マーベル「最近、欲求不満!」
「リリフィアーネ、調子はどう?」
「元気です、マーベル侍女筆頭」
「もう、お姉様をつけなさいよ。まだ始業前だし」
「はい、マーベルお姉様」
こういう素直なところが本当に可愛いわ。この子が城に勤めはじめてからずっと目をかけているもの、よく知っているわ。
とりあえず昨日の息子のことを謝らないといけないわ。
「昨日はレーベルが迷惑を掛けたみたいね。ごめんなさい」
「どちらかといえば、陛下に謝っていただきたいです。私は仕事しかしていませんから、あまり気にしてませんよ」
「そう言ってもらえると助かるわぁ。今日きっちりお仕置きするから任せなさい」
私は自分の胸をどんと叩いた。陛下から精気をいただきましょうかね。
「程々にしないと陛下が使えなくなりますよ。あと、旦那さんに嫉妬されますよ」
「大丈夫!最近直接行為に及ばなくても搾り取る魔法作ったから!」
「……なるほど」
淫魔の私にとって精気は一番のご馳走なのよ?女の子は嫉妬の対象にならないし、リリフィアーネも可愛いから襲いたいんだけど、逃げられちゃうのよね。
リリフィアーネは納得して仕事に向かったわ。私も行きましょうかね。
やっぱり陛下は良いわあ。若いから元気一杯だもの。陛下は今完全にクロヴィス様の言いなりに動く魔道具のようだわ。楽で良いわねえ。
やっぱり結婚なんてするんじゃなかったわあ。若い頃は城中の男たちの精気をガンガン吸っていたけど、今じゃできないし。偶には夫以外のも吸いたいのよねえ。
わかるでしょ?いくら好きでも毎日タルトを食べていたら、偶にはショートケーキが食べたくなるじゃない。この魔法作って良かったわあ……!味が残るようにするのが本当に大変だったんだから!私、この魔法を開発して初めて陰魔法使いで良かったって思ったの。
あら、レーベルが来たわ。ドアにすすすと近づいて迎え入れる。表向きはこの子の方が地位は上なので、頭も下げておく。
そうすると決まってこの子は変なものを見たような顔になる。失礼しちゃうわ!そんなに私が真面目に働いているのが変かしら。
レーベルは今度の夏至祭の警備計画書の説明と、ついでに昨日の報告書の訂正版を持ってきたみたいね。
夏至祭かあ!ドラクレスと毎年花火を見るのが楽しみなのよねえ。今年も人事部長にお話しして休暇をもらわなくっちゃ。
陛下が馬車馬のように働く今がチャンスとばかりに、書類がどんどん転送されてきて、サクサク片付けられていく。クロヴィス様はそれはそれはいい笑顔でひたすら陛下に判子を押させている。私はニコニコ偶にお茶を出して、他は椅子に座って待機だ。ああ、お茶が美味しい。文句を言う陛下もいないし。
また暫くして来客があった。警備部隊隊長のロドリゴだ。
「よう、陛下!なんだ、魂抜かれてんな、マーベルか?」
私の幼なじみの気のいい悪魔族の男である。
「お前も仕事をしてるように装えよ」
「仕事してますー」
今の私は休憩が仕事なのよ!全く、失礼しちゃうわ。私に書類仕事ができるわけないじゃない!ていうか、貴方も書類仕事したくなくて連絡なんていう雑用してるんじゃない。
「陛下、聞こえてないと思うが、明日にでも密売人及び密売組織の捕物をする。計画書は後でレヴニルが持ってくる。で!陛下来るか?」
「行く!」
あら、陛下ったら目を輝かせちゃって。……吸精の魔法、弱かったかしら?でも、一度使うと暫く使えないし、正直陛下の精気は暫く摂りたくないわ。
「陛下……?」
「ウッ、クロヴィス、俺、がんばってるじゃん。チョットくらい良いじゃんよ」
