私の好みが世界を変える 中
恋愛要素が無いせいか、他の2作品と違い、糖度ゼロです。
多種多様の種族。
世界各国に於いて、多くの国が人間が頂点に立ち、争いが紛争が戦争が侵略が差別が絶えない。
この国もまた、他に漏れず、そこに静かに向かっていた。
静か過ぎるその音に気付くものは少ない。まだ、幸いな事に燻りもなく、───このまま行けばいずれそうなるなろう。
過ぎたあらゆる欲を持つ者は必ず現れる。
「父上。平和な今のうちにこそ手を打っておかなければならないのです」
「本当にそんな事が起こるのか?考えすぎではないのか?」
なぜ分かって頂けない!これだけ歴史が語っているのに!今のままじゃ停滞が悲劇を生む。
過去の平和と過去の遺産だけじゃ駄目なんだ。
安定はイコール平和ではないのだとどうして分からない!
犯罪者が求める刺激や興奮、肉体が充実している者の力の発散…。どれも穏やかであるからこそ、求めるものがいるのだ。
何か争いにはならず、競争で済むような事で発散できないだろうか。スポーツでは参加できる者が限られる。
文化でも同様か。
種族年齢性別係わらず、世界中で何か大きなイベントを起こせないだろうか。
ご先祖様よ、何か閃きを!
他国の友人と連絡を取る。
考えに賛同してくれた者は、残念な事に真剣に憂いていた訳ではなく、好奇心であった。
それでもいい。ここで停滞し争う時代へ向かう事を考えれば、例え好奇心であろうととも手を打つ事ができるのだから。
「しっかしさぁ、上手くいくの?」
「これもある意味誘拐でしょ」
「そ。しかも国単位での」
「ばれたら大ごとだよねぇ」
「面白ければ何でもいいよ」
計画したのは、未確認だが存在していると信じられている異世界から「この世界の停滞を止めるものを招く」こと。
分かっている。これが誘拐であることを。非道な行いである事も。
方法は今は分からないが送還の方法があるらしいことも。
この辺についての記録は曖昧で、理由も伝わっていない。
紛失?誤魔化したい?残せなかった理由がある?
考えても答えは出ない。
軽く頭を振って気持ちを切り替える。
方法は、不思議なものだった。
残されていたいたのは、絵と譜面。言葉の意味は解らない。何を示したものなのだろう。
男六人で手を繋ぎ輪を作る。その状態でぐるぐる回りながら謡う。
♪か~ごめ、かごめ。か~ごのな~かの…
繋いだ円の中が光る。
何かが起ころうとしている。
声が小さくなってしまったので叱責する気持ちを込めて手を強く握る。
再び歌声は高らかに流れる。
♪つ~るとか~めがす~べったあー。うしろのしょうめんだ~あれ♪
光が収束していく。───輪の中に人が座っていた。
言葉が出ない。
長い黒髪。白い顔。細い目。体のラインが全く出ない服。とても低い背。だが、子供ではなさそうだ。
神秘的な感じはするが、決して美人ではない。かの世界ではこれが美しいのだろうか。
「物の怪ではないようだな」
口の利き方にカチンとくる。思わずムッとしてしまったが呼んだのは我々だと思い出し心を改める。
「御呼びだてしてしまい、申し訳ありません。そして、お越し頂きありがとうございます」
頭を下げた私に合わせて居合わせた者達皆も頭を下げた。
だが、我々に目を向けることなくぶつぶつと何事かを唱えると「パリン」と何かが割れる音がした。
「何を!!」
女は何やら一人でうんうんと頷いた。我々のことは完全無視だ。
更に、指を二本立て、人形を模った紙を放るとまた何やら唱え始めた。
「もっとこちらへ来るか、遥か遠くへ行かねば危ないぞ?」
何だか分からないが「遥か遠く」は無理なので、女の側に寄った。
「私の両脇に別れろ」
口の利き方なんてもうどうでも良かった。言葉を発する事も出来ずに従ってしまう。そうさせる何かがある。
地面から土煙が上がってきた。
「何を…!」
「何だか解らないけどわくわくするねぇ」
女が声を大きくした。
「失明したくなければ目を瞑り手で隠せ。良いというまで開くな。あと、五つ数えるまでに行え」
慌てて言われるがまま目を覆う。こっそり指から覗くと目が合った。じとりと背中が冷たくなる。
「潰れても責任は持たぬ。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ」
興味はあるが失明などしたくない。おとなしく従おう。
目を隠したから実際何が起きているかはわからなかったが瞼と手で覆っていたにもかかわらず、白く焼けたように眩しさと熱を感じる。確かに目を開けたままだったなら視力を失くしてしまっただろう。
それにしても何をしたんだ。この女はなんだ。何を呼んでしまったのだ。間違ったのだろうか。
考えに耽っていると「もうよい」と声を掛けられた。
「足元に気をつけられよ」
そっと目を開くと執務机ほどの地面の上に立っていた。
「少し待て。動くでない。式よ」
紙のようなものが数枚舞い上がり我らを乗せると女から距離をとった。
「地図はあるか?この世の全ての見取り図はあるか?」
「数枚にわかれているがかまわないか?」
「よい」
全員が手持ちのものを渡す。
「各国の首都は朱色の文字のところか?」
「ああ、そうだ」
指を二本たて、何か分からないことを行っていく。
ここまで何も分からないと意外とどうでもよくなり気にならなくなっきた。
ただただ、じっと見続ける。それしかすることがない。
