霊魂演奏者
ライオンの雄にはたてがみがあり、孔雀には豪勢な羽があるが、人間の男には三つボタンの背広しかない
〜サーヴァー〜
『もう一度聞くよ?オネーチャン。私の能力を忘れたわけじゃないよね?』
蛍はニヤニヤと笑いながら自らの指を細かく、されど、激しく、まるでピアノを奏でるかのように動かし続ける。
そんな蛍に対し七花は拳を構えいつものように真っ正面から相対する。
だがしかし、その様子はいつもの彼女らしくない頼りない姿だった。
額からは冷や汗を流し、顔は悲痛に歪み、肌の色は血の気が完全に引いてしまっているかのように白い。
本当にこんな様子で戦えるのだろうか。
自分でも疑問に思う。
だが、逃げる訳にはいかない。
蛍達の目的が雪ちゃんな以上、自分がここで止めなくてはならないのだ。
そこまで考えて七花は胸の内に溜まっていた黒い暗雲を吐き出す。
そうだ、妹だからと言って戦わない訳にはいかないのだ。
思考しろ。
《霊魂演奏者》と呼ばれた蛍を倒す方法を。
風下を“糸”から解放する方法を。
『…昔より、“糸”の接続が早くて正確になったわね。お姉ちゃん、びっくり』
『褒めても何も出ないよ?オネーチャン。それに最後に別れてから六年もたってるんだよ?昔のままなわけがないでしょ?例えば、ほら。こんなことも、あんなことも、こぉんなことだって出来るんだよぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎』
そんな蛍の声に呼応するかのように風下が動く。
一瞬で私の間合いにまで接近し居合の要領で刀を振るう。
それを右手の指で挟みこむようにして抑えながら風下の顎を蹴り上げる。
空中で浮いた風下に向けて回し蹴り。
吹き飛んでいった所に向けて一気に距離を詰めて地面へと風下を叩きつける。
反動で浮いた瞬間を狙って拳のラッシュ。
『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッオラァァッッッッッッ‼︎‼︎…あんたの敗因はただ一つ。あんたはあたしを怒らせた』
何処かで聞いたようなセリフと共に七花は風下を思いきり殴り飛ばす。
殴り飛ばされた風下は後方へと思いきり吹き飛び酒場の壁を砕きながらさらに吹き飛んでいく。
蛍がやろうとしていた操作をなにも実行しないまま。
問答無用の愛のない攻撃だった。
七花は微かに汗ばんだ額を腕で拭き取りながら呟く。
『ふぅ…風下。悪いと思うわよ』
『オネーチャンの嘘つき‼︎まったく悪いとか思ってないでしょ‼︎思い切り飛んでっちゃったじゃん!私の傀儡!』
『あら?別にあんなのいらないじゃない。弱いわよ?ちゃんと説明書を読まなきゃ』
『説明書あるの⁉︎』
『そら、あるわよ。230円』
『安っ⁉︎』
蛍は驚いたような表情で七花に突っ込みながらも指の動きは止まらない。
いや、止まるわけがない。
なぜなら、操作対象がどんなに瀕死だったとしても彼女は死ぬまで動かすことが出来るから。
対象の魂が尽きるまで彼女の支配は終わらないからだ。
その証拠に吹き飛ばされた風下は流血しながらもなにもなかったかのように動いている。
『最終ラウンドだよ。オネーチャン』
『早すぎるし二期の主人公の血を吸ってから出直して来い』
漫画が好きな姉妹らしかった。




