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黒き乙女の鬼語  作者: 紅河崎アリス
食人鬼
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逆転不能

殺人に理由が必要なのか?

〜アンサー・ショークロス〜

『今回の件には鬼が関わっているらしいよ』


不意に雪さんが口を開いた。


ここは警視庁特務捜査部一課の前。


彼女からの呼び出しと言うことから薄々感付いてはいたがまた仕事を頼まれたらしい。


その前に補足しておこう。


鬼と言うのは、古典文学などで記されているような人々が忌み恐れていた空想上の者ではない。


現在、我々には様々な鬼が伝えられている。


吸血鬼を筆頭にした様々な鬼と称されるものたちのことだ。


ちなみに、ボクと雪さんもそうであるが今は物語を進めるとしよう。


『…まず今回の件と言うのを教えてもらっていいですか?』


『おや、言ってなかったかな?』


雪さんはわざわざ驚いたような顔をしながら答える。


聞いていない。


まず、貴方は自分から説明を滅多にしない。


『ふふ…なら、悪かったね。今回の被害者は身体中の肉が喰われていたよ。解体もせずに口でかぶり付いたんだろうね。死体は喰い千切られて悲惨な様子だったよ』


肉を喰い散らす犯人。


心当たりがないわけではない。


『犯人は食人鬼だと?』


『十中八九そうだろうね。しかもこの喰い口からして犯人はまだ鬼として目覚めたばかりだよ。生まれて初めて食べた人のお肉は美味しかったようだねぇ、凛君?』


そう言ってにやにやと嫌らしく笑いながら距離を詰めてくる。


あぁ…


この人の顔を殴りたい。


殴ってグシャグシャにしたい。


そうしたらスッキリするのに。


『知りませんよ。人の味なんて』


嘘だ、本当は知っている。


『知らない?それは可笑しいね。ならば、君はボクに出会うまでなにを食べて生きてきたんだい?』


我慢の限界だった。


挑発的に笑う彼女に向けて拳を振りかぶろうとして‥


『こんなところで暴動沙汰はごめんですよ』


振りかぶれなかった。


どうやら、腕を上げようとした瞬間後ろから誰かに止められたようだ。


余程の腕力なのか雪さんを殴ろうとした拳がピクリとも動かない。


『…お久し振りです。霊華さん』


こちらが腕の力を抜くと後ろにいた彼女も手を離してくれた。


本当に暴動沙汰を起こしたくなかっただけのようだ。


ゆっくりと振り返ると一人の女性がまるで機械のように直立していた。


少し赤毛の入った片口までの髪。


まるで相手を射抜くかのような鋭い瞳。


美人なのだが何人も近寄らせない雰囲気。


長身ではあるがどうやってボクの拳を止めたのかと疑問になるくらいの華奢な体。


ボクたちの依頼人、桜楼院霊華おうろういんれいかさんだった。


『お久し振りですね。殺人鬼さん』


相も変わらないその呼び方に溜め息を吐きたくなるが仕方ない。


彼女にボクの呼び方を変えろなどと言っても所詮無駄であろうから。


『ふふ、久し振りだね。霊華くん。今回もまた無茶な任務をどうもありがとう』


『いえいえ、お気になさらないで下さい。そちらの殺人鬼さんが我々に殺されるよりは食人鬼の相手ほうがまだマシでしょうから』


雪さんの皮肉混じりの台詞にも眉一つ動かさず霊華さんは応じた。


相変わらず感情の抑揚が少ない人だ。


雪さんの言葉遊びもこの人には通じない。


完璧な言葉遊び封じ。


『ふふ、相変わらず食えない子だねぇ。いや、喰えないのかな?』


『どちらでもいいではありませんか。彼がいる限り貴方は私達に逆らえないのですから』


逆らえない。


ボクがいる限り、ボクが生きている限り雪さんはこの人に反逆することはできない。


雪さんにどれだけの力があろうと知恵があろうとボクが生きている限りこの人は無力だ。


それが、ボクが彼女達に生かされている理由。


過去に街を一つ消したボクの罰。


彼女と雪さんの間にどのような取引が行われたのかをボクは知らない。


でも、雪さんはかなりの犠牲を払ってくれたのだろう。


だから、ボクはこの人に付き従い服従している。


『逆らえない…ね。また、不適当な言葉を使ったものだね』


雪さんは表情一つ浮かべずそう言った。


その表情の奥にあるのは怒りか憎悪かはたまた呆れか。


ボクにはわからない。


『さ、ボクたちはもう行くとするよ。おいで凜君』


一瞬後には既に雪さんの顔にいつもの笑みが浮かんでいた。


まるで裏の自分を隠すかのような道化な笑みでボクを見ている。


『はい、雪さん』


だからボクも精一杯シニカルに笑い返した。

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