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オキシドールとばんそうこう

作者: KG

挿絵(By みてみん)

 GWも過ぎ、学校独特の陽気が学生達をポカポカと照らす頃。

「……」

「……」

 ある二人の睨みあいが、その室内に修羅場を生む。

 ここは田舎のとある町に存在する高校の一室である。

 まず白いカーテンが象徴的だ。天井も床も白をベースにした配色をしており、はたまたカーテンに隠れる窓ガラスさえも新鮮さを帯び漂わせるように綺麗である。さらに小物や教卓机といったものが置かれることにより、白さにカラフルな色を投入し、清楚を保ちながらも人間らしさを感じさせる部屋の構成になっている。

 そこは保健室と呼ばれる一室である。ここには日々、怪我や体調不良が理由で来る者達が多い。

 しかし今は、ちょっぴり例外である。

 僕こと薬師やくし 雄太ゆうたは目の前で起こっている修羅場ならぬ修羅状況を横目で見ていた。

「相変わらず底なしの低能さを誇っているようね。『孫子は兵法にあらず』、少しは考えて行動したらどうかしら? 阿久津さん?」

「うるせえな。いちいちゴタクを並べるのが好きなヤローだ」

「何を……!」 

 犬と猿のように睨みを利かせているのは、二人の女子生徒。

 一人は、ゆるい麦色の長髪を背中まで流し、絶景を思わせるような凛とした顔立ちを持った少女である。

 彼女の名は城ヶじょうがさき 真琴まこと。僕と同じクラスメイトの同級生である。

 城ヶ崎さんの表情は優越感を持たせる口調が特徴的だ。しかしその裏側には厳しさを常に漂わせている。一言でいえば「怒らせたら確実に殺しにかかってくるジャイアントパンダ」であろう。つまり怖い。

 そして城ヶ崎さんが「阿久津さん」と呼ぶ女子生徒は、いかにも荒々しそうな赤髪のヘアスタイルと、人を唸らせるつり目が特徴的だ。しかしこれまた城ヶ崎さんと同等といっても良いほどの美少女で、彼女のつり目から見える透き通った瞳は、彼女自身の美しさを加速させる。

 彼女の正式名称は阿久津あくつ 優奈ゆな。一か月前にこの保健室にやってきた少女で、以来僕はよく話すようになった。

 阿久津は学校中からヤンキーと恐れられている少女である。校内に阿久津に勝る者はおらず、大抵は恐れて逃げ帰るのがオールマイティだとか。彼女を一言でいえば『一度解き放てば誰にもその恐怖を止める事ができない地獄の番犬ケルベロス』だろう。……ジャイアントパンダの方がまだ可愛いな……。

「オレが何しようがてめえには関係ないだろ。何回言ったら分かるんだよ? あ?」

「さぁ? 何回でしょうね。そもそも貴方程度の言語力を理解できる人間がいるのかしら? 私は原始を遡ってもいないと思うけど」

「何?」

 どちらかが罵ればどちらかが反発し、互いに一進一退を繰り広げるばかりである。

 これが始まってどれくらい経過するのだろう……僕はふと時計を見ると、時間は午後5時を回っている。保健室に来てから二時間以上は過ぎていた。

 どれだけ仲がいいんだ言わんばかりに僕はため息をつく。

「……薬師君」

「……薬師」

 と、そこで、二人が僕の名前を呼ぶ。

「は、はい?」

「それは何の溜め息?」

「それは何の溜め息だ?」

 君たちはエスパーか。赤青緑のポ●モン時代なら最強の部類に入るタイプだぞ、良かったね。

「いや。だって、二人ともさ……いつも保健室に来ては喧嘩してるし……」

「薬師君、それは間違いよ。私は風紀委員として、阿久津さんを指導しに来ているの。阿久津さん、怪我をしているなんて言っているけれど全く怪我をしていないじゃない? 何の用があってここにきているのかしら?」