下手に動けば水の中に落ちてしまう。濡れるのは構わないが、いや、やはり嫌だな。
深さが分からない。どんな生物がいるのか分からない。泳げるが、衣服着用では溺れる可能性もゼロではない。
不思議だ。そうとしか感想がでなくなってきた。
「できた。起動する」
目が合う。
「…」
横から突かれる。変わらず目は合ったまま逸らされない。
「ああ、頼む」
「起きておるか?憑き物の気配も無いが。具合が悪いなら横になるとよい。落とさないから心配するな」
ああ、そんなにそぞろだったか。いけない。
「失礼した。大丈夫だ」
「なら、よい」
声に心配する感情が篭っていた。平らな顔で表情が読み取り難いが、同じ様にちゃんと人であるのだろう。
終わったら彼女を元の国へ還してあげなければ。
小柄だが、これだけしっかりしているのなら立派に大人なのだろう。
向こうには夫や子供だっているのかもしれない。
このあと、どんな国から来たのか聞いてみたい。どんな文化なのか知りたい。使っているその「術」は何なのか知りたい。どのような歴史から成っているのか知りたい。
「おい…」
肩を叩かれる。顔を上げるとそこには世界が映されていた。
言葉が出ない。映されている向こう側にも絶句している者、慌てふためいている者とが見える。
どうすればいいのだろう。ああ、音声つきなのか。ならばこちらからも声は届くのだろうか。
「世界を繋いだ。今回だけは時間が必要だろう?6時間だ。それで閉じる。霊力が在るモノは…弱くて無理だな。着物を置いていこう」
腰に巻いてある紐を解いていく。
「若い娘がなにをするのだ」
恥ずかしくないのか。世界が違うと羞恥をおぼえることも違うのか。
ああ、頭が痛い。
「大きさを変えて真似て作ってみるといい。新しい発見があるだろう」
胸元から四角いものを取り出してきた。
「これは経だ。神仏に仕えるものだけでなく皆が唱えてみるといい」
「ああ」
手渡されたが、読めない。
「読めぬ」
口から零れる。
また何か文言を唱えると手をすいと動かした。
「これで問題なかろう」
聞きたいことがたくさんあるのだ。
「では」
ああ、まだ行かないでくれ。
もう還るのだと何となく判ってしまう。
「待ってくれ。恒久的な平和をあなたは築けるか?」
「無理だな。平和の基準がわからない」
望むものの水準か。不透明なものだ。
「だが、働く気力、健康、学問、いろいろ大切なものはあるだろうが人に、物に、神仏に感謝することを忘れてはならぬと思うぞ」
「そうか」
もう一つ聞きたい。
「そちらは平和か?幸せか?楽しいか?」
ふふっと笑みがこぼれている。それが答えか。でも、言葉で聞きたい。
「ああ、そこそこ平和だ。魑魅魍魎もいる。アヤカシも居る。生霊もおるぞ。だが、衣服もある。屋敷もある。帝も健やかに賢く育っている。まあ、たまに飢饉もおこるし、薬が効かない流行病で多くの者が命を落とす事もあるがな」
分からない言葉も含まれているが、どこも変わらないということか。
「戦は?」
いつの間にかここでのやり取りが注目されていた。多くの視線を感じる。
「望んでいない。が、気持ち足並みが常に一緒とは限らない。どこか1国でも武力を持っているなら、戦を起こさない為に武力を保持しなければならぬ。難しいか?」
「いや」
「戦は形を変えていつでも起こっている」
「そうか」
「奪うな。知恵をつけろ。そして国の財布と家庭の財布を一緒にするな」
当たり前だ。
「解っておらぬな」
「公私混同するなってことだろう?」
「そんな軽い意味ではない。解るまで考えるがいい」
見た目子供の癖に。……癪に障る。
「日々があっという間に過ぎていく。幸せだ。今夜も楽しい酒が飲めそうだ」
酒を飲むほど大人なのだな。
「また来るぞ。その時にはそなたらの顔がもっと明るくなっていることを願う」
その言葉を言い終えると共に消えた。
「おい、これどうすればいいんだ?」
ふよふよと浮かぶ自分の姿が湖面に映る。試しにしてほしいことを伝えてみる。
「あそこに降ろしてくれ」
言ってみたらあっさり言う事を聞いてくれた。
さあ、ここからが腕の見せ所だ。
また来ると確かに言った。
本当に会えるかどうか分からない。
でも、やることは変わらない。
まずは忘れないうちに紙に記そう。
軽く言っていたが忘れてはならない。
でもきっと、忘れてしまうだろう。
そんなときはこれを見る。
今日という日だけは忘れない。
スクリーンの向こうの人に説明をする。
この日の会議は時間いっぱい行われた。
限られた時間の中でどこの国も必死だった。
自国の利益だけをなんていう代表は運よくその場に居なかった。
それも彼女の采配だったのかもしれない。
いや、これだけ都合がいいのだから間違いなくそうなのだろう。
彼女の衣服を真似たものが各国で流行した。
冠婚葬祭では経があげられた。
毎日唱える者も多い。
彼女の影響は世界に広まった。
たった一人の女が大きな旋風を巻き起こした。
真似て召喚を行うものが続いたが1つも成功しなかった。
多分だが、彼女が何かしたのだろう。
あちらの世界には彼女のように不思議な術を使うものが大勢いるのだろうか。
生きているうちにまた会えるだろうか。
「あの白くてちっこい嬢ちゃんに恋したとか?」
「いや」
「面白いけど、あれはないわ」
「だな」
恋ではない。
でも、またいつか会えるその日を楽しみに進もう。
お読み下さりありがとうございます。




