巣立ちの時と新たな出会い
学園に向かうヨシュア、彼はそこで一人の少女に出会う
魔導剣術学園物語
第2話始まります!!
それでは本編をどうぞ!!
「ほらヨシュア!! 起きなさい!! 今日は、あんたの待ち望んだ入学式でしょう!!」
「うぅ~ん…あと5分……」
僕は、寝ぼけているせいか、ベッドから降りる気になれない。
「そんなこと言ってたら遅刻するでしょうが!!」
バサ!!
母さんが実力行使に移った、寝ている僕から無理やり布団をひっぺがしたのだ。
「いったー!! なにするんだよ!!」
結果、僕の体は宙を舞い、床に思い切り頭をぶつけて覚醒する事となった。
「ほら、早くご飯食べなさい。しばらく私の手料理なんて食べれなくなるんだから!! しっかり味わいなさいよ!!」
そう言い残し母さんは、下の居間に向かった。
「うぅ~ひどいな~」
そんな事をつぶやきながらしぶしぶ寝間着から洋服に着替え、壁に綺麗に掛かっていた、この前買ってもらったローブを羽織って下に降りた。
「わ!? 何コレ!?」
下に降りた僕を待っていたのは、朝食とは思えない程の豪勢な料理の数々と、母さんの満面の笑みだった。
「さあ!! しっかり食べるのよ!! 魔導剣術学園に入ったら、全寮制になるんだから、私の料理なんて長期休みの時しか食べれなくなるわよ!!」
「うん!! いっただっきま~す!!」
僕は、そう言うと、早速テーブルに付き、次々と並んだ料理に手を付けた。
ローブを買ってからの数週間は非常に早く感じた、日用品や参考書をそろえてる内に、瞬く間に過ぎていった。そして今日、僕の待ちに待った入学式当日の朝。
「……不思議ねぇ、今までずっとあんたを見てきたのに、今日は、また全然知らない子を見てるみたい……」
母さんの言葉に、僕は食事の手を止めて母さんの方を振り向いた。
「なに言ってるのさ? 僕は今もこれからも僕だし、母さんと父さんの息子じゃー… !? 」
そう言いかけたところで、何か大きな物が僕を包み込んだ。
「うん……うん……そうよね、あんたはいつまでも、私とあんたの父さんの息子よね……」
覆い被さった物の正体が今わかった、母さんだった。
とても温かくて、とても落ち着く……
「うん……当たり前じゃん……」
スゥ-…
僕は、この状態で大きく息を吸い込んだ、口と鼻両方を使って大きく息を吸い込んだ、母さんのこの空気と匂いを忘れないように。
「さあ!! うんと食べて、うんと暴れてらっしゃい!! たまには、手紙くらいよこしなさいよ?」
僕から離れた母さんの顔は笑顔だった。
うっすらと見える涙の跡は気にしない事にした。
「うん、わかった。よーっし!! いっぱい食べて入学式に行こう!!」
僕は、再びテーブルに向き直ると食事を再開した。
欠片も残さない位の勢いで残りの料理も食べ尽くした。
****
「それじゃ、行ってきます」
「はい、気を付けて行ってらっしゃい」
僕は昨日の内に用意した大きめのトランクケース3つを括り付けた手押し式の荷台を伴い入学許可書に同封されていた地図に示された場所を目指すべく家を出た。
****
地図通りにすすむと、僕の家からしばらく歩いた裏山の森の中に付いた。
「え? ここ?」
僕は周りを見渡した。
ひらけてはいるけど何もない、少し遠くに木が羅列してるだけだった。
(何もないけど……まさか道を間違えたとか?)
そう考えると、僕は再び同封されていた地図に目を向けた。
「うーんー…やっぱりここで間違いないや」
ヴゥン-…
「う-…」
急に僕の周りの景色が歪んだかと思うと、身体が宙に浮くような浮遊感が訪れた。
「うぁ……あれ?」
が、その浮遊感は一瞬で収まった。
そして目の前には見知らぬ土地が広がっていた。
「ここはー…まさか魔法都市アルティミオ!?」
僕は驚いた、さっきまで確実に家から1kmと離れていない所から、大陸のど真ん中の大都市に立っていたのだ。
「なんか楽しみになってきた」
僕は足取りも軽くもはや目と鼻の先に見える魔導剣術学園に歩を進めた。
その時ー…
『うわぁぁーー!! どいてどいてぇーー!!』
「へ?」
ズシン!!