「別に怪我しているから来たわけじゃねえ。ただ」

「ただ?」

 すると、阿久津は僕の方をちらりと見る。

 が、すぐに視線を逸らした。

「……な、なんでもねえよ」

「ほら何か隠した。やはりただのサボり魔ね。常識の範囲外よ。ヤンキーなら堂々と教室に居るのが普通ではなくて? まぁ、私にとってヤンキーとか不良といった下劣な集団の常識はどうでもいいのだけれど」

「うっさい、城ヶ丸!」

「なっ……! 阿久津さん、またその名前で……!」

「たかだかこの程度の事で怒るか。話にならねえな、城ヶ丸」

 城ヶ崎さんは憤怒せんばかりに米かみをピクピクと動かしている。ちなみに『城ヶ丸』とは阿久津が勝手に呼んでいる名前である。

「いい加減その呼び名は辞めてくださらないかしら? 不快なの」

「てめえがここから出て行ったら辞めてやるよ。城ヶ丸」

「いちいち語尾につけないでくださらない?!」

 再び二人の罵りあいが始まる……。僕のため息もこれで何度目だろうか。数えてみたら案外すごい数になっているかもしれないな。もしかしたら、ため息の回数なら世界の頂点を目指せるのではないかと思うくらいだ。目指せ! ギネス記録! 無理か。

「放課後っぱらから、なんの騒ぎ〜?」

 そこに、一人の女性の声が飛び交った。

 いや、そこは朝っぱらだろ。というかそのセリフは朝言うものだろ。もしかして今流行りの昼夜逆転ですか? いや流行ってないな、というかどうでもいい。 と言わんばかりの台詞を吐き捨てたその人は、ガラっと扉を開けて室内へ入ってくる。

 眠たそうな声を上げたのは、まず抱擁感のある胸と茶色長髪にロールをかけたヘアスタイルが目についた。そして、その胸をシャレたカジュアルタイプの桃色服で覆い、その上から白衣を着ている。見るからに大人の魅力を感じさせる大人の女性であった。

「おはよ。雄君。保健委員の仕事、お疲れ様〜」

「おはようじゃなくて、こんにちは、だよ、桃T」

 僕が桃Tと呼んだこの女性は、桃田ももだ 恵子けいこ。保健室を担当する教師だ。僕が保健委員になってからずっとお世話になっている教師で、その頼りがいのありそうな魅力は心に来るものがある。

「ごめんごめーん。それで、昨日の夜は何人、ハ・メ・た・の?」

 ………………………が、妙に変人だったりする。

「何言ってるんですかっ! 誰もハメていませんし。昨日は家でぐっすり寝ていました」 

「つれないわねぇ〜。冗談に強くならないと、下半身が弱い子になっちゃうゾ♪」

「意味がわかりませんから」

 この人は何かあると冗談ならない冗談を言ってくる事が多い。信頼できる人なんだが……ほ、ほんとだぞ? 

