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リリフィアーネ「純白の職場、サイコー!」

日本人って、最高のサポーターだと思う。あるドイツ人は、日本人にはテレパシーが使える、なんて言うもの。まあ、それくらい感受性が豊かってことよね。


転生して早二百年。私はお城に勤める一介の侍女だ。


主様の仕事は、飛び抜けて量が多く、中でも視察が五割を占める。二十年位まえから増加の一途を辿っている。大体のスケジュールは書類→視察→書類だ。


私は定時にあがることに全力を尽くすのだ。えへん。


資料は見やすいように音順に並べて。

決済の早いものや至急のものは上の方に置いて。

考慮すべき資料なんかも、事前にコピーする。

消耗品を補充する。

チケットの用意や陣の作動確認など、外出の手配。


ここら辺は社会人スキルだ。

他にも、やると仕事の効率をあげそうな環境を整える。こちらは前世に専攻していた心理学を利用している部分が多々ある。


空調の魔道具(エアコン)で温度、湿度共に頭脳労働に適した状態に。

掃除は完璧に、花を飾って雰囲気をよくする。

昨日染み付いた臭いも取り去る。

集中力をあげる音楽(BGM)をうすーく流す。ただ、主様の気分で、リラックス効果のものや、気分が上昇するものに変えている。


因みにこの音楽(BGM)は亡霊族の精神科医のスグニル先生と妖精種の音楽家のサリステルさんに依頼して作ってもらった。二人ともノリノリで作っていた。他にもセラピー系の音楽作りに勤しんでいて楽しそうだ。


数々の侍女スキルを用いて、主様がいらっしゃる前に全ての準備を整える。私は朝の八時からで、主様は九時から。その差の一時間に全てを熟す。


因みに主様はその一時間は他の宰相や王と会議だったり、各部隊の隊長達との打ち合わせに使っている。


朝の仕事で一番好きなのは掃除だ。魔法を使うからだ。因みに前世では一番嫌いだった。


塵や埃が全てまとまったところでごみ箱にポイ。昨日活けた花もポイ。いらない書類もシュレッダー代わりの魔法でビリビリにしてポイ。


ふう、今日もいい仕事したぜ!動かないけどな!ごみ箱は清掃係が回収してくれるのでこれ以上は放置だ。今日はいつもより少し余裕があるな。給湯室でちょっと休憩しよう。


あ、主がそろそろいらっしゃる時間だわ。


がちゃりとドアの開く音に急いで壁際に控える。残念ながら、私は空気は読めても、気配自体はあまり読めないので自動ドアはできない。いつかマーベルさんやクロヴィスさんみたいに出来るようになりたいな。


パッと見は人間と変わらない、黒い髪に紅の瞳の美丈夫が羽ペンを手にカリカリと書類にサインする。美形揃いの上級魔族の中でもカーネトリアス・フォン・ブラディーネル様は格別だと思う。この光景を見ているだけで転生して良かった……!と思うもの。


私は引っ張ってきたワゴンから茶器を取り出す。熱の魔法でカップを温め、沸騰寸前のお湯で茶葉を蒸らし。こっそり抽出の魔法も使う。そしてとぽとぽと紅茶を淹れる。今日の茶葉はバロン・グランテ領産のオータムナルの中でも最高級品で、香り高い物だ。前世ではこんなに気を使って淹れたことはない。いつもティーバッグで終わってたし。


そして仕事の邪魔ではないけれど、無理をしなくても手が届く絶妙な位置(自画自賛)に音を立てずに設置する。

それで、我が主は無意識に手を伸ばし私の淹れた茶を口にするのだ。

最初の頃は、口にした後、いつの間に!?と驚いてくださっていたのだが、慣れというのは恐ろしいものでここ二十年くらいは主の美しい顔が驚愕に歪むことはない。さみしい。


あ、主様、お出かけっぽいな。書類がもうすぐ片付くし、魔力波動も外に向かっている。何より、サインの速度が上がっている。コート取ってこなくちゃ。

今日は冬にしては暖かいから、薄めのコートにしましょう。色は、黒一択。楽でいいよね。多少意匠に違いがあるけど、今日はお忍びでしょうし飾りの少なくて商人っぽいのがいいわね~。細めの眼鏡も持って行きましょう。

衣装部屋から戻れば丁度サインを終えたところ。気配は最小限にしてコートを広げて掲げる。主は背が高いのだよ。魔法で足場を作っているけど、主より高い位置だと着づらいからいい具合にね。


主様の準備が整えば、扉を開けて暫し待機し、主様が扉をくぐったらその後を静々と付いて行く。

偉い人に付いてくだけって、とっても楽ね。最高だわ。矢面に立ったり、自分で指揮とったりとか、気が滅入る。そういうのを人に任せられるこの環境は本当にいい。この生を受けて大体二百年くらいだけど、転生先は就職先より優良物件だった。……すっごく痛かったけど。


「リリー、何をしている?早く来い。転移するぞ」

「ただいま」


いけない、仕事中に考え事は良くないわ。と言っても、転移は私が使うのだけど。主様、不器用だからね。


「どちらに向かうのですか?」

「第三練兵場へ」

「かしこまりました」


私は転移陣に魔力を流し、陣を起動させる。ふわりと蒼い光が漂うと景色はいつの間にか変わっている。五十年ずっと機会があれば目を凝らして変化を見ようとしているのだが、全然上手くいかない。

そんなことを考えているうちにも主はスタスタ目的地に向かっていく。追いかけないと!


