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ナタリエ「この恨み、はらさでか!……あ、あそこに霜降りが!」

霜降りは、関係ないですね

最愛の夫、レーベルが溜息を吐いた。そんなに呆れなくたっていいじゃない。


「……行くか」

「いーやー」

「駄々を捏ねるんじゃない。ほら、ロドリゴさんかレヴニル殿に会いに行くぞ」


そう言ってあたしは鱗に覆われた逞しい腕で襟首を掴まれて警備部隊の事務室に連れて行かれた。何時もならときめくこの蒼いムキムキの身体も、凛々しい横顔も、色褪せて見える。


いや、いつもは優しいのよ?だってまだ結婚して五年だもの。新婚なのに。


「レーベルです」


着いたみたいだ。嫌だなー。一介の料理人に尋問されても〜、あたし、困っちゃう。大丈夫よ、あたし、疚しいことない……わけないじゃないか!ど、どどど、どうしよう……!


「入っていいぞー」


ロドリゴさんの緩く野太い声が私には死刑宣告に聞こえる。


「ロドリゴさん、お疲れ様です。密売組織に関して、ナタリエが関わったみたいで」

「なんだって!?おい、レヴィ、調書取るぞ。用意しろ」

「隊長、そんな大声出さなくたって聞こえますよ」


レヴィは紙とペンを持って近づいてきた。学院時代からの付き合いで、結構容赦ない性格だって知ってるから恐ろしい。うう〜、なんか黒いオーラが見える!

そして頭の中を、コッソリもらった恋茄子(マンドラゴラ)の葉や精霊樹(ドライアドの依代)にだけ生える妖精茸マジックマッシュルームなんかが駆け巡る。美味しかったなぁ!


「ナタリエ、正直に話すんだ。話せば楽になるよ。ホシノ特製のカツ丼がもうすぐ配達されるよ」


なんですって!ホシノがリリーちゃんとサヨ様と開発したっていう牢獄への誘惑(カツ丼)!?作るのに覚悟がいるから城の職員はおろか料理人さえ口にしたことがない天上の至福(カツ丼)

これは、しゃべる(自白する)しかっっ……落ち着け、落ち着くんだあたし。キラキラなレヴィの雰囲気に呑まれちゃ駄目よ。


「へえ、これは興味深いな。城に出入りする業者に密売組織が紛れ込んでる……?」

「可能性は高いな……。レヴィ、早急に、秘密裏に調査隊を組織し、出動させろ」

「隊長、明日の準備の為に殆ど出払ってて今残ってる者達は隠密行動苦手なんですが」


レヴィが困ったように言った。因みにあたしは洗いざらい話させられてぐったりしている(幽体離脱中)……。主な原因はレーベルに叱られ、カツ丼をあたし以外の三人で平らげたこと。許さん。リリーちゃんから教わった真理の言葉(食物の恨みは怖い)を理解させてみせようではないか……!


禿げろー、禿げろー、禿げの呪いにかかれー


ロドリゴさんのツヤツヤな紫の髪よ、円形に散れ!天辺で!

レヴィの柔らかい茶髪よ、簾のようになってしまえ!M字ハゲも可!

レーベル、はどうしようかな……禿げる前に脱皮するしな……


あたしが悶々と呪文を内心で唱えていると、不穏な雰囲気に気づいたのか、それともただ単に邪魔だったのか、ポイッと外に出された。


傷心な私はそこでハッと気づいた。今日、『乙女の裏側』じゃん!


説明しよう!『乙女の裏側』というのは、魔王城に勤める女性の有志の懇親会(ダベる会)である。大体月一で開かれている。


るんるん気分で第二会議室へと向かう。手土産はレーベル秘蔵のお酒。竜殺し(ドラゴンスレイヤー)の魔酒。調理酒としても薬品としても有能なお酒。竜殺(ドラゴンキラー)と間違えやすいのよねぇ。……ホントはこないだ焼いたクッキーにしようと思ったんだけど、いつの間にか消えていた。……これが『人を呪わば穴二つ』?


第二会議室の扉を軽くノックして入ると、既に沢山の女性職員がどんちゃん騒ぎしていた。


「ナタリエさん、遅かったですね。何かあったのですか?」

「メリエーヌ会長!聞いてくださいよ」


あたしは今日の取り調べを掻い摘んで愚痴った。メリエーヌ会長はヒレをそよそよさせながら大変だったわねえ、とうなづいてくれる。いつの間にかリリーちゃんもちびちびブドウジュースを呷りながらそばに来て相槌を打っていた。


「リエちゃん、他にも地味な呪いを教えてあげるわ。妖精種に代々伝わる由緒正しき呪いよ」


あたしはすかさずメモ帳を取り出した。そんな大事なものを教えてくれるなんて……!


なになに、扉に小指を挟む呪い、鳥の糞が友人の前で頭に落ちる呪い、嫌いなメニューが三日連続で出る呪い、トイレで紙がない呪い、服を裏表逆に着ているのを気づかれる呪い……流石妖精種ね、地味に嫌なことばかり。


「暗い話はここまでにして、明るい話をしましょう。なんでも来週フィベルテ侯爵主催のパーティーがあるらしいですよ」


呪いの話で盛り上がれるのは亡霊族とか妖精種くらいなので、水妖族(マーメイド)のメリエーヌ会長にはつまんなかったらしい。パーティーの話で俄然目が輝いた。他の会員達も此方に目が向く。


「うええ……」


逆に気分(テンション)が下がっているのはリリーちゃんだ。心配して副会長のミリエーヌさん――メリエーヌ会長の双子のお姉さんが声を掛けた。


「あら、リリーどうしたの?」

「ミリエーヌさん。私、パーティー行きたくないんです」

「いつも宰相様にくっついて出てるじゃない。今更どうってことないでしょう?」


リリーちゃんが今にも泣きそうだ。普段のクールビューティーが消えてる。城の男性陣が見たら阿鼻叫喚だろう。流血沙汰(鼻血)に発展するに違いない。


「いつもなら従者控室で待機(ぼーっとするん)ですけど、今回はそうもいかなくて。正式にお招きされてるんです。お見合いなんですよ……結婚したくないんですよ」

「「「何それ詳しく!」」」


浮いた話一つないリリーちゃんの初の恋話!聞かなくては乙女(反論は許さない)の名が泣く。


「へえ、フィベルテ侯とお見合いかあ。優良物件じゃない。モノにしちゃいなよ。結婚って結構捨てたもんじゃないよ?」


一応既婚者としてアドバイスする。

奥さんも婚約者ものいないのは、えっと。次期侯爵のルベンス・フォン・フィベルテ卿かな?彼は謹厳実直な騎士だったはず。言われてみればリリーちゃんを熱心に見つめていた気がする。

頭の中でリリーちゃんと並べてみた。二人とも銀髪だし、お似合いじゃないかな?

まあ、あたしとレーベルほどじゃないけど!


「嫌ならきっぱり断ればいいじゃない。パーティーってことは他の花嫁候補も来るでしょう?美味しいモノが沢山あるでしょうから楽しんできなさいな」

「そうですよ、姉さんの言う通りです。ところで、ドレスは用意したのかしら?」

「……まだです」


リリーちゃんは苦々しげに答えた。余程行きたくないらしい。魔族らしくマイペースな双子の姉妹は目をきらんと輝かせた。


「リリー、今度一緒に買いに行きましょう、ね?」

「そうしましょう、それがいいですわ!」


楽しそうなので私もついていくことにする。ああ、明日の夜が楽しみ!


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