拘束教書
神様が時間を少ししか下さらず、一日に僅か24時間しか割り振ってくださらなかったもんだから、悔い改めることはおろか、十分に眠る暇もありゃしない
〜ドストエフスキー〜
幾度目かの両者の獲物がまたぶつかりあいまた離れ持ち主同士が睨み合う。
…強い。
それが“殺人鬼”東雲凛が目の前でブレードを構えている少女に感じた率直な感想だった。
ブレードの弱点である懐に一気に潜り込んでも体術で返され、遠くから《陣》を使おうとするとブレードで弾かれ逆にあちらの好範囲へと潜り込まれる。
まあ、一言で言うと手詰まりだ。
久しぶりの殺し合いの相手がまさかここまで強いとは。
ぶっちゃけ勘弁してほしい。
あまりの強さにため息が出そうだ。
『おーい、“殺人鬼”!一つ質問していい?』
そんなボクの憂鬱さとは正反対に鈴は楽しそうに笑いながらこちらに話しかけてくる。
って、いやいや質問って。
『なんでこの状況で質問なんか出来るんだ…と言うか、普通敵に質問なんかするか?』
『まあまあ!いいじゃんいいじゃん、流石の私もちっとは疲れたしさ。ちょっとお喋りでもしようよ』
『…なんだよ?』
たしかにこちらも少し疲れた。
休憩ついでに少しの会話くらいいいだろう。
『あんたはなんであの吸血鬼。極東に住まう化物。最強にして最弱。最高にして最悪。人間にして化物。善にして悪。世界にして孤独なあの女に付き従おうとするの?』
『…あ?』
『たしかにあんたはかつてあの女に助けられたのかもしれない。だからと言ってなぜそのまま追従できる?あの女と一緒にいて死にかけたことは一度や二度じゃないはずだ。なのになぜそれでもあの女を守り続ける?助けられた恩なんてとっくの昔に返し終わっているでしょ?ねえ、答えてよ。“殺人鬼”。どうしてあんたはあの女に付き従っているの?』
そこまで言って鈴は本当に疑問そうに首をかしげる。
敵であるということを除けば魅力的に見える様子である。
まあ、敵だから思わないけど。
『それは…雪さんが霊華さんに対してボクの為に対価を払ってくれたからだよ。あの人はあの人のほぼ全てをボクの為に犠牲にしてくれた。だから、ボクは彼女を守…『嘘だね』
ボクが話している最中に鈴はそう言って割り込んできた。
ニヤニヤと笑いながら。
嫌らしく。
『嘘だよ、それは』
鈴はもう一度繰り返す。
やはり、ニヤニヤと笑いながら。
嫌らしく。
『なんだよ、そんな風にボクの意見を批判するんなら答える意味がねえじゃねえか』
『いやいや、答える意味はあるさ。私は君が君の身体になにが起きているのかをこの質問から知らないという事がわかったよ』
そう言って鈴はこちらへと少しずつ近付いてくる。
一歩。
一歩。
着実に。
そしてボクの目の前で止まりこちらを楽しそうに見上げてくる。
『…なんのつもりだ?』
『なあに。君の身体に何が起きているのかをこの私が教えてあげようと思ってね』
そう言って鈴はボクの頭部を右手でガッチリと抑え一言呟いた。
『拘束教書。君に全ての真実を見せよう“殺人鬼”東雲凛』
鈴がそう呟いたと同時に頭部に衝撃が走り頭の中に何かが流れ込んできてボクの感覚を狂わせる。
『なっ…がっ…』
『君は全ての真実が知れると思うよ。それが君が望まない結果だったとしてもね』
いつの間にかボクは倒れ伏していたらしい。
鈴の楽しそうな声が上方から聞こえてきた。
だが、その声に反応することは出来ない。
ボクはゆっくりと…
目を閉じた。