「はははは!」


炎やら光やら氷やらが練兵場を飛交い、ついでに兵士達も空を飛ぶ。閃く銀の軌跡に合わせて兵士達は倒れ伏す。まさに蹂躙(ディズニーランド)。素敵です、主様。超楽しそう。邪魔をしたくはないけれど、いい加減不死族(アンデッド)以外の死者が出そうだ。


「主様、そろそろ城下の視察に向かいませんと。楽しみになさっている番組に間に合いませんよ」

「何、それは大問題だ。……仕方あるまい、隊長に伝えておけ、ヌルい、とな」


主様はニヒルな笑みを浮かべ、行くぞ、と仰って練兵場から出て行く。私も屍一歩手前達にペコリと頭を下げてから付き従う。兵士達の絶望した表情が笑える。特にスキンヘッドな青い肌の色霊族(ウンディーネ)はムンクに激似……!


城下の商業通りには沢山の魔族がいる。私みたいな耳が少しとんがった妖精族(エルフ)、主様みたいな人間とさほど変わらない魔人族、二足歩行の動物な獣人族、耳が鰭みたいな水妖族(マーメイド)。この人達は人魚族(マーメイド)でもある。赤、青、緑、褐色の色霊族、本体が幻獣で化けてる間一部だけ本体が反映される幻獣族、翼がある有翼人族、チラッと見渡しただけでもこれだけの種族が目に入る。

通りは清潔で活気に満ち、商魂たくましい魔族や、少数だが人間の商人が道行く者に声をかける。


「よ、そこの坊ちゃん、このランジェオはどうだい?よく熟してるよ!」

「嬢ちゃん、焼きたてのレープルはいかが!?蕩けたカリオがふんだんに使ってあるよ!」


この人達は主様が宰相様だなんて知らないですからね。主様は楽しそうです。お忍びなので私は後方で尾行の真似事です。主様に護衛なんて要らないのですよ。必要なのはタイムキーパー。それが侍女()


あ、あの商人、一角獣(ユニコーン)の角売ってる。許可印が見当たらないな。通報しないと。


「あ、もしもし、リリフィアーネです。レヴィ?今城下のA8の4つ目の路地で面白い露店を見つけたの。無駄足になるかもしれないけど、行ってみたらいいんじゃない?」


レヴィは警備部隊の副隊長。検挙率ナンバーワンの将来有望な若手で、お嬢様方にモテモテな有翼人。学院時代からの親友だ。お城の窓から飛び立つ影が見えたので、多分レヴィだろう。あ、サンズリヴァ魔導書店がセール中だ。行かなくっちゃ。


おっと、小説を買い漁っていたらいい時間。買った本をポイッと亜空間に収納して、主様を探す。まあ、検索魔法で一発です。主様の魔力は高いから、候補が絞れて簡単に見つかるのだ。


追いつくと両手に荷物を抱えた主様が。荷物を受け取って城に帰ります。主様は城に住み込み。自室に戻られると、私の仕事は終わり。まあ、定時よね。主様はもともと世話をされるの嫌いだし。

使用人用の食堂で美味しいご飯に舌鼓を打ち、私に割り当てられた部屋に帰る。


今日買った小説を読んでいると、いいところで来客(邪魔)が。なんなのよ、もう!


「あ、レヴィ?どうしたの?」

「昼間のお礼をしにきたんだ。あの違法商人から芋蔓式に黒いのが出てきてさ。はい、ゲーレンビーの蜂蜜」


な、なんですと!?それは妖精種の大好物!しかも二瓶ですと!私は普通にかなり好きだけど、妖精種へのお礼(賄賂)にはこれ以上のものはない。


「ありがとう」


私は満面の笑みを浮かべた。心からの笑顔だ。レヴィはまたねって帰っていった。ふふ、これをちょっと舐めながら小説を読もう。


次の日の朝、私に手紙が届いた。差出人はイースティーレデン子爵。実家だ。


『愛しいリリフィアーネ、元気にしてる?流石に五十年間一度も帰ってこないのはどうかと思うよ。一回帰っておいで』


仕方ない、主様に休暇願いを出さないと。あと、城の人事部にも届け出ないと。王都土産は丁度よくゲーレンビーの蜂蜜があるし、幾つか南と西の果物とか蜂蜜を選べばいいか。


次の日、仕事が終わると早速主様に願い出る。許可はあっさりでた。


「うん?休暇?よいぞ」

「ありがとうございます」

「……そう言えば、リリーは最後の休暇はいつだ?」

「毎日定時に仕事をきりあげてますので」


朝八時に出勤、夕方六時に終わり。なんて素晴らしいのかしら、残業がないなんて。魔族は体力が人間の比ではないから休みがなくても平気だ。五徹くらい余裕だし、キチンと遊べる。まあ、趣味は読書だからあまり関係ないけど。


「……まさかとは思うが、リリーは勤め始めてから一度も長期休暇を取ってないのか?」

「えっと、それが何か?」


主様は何やら頭を抱えてしまった。精神安定を図るべくモカミールティーを淹れる。ズズッと飲み干して一言。


「すまなかった。存分に休んでこい」

「はい。では来月から半月ほど休暇願いを出してきます」

「うむ……明日から二月ほど休んで良いぞ。我から人事部に言っておく」


なんか延びた。いいのかな。良いんだろう。


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