ》
「なんと、鳥獣人!」
「我らの国でも姫様にあやかって鳥獣人の一番を決めよう!」
「姫様が伴侶に迎えるのが鳥獣人!!」
「鳥獣人の時代だぁ~!」
姫様はふふと笑っている。
《そうだ。あまり時間も無いことだし本題を言おう。この姿でなくなっても、同じ魂を持つ者が度々訪れる。こちらの文字の理解はそなたの血を引くものに引き継がせよう》
指名されてしまったが、短い時間の中で最も交流があるのが自分であるのだから当然か。
《邪な心が一定以上になったとき、ここに立ち入る事も言葉の理解もできなくなる。そのように術を施す》
「分かった。国をまとめるものが邪な心にまみれては困るからな」
《だが、上に立つものは清濁合わせて飲まねばならぬ》
「だから一定以上、か」
中々手厳しい。しかし自分ならやれる。志を同じくする者達も居る。
姫様に負けてなるものか。
《此度は詩歌と先達の記した書物を手土産に持ってきた。興味があるだろう?そなたは分かりやすい》
「ありがたく受け取る。が、そんなに顔に出るか?」
《ふふ》
その笑った顔を見て、なんとなくだが初めて年相応の表情を見た気がした。
ああ、お礼を言いそびれた。
◇◆◇
《王子さまは白いお馬にのってるんだよ。でね、でね、可愛いお姫様にチューするの!パパとママもいっつもチューしているんだよ》
現れた姫様が幼女だったこともあった。幼女の口から出たチューとは接吻のことなのだと思うが、こちらが赤面である。
《もう少しでツクモガミになりますのに…ああ、良かった。壊れておりませんわ》
妙なものを置いていかれたこともあった。
《ここは?先ほどまで城の屋根裏にいたはず…》
…怪しげな黒装束で軽やかに舞い、投擲武器を操る。とても姫には見えない姫様だったこともあった。
《見て見て!ランドセル、二つあるの!お爺ちゃんとじいじがくれたんだよ!でもね、同じのだし、一個を大事に6年間使うの!!だから一個あげる!あのね、あのね、学校行ってお勉強するんだ~。えりちゃんもたっくんもわっしーもみんな一緒なの!》
学問に取り組む年齢、そのシステム。不完全な情報であったが取り入れたいものであった。
《ホントに異世界?ちょ、真面目に?じゃあさ、骨!骸骨!スケルトンいる?いるの?ホントにほんと?》
多種族からは表情が見え難い為に交流が浅いスケルトンが大人気となった。
《モンスターっていったら吸血鬼ですわ。実物は存じ上げませんが、あの美貌と高貴さ。心に想うだけで血が沸きますわ》
モンスターではないが、「吸血」という行為に嫌悪感を示し、妄想で悪評を振りまく輩から吸血鬼を守るきっかけとなった。誤解を解かれた吸血鬼達は隠れるように住む必要がなくなった。
《美形すぎるのって苦手なんだよね。あ、ムサイおっさんもいるじゃん!あ、あの、こっちでぎゅってしてもらえない、かな?エッ…こっちに来れない?マジで?……おっさんら~~ぶ!!!》
どの種族でも若く美しい者が持て囃されることが多く、容姿が若干劣ったり加齢により衰えをみせてくると人々の明るさが翳っていってこと、世間との価値観の違いから己の好みや好意を伝えるのを控えていた者達がそれを表に出したことによって、婚姻と出生率が上がり、離婚率が低下した。
姫様がもたらす物は、物だけでなく、時には知識、あちらの常識等形がない物も多くあった。
我々はその中で利用できそうなことを選んで取り入れた。
人の力が強かったこの世界。しかし、不定期に姫様が好み選んだ種に光が当たり、その立場は段々等しくなっていった。
今現在、世界的には男は油の乗った世代がもてはやされている。人種では狼獣人が時の人だ。
女も同様に子育てが終わった世代が「熟女」と呼ばれ大人の包容力に男性達の一部が心を奪われている。
幼女が流行った時は犯罪も増え世の中が荒れた。美少年が女装に嵌った時は美少女達が荒んだ。
デブ専とやらが流行った時は、肥満による病気が早死を招き、医療の発展があった。
物事に於いては、最近「占い」が流行っている。
先代の王の時に訪れた姫様が齎した物を時間を掛けて研究し、実験をして漸く販売にこぎつけた。
種類は統計学者の一部が纏め上げたもの、姫様が置いて行ったタロットカードによるものなど様々だ。
ただ、これも中毒性、依存性があるようで新たな問題も起きている。
それでも、楽しみでならない。
父もそうであったが歴代の王達が姫様に会うのを楽しみにしていた気持ちがよく分かる。
初代の姫様が最も本物の姫らしくあり、その威厳があったと記され残されている。
どの王が書き残した物もその事実と言葉の内容の他にその時の心情が書かれており物語を読んでいる気分になる。
段々と姫様が庶民化しており、大臣の中には品の無さに呆れ、敬う事ができないと嘆いている者も居る。確かに、その奔放さに思うところが無いわけではないが、残された知識をまとめると、もう姫様の世界では初代様とはもう違う体制の統治、政治が行われているのだろう。姫様の立場はもう本物の姫ではないに違いない。しかしながら纏う衣類の素材、縫製、そして持ち物、書物の紙の質、その技術、姫様の明るい性格、肌艶、艶やかな髪。
どれをとってもここより豊かで優れているのだろう。
許されるならば姫様の世界へ行ってみたい。
父の時に見ることが叶ったあの姫様に、再びあの姫様に会えたなら…一緒に連れて行ってはもらえないだろうか。思っても決して口に出してはならない事なのだろう。
姫様の魂に惹かれるのは姫様の呪いなのだろうか。
守り、発展を任された血族故の優越感と執着であるのだろうか。
恋しい──とは異なる。
なのに惹かれる。
後ろ髪を引かれるが、気合でそれを断ち切り替える。
またいつでもお越し下さい、姫様。
心よりお待ちいたしております。
最後まで読んで下さりありがとうございました。
気が向いたら続きを書くこともあるかもしれませんが。
よかったら他の作品も読んでいただけると嬉しいです。
20160729 さとう裕斗