僕は、かわすことも、まともに振り向くこともできずに声の主の頭突きをまともに食らってしまい後方約3m位吹き飛ばされた。
「いててて……」
僕は頭を抑えながらムクリと座り込んだ。
『きゅう~~…』
当たりを見渡すと、青いスカートに、白いシャツを身に付けた焦げ茶色の髪を馬の尻尾のように束ねた少女が目を回して気絶していた。
バッ!!
-…と思いきや、いきなりガバッと立ち上がり僕に手を差し伸べた。
『キミ、だいじょうぶ!? けがしなかった!?』
「あ、うんへいき、君の方は?」
僕は彼女の手につかまりながら立ち上がり彼女の安否を聞いた。
『え? ボク? ううん!! 全然平気だよ!! ボク意外とじょうぶだからさ!!』
彼女はガッツポーズにウィンクをしながら自分の無事を僕にアピールした。
『でもよかった~キミに何事もなくて、さっきそこで転んじゃってさ、なかなか倒れられなくて勢いが付いちゃったんだよね』
……転んだ? 僕の見る限り、辺りに転ぶ要素になりうる物は何一つないんだけど-…
『あ!! そうだ!! ボクの名前はエリル・フィリ!! キミの名前は?』
「え、あぁ僕はヨシュア、ヨシュア・ウィークネス」
『ヨシュアかぁ~ いい名前だね!! それじゃ、ボクもう行くね!! じゃーね、ヨシュア!!』
僕にそう言いながら手を振るとエリルは、そのまま大通りを真っ直ぐ駆けていった。
「なんか、台風みたいな子だったな……」
そう呟きながら僕は、広場に立っている時計に目を向けた。
「あ!! ヤバい急がなきゃ!!」
僕はやや小走りで、荷物の乗った荷台を押しながら魔導剣術学園の正門を目指した。
****
『お待ちしておりました。あなたがヨシュア・ウィークネス君ですね? どうぞこちらへ間もなく入学式が始まります』
正門のそばまで来ると、ローブを纏った教員と思われる女の人が僕を手招きした。
『どうぞこちらへ、あなたが最後の新入生になります』
「あ、はい!! ありがとうございます!!」
僕が大声で挨拶すると、微笑みながら誘導してくれた。
『フフ、元気があって大変よろしい。新入生の控え室はこの道を真っ直ぐ行ったところですよ』
「はい!!」
僕は示された通りの道を進み、一つの大きな建物の入り口に付いた、どうやらこの学園の集会所らしい。
扉を開けるとそこのホールには溢れんばかりの人が集まっていた、ホールにいたほぼ全ての人が僕と同い年と思われる顔立ちをしているところから、
ここに新入生が集められているらしいことがわかった。
『あれ? ヨシュア? ヨシュアでしょ!?』
不意に、どこかで聞き覚えのある声が聞こえてきたので、僕は声のする方を振り向いた。
「やっぱりヨシュアだぁ!! またあったね!!」
振り向いてみると先ほど広場でぶつかった少女、エリルが嬉しそうに手を振りながら僕の方を見ていた。
「あ、エリル?」
僕が彼女の名前を言うと、エリルは僕の方に小走りに近寄って来た。
「キミもこの学園の新入生だったんだ、あの時一緒に行けばよかったね」
エリルは、えへへと照れくさそうに僕に笑いかけながら言った。
あの時とは恐らく、僕が立ち尽くし、彼女が、大通りを駆け抜けて行った時の事であろう。
「しょうがないよ、僕も、君がここの新入生だって知らなかったし、僕からも言わなかったしさ、全然気にしてない、だからさ、お互い様」
僕は、微笑み返しながらエリルに言った。
「ありがと えへへ、ヨシュアって、やさしいんだね。 わかった!! じゃあボクももう気にしない!!」
エリルは満面の笑みを浮かべてながら僕に手を差し伸べた。
「これからよろしくね、ヨシュア!!」
「え? あ…うん、よろしく!!」
ちょっと戸惑ったけど、僕も差し出された手を握り返しながら笑みを見せた。
魔導剣術学園に来ての最初の友達。
僕はこの先も、ずっとこの出会いを忘れることはないようにと心に深く刻み込んだ。