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1幕 姫騎士アイーシャ、愛しの王子

 真暦1971年。

 東方のバラバ王国は大王(シャー)ハリードの活躍により長きに渡る戦乱を収め、再びの安定を手に入れようとしていた。

 勇敢な息子達、賢い妻達、そして忠実な家臣の助けを得た大王(シャー)ハリードの統治でバラバ王国は平和へと向かおうとしていた。


 そして、王都アジナバールの宮殿。その一画にある庭園に二人の人がいた。

 一人は王の末息子クルジュ、もう一人は大貴族イサウロ家の姫アイーシャである。

 幼馴染みの二人は噴水のほとりに腰掛け、時折手で水面をぱちゃぱちゃと跳ねさせている。一見すると絵になる構図だが、天上の星々もかくやの美しさであるアイーシャに対し凡庸な顔立ちのクルジュなのでいまいちサマにならなかった。


【クルジュ】「僕も15歳になって成人の儀も済ませたし、そろそろ初陣なのかなあ」


【アイーシャ】「そうですね。時期としてはもう間もなくでしょう。いずれ陛下からお達しがあると思います」


【クルジュ】「やっぱり、そうだよね。でも怖いなあ……僕、戦うの苦手だしさ。稽古でも負けてばっかりだしさあ」


【アイーシャ】「殿下は軍の指揮官になられるお方。前線で戦う必要などありますまい」


【クルジュ】「でも用兵の練習でも上手くいかないんだ。こっちも負けてばっかりさ」


【アイーシャ】「練習は練習、実践は実践です、殿下。戦に於いては練習が上手いからといって実践出来るとは限りません。逆もまた然りです」


【クルジュ】「あはは、慰めてくれてありがとう。アイーシャはいつも優しいなあ」


【アイーシャ】「い、いえ、慰めているのではなくて……その、わたしは本当にクルジュさまを信じているのです! あなたは出来ます!」


【クルジュ】「そうかなあ……でもありがとう。そう言ってくれると嬉しいよ、あははは」


【アイーシャ】「クルジュさま……」


【クルジュ】「あはは、はぁ……でも正直アイーシャが凄く羨ましいな。アイーシャは僕と同い年なのにとっくに初陣も果たして、軍も指揮してるし、剣も馬も抜群に上手い。父上もアイーシャの助言を有難がってる」


【アイーシャ】「運が良かっただけです、殿下」


【クルジュ】「そんなこと無いさ。実力だよ。アイーシャは天才だもんね」


【アイーシャ】「天才などでは……出来ないことも山程あります。ただ神が助けて下さっただけです」


【クルジュ】「ならアイーシャは神様に認められてるんだよ。羨ましいなあ……僕なんか何にも出来ないし、せめて皆の足手まといにならないようにしないと」


【アイーシャ】「クルジュさまが足手まといなどと! ありえません!」


【クルジュ】「あ、ありがとう。でもさ、もし何かあった、僕がやっぱり駄目だったら、アイーシャ、助けてくれる? なんてね、あはは」


【アイーシャ】「勿論です! クルジュさま、わたしは常にあなたのお側におります。どんな時でも、どんな場所でもです。必ずです! お誓い致します!」


【クルジュ】「あ、ありがとう。やっぱりアイーシャは優しいなあ。アイーシャのそういう所、僕好きだよ」


【アイーシャ】「は、はい!」

【アイーシャ】(ああ、クルジュさま……優しいのはあなたです。わたしにこんなに優しくしてれるのはあなただけ。ああ、好きです! 大好きです!)


 笑顔を向けるクルジュにアイーシャの頬は熱く、赤くなっていく。

 言うまでも無い事だが、才女アイーシャは王子クルジュに恋していた。


【アイーシャ】(わたしは本当にあなたを愛しているのですよ。その証明に必ずやあなたを王にしてみせます)


 それも並々ならぬ愛情を注いでである。


【アイーシャ】(あんな老いぼれ王やクルジュさまの兄を名乗るクズ共なんかよりずっとずっとずーっとあなたの方が王に相応しい!)


 末の王子であるクルジュの継承順は低い。もし彼が王位を手に入れるとするとしても、それは王と兄王子達が消えてからの話である。


【アイーシャ】(ああ、クルジュさま。ほんのすこしだけ待っていてね。直ぐにあなたに玉座を贈ってあげるわ。あなたに輝ける未来をあげる! そして、そして、そうなったら、きっとクルジュさまはわたしを妻に……きゃっ、わたしったら、はしたない!)


 顔を赤くさせてニヤニヤするアイーシャを見るクルジュ。ニコニコと笑顔を浮かべるその裏には……


【クルジュ】(アイーシャ、何だか分からないけど嬉しそうだなあ)


 特に何もなかった。クルジュとはそういう人だった。


 良くも悪くも純粋な若者二人。彼ら、いや彼女らがどの様な存在となり、歴史に影響を与えていくのか。そして、何より恋は実るのか。今はまだ神のみぞ知ることであった。


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