「あ。またあの二人は喧嘩してるわねぇ」

「今頃気付いたんですか……」

「あの子達も飽きないわねぇ。……………全く、これで何回目よ?」

「それは先生のジョークが、ですか?」

「違うわよ。二人の喧嘩の事よ。雄君ったら、たまに肝心な時にどうでもいい事を言うわよねぇ。全然上手い事言ってないわよ? もうちょっと脳みそしぼって考えなさいな」

「桃Tには言われたくない言葉だよ……」

 のんびりとした声とは裏腹に、桃Tは僕を冷たい目で一瞥した後、二人の罵り合いに目を向ける。……なんで軽蔑されなきゃいけないんだろうか。

「ハ、ハクチッ」

 なんだか可愛いくしゃみ声が聞こえてきたが、残念ながらこれは桃Tである。

「変なクシャミですね……」

「失礼ね。20歳の若女を傷つけるなんて、雄君は卑劣な男ね」

 卑劣ではないしどう見ても30代だろ……。ちなみに、独身である。

「というか、風邪でも引いたんですか?」

「そうねぇ。ここ最近クシャミが多いのよ。誰かから移ったような覚えなんてないし……あ、そうか。もしかして雄君が風邪を移したのね?」

「なんで僕になるんですか!」

「あぁ〜。君の風邪が、私の体の中にぃ。もう……お盛んね」

「だから桃Tには言われたくない!」

 小悪魔+ちょっと変態。風邪さえも妖美に変換させる脳内を司る。これぞ桃田クオリティ。命名は僕。

「このまま二人の罵り合いを見ているのも面白いけど、あいにく保健室で怪我人を出されたら本末転倒だからねぇ〜」

 桃Tは二人を見た後、やれやれだわと言わんばかりに溜め息をつく。

 それもそうだ。保健室で喧嘩はご法度。人を手当てする所で怪我なんてされちゃあ溜まったものではない。保健室の存在意義を疑われる。

「うっふふ♪」

「……何で笑う?」

「だって楽しいじゃない〜。可愛い子達が怒りに怒って罵り合っているのよ? ……もう抱きしめちゃいたいくらい」

「変態ですか……」

「あら? じゃあ雄君を抱きしめてあげようかしら?」

「なんでそうなるっ!?」

「嘘嘘。冗談よ。だって嫌だもの」

「そ、それはそれで傷つく……」

「ウフフ♪ それも冗談よ。雄君は可愛い子ね」

「あのね……」

 桃Tは小悪魔のような目線で僕を見る。その目の細さがさらに妖気さを際立たせる。……これだから桃Tの相手は疲れる。

 そう思っていると、桃Tはゆっくりと歩き、阿久津と城ヶ崎さんの間に入る。

「はいはい。二人共、怪我はご法度よ」

「桃田先生……。こんにちは」

「てめえ……桃田」

 今頃気づいたのか、二人は我を返すように桃Tを見る。

「といっても。このまま勝負がつかないのは二人にとっても面白くないわよね? 私も面白くないわ」

 二人の喧嘩が終わるのを面白くないと言った途端、桃Tの教師らしさのアイデンティティが消えた気がするのは僕の幻覚だろうか。ふと桃Tの本名を忘れてしまう時がある。………一応教師だよな?

「ここで、二人に私が考えたゲームをしてもらうわ」

「あ?」

「ゲーム、ですって?」

 なん……だと……? 

 桃田クオリティ特製ゲーム。それはつまり、何か良からぬ暗示を意味する。少なくとも僕はなんとなーく嫌な予感がしていた。

「桃T……変な事考えてない?」

「大丈夫。雄君の方が変だから」

「いや、それはないから。というか僕が変なのは関係ないでしょ!」

「確かに、薬師は保健委員のくせにしつこいからな」

「阿久津まで同意するなよ!?」

「わ、私は別に、どうとも思ってないから、心配しないで?」

「城ヶ崎さんは無理してコメントしなくていいから……」

 というか、どうとも思ってないというのは結構傷つく言葉ではないだろうか? 友達に言われたら傷つく言葉ワースト3には確実に入っているぞ。例えば「べ、別にあんたの事なんてどうとも思ってないんだからねっ!」という使い方が一般的だ。……何か違うような気がするが、気にしたら負けさ。キニスル・オブ・ザ・デストロイ。

「はい、注目〜〜〜〜〜!」

 桃Tの声かけに合わせて、僕らは振り向いた。いつの間に用意してあったのか、一つの木質テーブルに一台の木箱が置かれている。机に乗っている木箱の上面にくるりと丸い穴が開いており、まるでくじ引き箱を想像させるような形だった。