「駄目とは言っておりませんが、ここ数日の書類が滞っているのです。今日中に全てに目を通してくだされば、まあ良いでしょう」
「ええ〜、クロヴィスならチャチャッと出来るだろ?俺の代わりにやってよ〜」
クロヴィス様の三つの目がギョロリと陛下を見た。陛下が怯む。
「わかったよ、やるよ……」
とても王には見えない、可愛らしい落ち込み。こんなんでも世界一の魔力持ちなのだから、神様って愉快だわ。
陛下はメソメソしながら書類を片付けた。
夕の鐘が鳴り、食堂を目指してコツコツと足音を立てて進む。あと少しで食堂という所で見知った影があった。
「あらナタリエ、貴女一人?」
「あ、お義母様。お疲れ様です」
「お・ね・え・さ・ま」
ナタリエのコメカミをぐりぐりするも、お姉様とは呼んでくれない。くすん。
「お義母様、ギブ、ギブです。ごぼぼぼ!」
「母上!ナタリエに何しているんですか。はっ、これが嫁姑問題……」
「……レーベル、私は永遠の百八十歳よ。お姉様なの、姑じゃないわ」
「……」
息子と義理の娘のなんとも言えない顔は無視する。
「早くご飯にしましょ。今日は何かしら〜」
「母上……なんでこんなんで侍女筆頭なんだろうか」
「レーベル、いつものことじゃない。(そう思っているのは)貴方だけじゃないわ」
二人は何やら言っているけど、私にはキコエナイ〜。
「そう言えばお義母様、リリーちゃんが新しいレシピをくれたんです。それで早速作ろうと思って仲間たちと市場に行ったんですよ」
「新しいメニューになるの?楽しみね。それで見つかったの?」
「それが……どうしてもこのポリン・ライシィが見つからなくて。何かご存知ないですか?」
聞いたことないなあ。モグモグと唐揚げを咀嚼しながら考えるが何も思い当たらない。ピリピリした刺激が生姜によるものだということくらいしか。
「ポリン・ライシィは王都ではたしか許可がないと販売できないぞ。それに鬼人族領以外ではあまり消費されないしな」
「そ、そんなぁ!リリーちゃんが一番見かけないって言ってた夕陽豆は見つけたのに!」
「……それ、栽培及び販売許可証は付いてたか?」
「えっ?」
私的にも「えっ」なんだけど。それ、魔薬の原料よ?知らなかったのかしら。確か、不死族には致命的なダメージを与えたと思う。まあ、豆類は大概そうね。
「ナタリエ、後で警備部隊の所に夕陽豆を持って出向くのよ。レーベル、付いて行きなさいね。さもないと料理されてさっさと食べられてしまうわ」
「了解です。……他に何を仕入れたんだ?」
「えっと、蜜結晶、グオマ、薯粉、それからあってもなくてもいいけど、あるといいねっていうのがシャシャの葉……」
「おい、栽培及び販売許可と使用資格の必要なもののオンパレードじゃないか!なんでそんなもの使ったレシピが渡されるんだ」
レーベルが堪りかねたように叫んだ。
「仕方ないじゃない!このレシピ、鬼人族の料理人が作ったんだから!彼女は食品関連の資格、許可は網羅してるのよ」
ああ、鬼人族。大人しい癖に頑固で、よくわからないけど目立つのが嫌いな。凝り性なのよねぇ。西の鍛冶妖精(但し金属に限らない)なんて言われてるもの。彼処、変な植物がわんさか生えてるのよね。
「でも貴女、使用資格持ってないでしょ。料理できないじゃない」
「知らなかったんですよ。でも資格持ってる人もきっといますから。最有力候補は鬼人族のホシノです」
「そうなの、資格、彼が持っているといいわね」
私は残りの唐揚げとライシィを口に放り込んだ。
ストック消えました。いつ更新できるかわかりません。