待ち人
特に生きることにも死ぬことにも意味がない
〜アルバート・フィッシュ〜
神鳴町の冬は寒い。
日本の気候にあるはずなのにここは最早日本などと言う狭き檻から脱け出そうとせんばかりの寒さだ。
しかも、寒いなら寒いなりに南極とか北極ならペンギンやオーロラが見えただろうに残念ながらここは日本にある寂れた公園である為なにも見えない。
見えて、遊具くらいか。
そんな寒空の下の中誰もいない寂れた公園に一人、ボク、東雲凜は極寒の中にも関わらず待ち人を一人待っていた。
口の中に溜めていた煙をゆっくりと吐き出しボンヤリと虚空を見つめる。
僅かな時間、自然な白と人工的な白が混じりあい絡み合い空気中に溶けて消えていった。
その様子を見ているとまた溜め息を吐きそうになる。
なぜ溜め息を吐きそうになるかのか。
決まっている。
ボクを呼び出した張本人がいつまでたっても来ないからだ。
児童公園の時計を確認すると(少しの誤差はあるようだが)待ち合わせの時間から既に一時間以上経過していた。
しかし、待ち人は一向に来ない。
来る気配すらしない。
一瞬このまま帰ってやろうかと考えたがその考えはすぐに消した。
無断で帰ったら後で何をされるかわからない。
そのくらいだったら待っている方がまだ精神的にマシではあった。(肉体的には限界であるが)
コートのポケットを漁り古びたラベルに入った煙草を取り出す。
今年で17の身としては控えた方がいいんだろうがボクはそうは思わない。
いや、思えない。
煙草の無い世界など地獄以外の何物でもないだろう。
想像するだけでも怖気が走る。
まあ、ボクが煙草をやめて地獄を見るのは一般人と呼ばれる者達なのだが。
煙草を口に加えライターで火を付けようとして…
やめた。
自分に向かって黒い影が落ちている。
待ち人が来たのだろう。
彼女は煙草の煙が嫌いなのだ。
煙草を再びラベルに仕舞い視線をあげると見慣れた意地の悪い笑みを浮かべながら少女、篠宮雪は『やあ、待ったかい?』と、悪びれずにそう言った。