「何でしょうか? この箱は?」

 城ヶ崎さんは頭に?を浮かべて訪ねる。

「これが、貴方達にやってもらうゲームよ。ルールは簡単。この中から一枚紙を取る。紙には命令が記されてあるわ。その命令に従うだけ。以上」

「い、以上? でもそれでは勝敗が決しないのでは?」

「簡単な事よ。その命令に従う事ができなかったら、負け」

「そんな単純なゲームなのですか?」

「はっ。単純でいいじゃねえか。これだからカタブツ城ヶ丸はよ。いちいち細かい事を言いだすとキリがないからうざいんだよ、城ヶ丸」

「なんですって……? しかも二回もその名前を…!」

「なんだ? やんのか城ヶ丸?」

「はーいはい。喧嘩はそこまで〜。続きは私のゲームに則ってやってね♪」

 桃Tはその場を締めるようにパンパンと手を叩くと、木箱を手に持つ。 

 すると、なぜか桃Tは。

「……?」

 僕に木箱を渡してきた。

「はい、雄君」

「…はい?」

「だから、はい」

「全然意味が分からないんだけど……」

「……物分かりの悪い子は嫌われるわよ?」

「あんたが分かりにくい言い方してるからじゃないか!」

 桃Tは『この子の面倒見る人がいなかったら、今頃引きこもりになってるわね。恐ろしい』と言いたそうなばかりに溜め息をつく。大きなお世話過ぎるだろ……。

「紙を引くのは、雄君よ?」

「なんで!?」

「ちょ、ちょっと先生!?」

「おい。オレか城ヶ丸が紙を引くんじゃねえのかよ?」

「駄目駄目。それじゃつまらないじゃない」

 駄目駄目。ホントこの先生、駄目駄目だ。やっぱり変な事考えてるじゃないかっ!

「何させる気だよっ!」

「あら? 私はただ、この箱から紙を取るだけで良いと言っているだけなのに、そこまで怒ることはないじゃない。まぁ雄君は疑心暗鬼の神のような存在よねぇ。私が怖くて仕方ないのね」

「別に怖いとかそういう事じゃないよ! もういい……分かった。引けばいいんだね?」

 どうせ桃Tは辞める気がないのだろう。それに、僕も考えすぎかもしれない。この保健室には、僕以外にも女子が二人いるのだ。そんな目立つような変態行動は取れないだろう……。あっても僕と桃Tだけの時がほとんどだ。二人だけの保健室は地獄だった。というか疑心暗鬼になっても仕方ないレベル。

「分かってくれてうれしいわ。ということで、優ちゃんもまこちゃんもいいかしら?」

「や、薬師君が引くなら……私は構わないですよ」

「…別に、どうでもいいだろ。さっさと引けよ! 薬師!」

 ためらう声とあらあらしい声が、左右の耳に響きわたる。

「じゃあ、引くよ?」

 僕は木箱の中に手を突っ込む。

 そこに書かれていたのは。

『生徒手帳を床に置く』

「へ?」

 意外。それは普通すぎる内容。

 桃Tの事だからぶっ飛んだ命令でも書いてあると思っていたが……。

「なんだよ。そんな簡単な事か」

「これなら確実に勝ちが手に入れそうね」

「言ってくれるじゃねえか城ヶ丸……!」

「だからその名前は辞めなさいと……!」

「とにかく、二人共。これでルールは分かった? 異議がなかったら、本番を始めるわよ?」

「異論はありませんわ」

「構わないぜ」

「では、先に負けを認めた方が『負け』よ。……雄君、次の紙を」

「は、はい」

 これなら確かに怪我事もなく、かつ内容にも安心性のあるゲームだ。良かった良かった。

 流石は桃Tだ。考えるときはしっかり考える大人の女性。今までの僕の眼が節穴だったと思うくらい、彼女は考えている。これで阿久津と城ヶ崎さんの喧嘩が収まればいいのだが……。

 僕は次の指令を持つ紙を引く。

「えーと、次の命令は…………」


『ノーブラ、ノーパン状態を維持する』


「……」

「……」

「……」

 桃Tを除く、計三人は押し黙る。

 えーと。

 つまり、その、な……なんだ。あ、あれか。

 要はノーブラ、ノーパンの反対語は、イェスブラとイェスパンということなんだろうな。それを言わせたかったんだよな。なにそれ。イエスパンってなんか喰い物みたいじゃないか。僕こそ何が言いたいの?

「あら、いきなり大当たりじゃない」

「あのー………………」

「どうしたの、雄君?」

「なにこれ?」

「? 紙よ」

「いやそこじゃなくて」

「命令が書いてあるじゃないの」

「あまりにも落差が激しすぎない!?」

 驚きのあまり突っ込むのを忘れていた僕は我に返るように、桃Tを問い詰める。

「これくらい普通よ。慣れたらね」

「そういう問題かぁ!?」

「いやぁねぇ、雄君ったら。もう勝負は始まっているのよ? 貴方がここで紙を引いてあげなかったら、彼女たちの勝負はつかないままなのよぉ?」

 この悪魔め……。男子が居るのを分っていながらわざとハメてくるとは……。

「駄目だよ! お、男の僕が居るし!」

「? そうかしら、大丈夫でしょ」

「はい!?」

「落ち着きなさいって。まだ慌てるような時間じゃないわ、雄君。いい? 別に誰も貴方に裸体を見るのだのなんだのと言っているわけではないのよ? ただ、制服はそのままの状態で、パンツとブラジャーだけを脱げばいいだけの話じゃない。その条件でもノーブラノーパンは満たされるわけだからねぇ。ドゥーユーアンダースタンド?」

「そ、そんな……」

「そんなもクソもない。これはゲームであり勝負。……そこの二人もいつまで押し黙っているの?」

「……はっ!」

「……は」

 桃Tの声に気付いたのか、放心状態だったであろう二人は意識を取り戻す。そりゃいきなりあんな命令聞かされたんじゃな……。

「それで、二人共どうするの? 聞いてなかったわけではないでしょう?」

「し、しかし先生! い、いくらなんでも男子生徒の前で」

「さっきも言ったでしょ? ノーブラノーパンでも外見上、制服さえ来ていれば問題はない。大丈夫。パンツは私が預かっておくから。どうするの?」

 二人は押し黙った後、互いを一瞥し、睨みつける。 

 二人の思考はこうだ。『薬師君にノーパン状態の姿を見られるのは死んでもイヤだ。しかし、こんな奴に負けられない。男に見られる事より、相手に負ける方が人生に汚点がつく』と。この二人は、怖い上に強気な女子生徒達である。どれだけ僕にノーブラ姿の自分を見られるのが嫌でも、相手に勝とうとするのだ。

 そう思うと、自分の存在に罪悪感を感じてしまう。真剣勝負なのに、彼女たちは僕に見られる嫌悪感を持って相手に勝たなければならないのだから。

「雄君、逃げちゃだめよ。貴方は目隠し状態でいなさい」

 と言って、桃Tは枕に使うタオルを僕に一枚渡してきた。どうやらこの桃T、本気だ…・・。

「それで。二人共、答えは?」

 僕はタオルを目に巻きながら聞き耳を立てる。二人共、絶対に嫌そうにしてるよな……本当にごめん。悪い事は一切していないんだけど、ごめん。

「ま、まぁ。薬師だったら、別に問題は、ねえな。どうせ、見られないわけなんだし……」

「……や、薬師君なら、私も異論はありません。見られる心配がないのなら脱いで差し上げます」

 なんか積極的だー。なんで? あ、分かった。桃Tの変態ウィルスに汚染されたんだな? そうなんだな? そうじゃないと僕の中にある二人のキャライメージがぁぁぁ……。

「あら。言い心がけじゃない」

「城ヶ丸に負けたくねえだけだ」

「私も、この底辺不良女にだけは絶対に負けたくない。それだけです」

「もう二人してぇ〜。かーわいい。そう思わない? 雄君?」

「僕に振らないでください!」

 二人共『別に僕の前なら……』ってどういう事〜!? 僕の意思は無視なんですか!?  と問いただしたい所だが……返答の内容を聞くのが怖かったので、そこは自重しておこう。

 スルッ。

 え? 

 スルッ

 何の音? 僕はタオルで目隠し状態でいるので何が起きているのか分からない。何それ怖い。

「んっ……」

「……ん」

 スルスル。

 こ、こ、こここれは、つまり。

「ほーら雄君。二人共脱ぎ始めたわよ?」

「せ、先生! いちいち実況しないでくださらない!?」

 流石に恥ずかしかったのか、城ヶ崎さんは辱めを受けた人のような声を荒げる。

「あら? まこちゃん。雄君には見えていないのだから、いいじゃない。今の彼は妄想でしか、その脳を満たす事はできないのだから」

 何が妄想だこのエロスティーチャー……。

「お、おい。薬師?」

「へ?」

 素っ頓狂な声を上げた僕だが、ふと阿久津の声が耳に入って来た。

「……妄想してんのか?」

「あ、阿久津さん!? あなた何を」

「あ、阿久津ってば何言ってるのさ!? 別にそんなことは……」

「そ、そうか……」

 そして、しばらくして。

「終わったぜ。桃田」

「私も、完了しましたわ」

「オーケー。じゃあ二人共、とりあえずブラとパンツは回収ね。さてと、雄君。次の紙を引いて頂戴。目隠しはとってもいいから」

 そういうと、二人が桃Tにパンツとブラを渡すような音が聞こえた。

「わ、わかったよ。じゃあ、取るね」 

 僕はそう言ってタオルをゆっくりと取る。目の光景に広がっていたのは、顔を赤らめた二人の少女であった。

 阿久津は、頬を赤くしながらも僕から顔を逸らす。しかしその横顔は恥ずかしさを隠している表情をしている。右腕で左腕を掴み、その間から阿久津の『ノーブラ』状態の胸が見え隠れしている。見え隠れしていると言っても、外見上はカッターシャツの上からブレザーを一枚羽織っているだけ。見えないのだが……危ない。

 対して城ヶ崎さんは、僕を真っ直ぐ見ているものの(なんで真っ直ぐ見ているんだろう……)、やはり何処か落ち着かない様子で、彼女の凛と輝く瞳が右往左往に動いている。顔の肌も赤めに染まり、両腕を組んで、仁王立ちをしている。ノーブラノーパン状態だと言うのに……いや見えないのだが……これまた危ない。

「あ、あんまりジロジロみるんじゃねえよ……」

「あ、あら? 阿久津さん? 別に外見上に恥ずかしい所は見られませんが? 変なお人」

「て、てめえ……は、恥ずかしくねえのかよ」

「『船を沈め釜を破る』。決死の覚悟で相手を倒すことの例えよ。つまり、勝負に勝つなら自分の身を犠牲にしても構わないということよ……」

 自分の身を犠牲にすると言っても、こんな時に使うようなものじゃないような……。

「城ヶ丸のくせに、腰が据えているじゃねえか……。おい薬師、次の命令、早く出せよ」

「え?」

「そうよねぇ。雄君。は・や・く」

 この桃T、遊んでいやがる……。これ以上は駄目だ。僕としてのアイデンティティが崩壊する。ついでに二人のキャライメージも壊れる。多分この箱の中身はこれと相応の内容の命令が入っているに違いない。

「こ、断る!」

「はぁ!? てめえふざけんじゃねえよ!」

「それはあんまりよ……。いくら薬師君と言えど、これは私達の戦い。今の薬師君に止める権利はないわ!」

 そういうと、阿久津と城ヶ崎さんは、一気に僕に近寄って来た。その速さ、秒速5メートル。僕と二人の隙間わずか5センチ。いわゆる一瞬密着……!

「ちょちょちょっと!」

「この野郎! 勝負の邪魔すんじゃねえ! 早く取れ! ほら、右手をよこせ!」

「悪いけど薬師君。今回はいくらなんでも往生際が悪いわ。審判する身なら最後までその役目を果たしなさい。ほら、早く左手を……」

 阿久津が右手を箱に入れようとすると、城ヶ崎さんも左手を入れようと阿久津の持つ右手を払いのける。

「てめえ! 邪魔すんな城ヶ丸!」

「貴方こそ邪魔よ」

 二人が密着がどんどんと荒々しさを激しくし、僕の体がふらふらと動き始める。

「ちょ、ちょっと落ち着いて! そんなに引っ張ったら!」

 すると、僕の体が大きく、後ろ方向に傾いた。

「ひゃっ……」

「えっ……」

 瞬間、阿久津と城ヶ崎さんの声が聞こえたと同時に、二人の体勢が僕と同じ方向へと倒れ始める。それも、僕の上にのしかかるように。僕の体の上に、二人の体の陰が出来た。

 その一秒はスローモーションと聞いた事があるが、今まさにこの事であろう。後ろに迫る床、段々と視界が保健室の天井を見せる僕の体、そしてその視界から現れる阿久津と城ヶ崎さん、二人共あっけにとられた表情をしている。

 まさに今、僕の体は世界の狭間に存在していた。つまり、サンドイッチ状態。中身の具は僕。

「ごほぁがぁっ!」

 バタンと挟み撃ちにされた僕は、床に頭を打ち、その場に倒れこむ。

「いって〜……。薬師、てめえいきなり倒れんじゃねえよ……」

「や、薬師君! 大丈夫?」

 互いに違う二人の囁きと息が、僕の耳と肌を刺激する。

 僕はゆっくりと目を開けると……。

「あっ……」

 阿久津と城ヶ崎さんの顔が、目の前にあった。

 荒そうな赤髪の間に見える、透き通った阿久津の瞳。

 鮮麗に流れる麦色髪の隙間に見えた、強く輝く城ヶ崎さんの瞳。

 二人の瞳が、僕の両眼に移りこむ。。

 その感覚は、言葉では言い表せないものだった。

 自然、大地、宇宙。全てを魅了させるくらいの美しさを見せられた僕が見たのは、二人の女神である。

 二人の女神が、僕を見ていた。

 僕の唇を奪うような距離で。

 だが、僕が視界を下に向けた時。

「……」

 二人の体が、僕の体に密着している事に気付いた。なんか変だったんだよなー。やけに体が重いし、胸の感覚が押しつぶされそうというか……。ん? 胸?

「なっ……!」

「? どうした? 薬師?」

「薬師君?」

 そう、そのまさか。

 二人のノーブラ状態の体が、僕に密着していた。

 いわゆる、ドッキングである。

「うおぉあおあああ!」

「おい、薬師!」

「ど、どうしたの!?」

「む、胸が! 胸ぇええ! ………がはっ」

 僕はあまりの驚きに耐えられず、意識を失う。

 ようやく気付いたのか、二人は自分の体の状況を見て把握したらしい。

 消えゆく僕の意識に見えた阿久津と城ヶ崎さんの姿は、顔を赤らめて激怒した様子で、僕を鋭く睨みつけている。その様はまさにライオンとトラ。……なんで?

 そのまま僕は、眼を閉じる。

 そして、意識の消える僕が最後に耳にしたのは『この変態っ!』という二人の言葉であった。

 悪い事をしていないのに、なぜか顔に激しく痛い感覚を感じた。それも両方の頬に。やがて、僕の意識は闇夜に消えていく……。

 











 時を遡って、今年の4月。


 それは、僕と彼女の出会いだった。

 桜が、自然のハーモニーを奏でる風を吹かせる季節。

 眼を瞑ってしまう程の黄色の輝きが、斜め四十五度の位置に差し掛かる頃だった。授業が終わり、下校支度を済ませた僕が保健室へ向かう時の事である。

 その日は、桃Tが不在のため、保健室には誰もいない。そこで桃Tから留守番役を頼まれた。

 通常、保健室や図書室といった学校の公共施設は校内営業するにあたって、誰か一人、担当者を配置しなければならないが、代わりに僕のように委員会に属するものを配置する事が可能である。

 放課後は特に用事もなく(あっても借りた本を返しに図書室まで行く程度)、いつも保健室へ直行しているので、僕にとってはいつも通りの平常運航だった。

 しかし、そんな平和的運航の毎日は、急に波乱の嵐を生み出す。

 保健室への廊下に続く曲がり角を差しかかった時、ふと僕が窓の外を見やった時であった。

「……」 

 不覚にも、見惚れてしまった。

 強気で端正な顔立ちと、荒めのヘアスタイルなのに、何処か美しさを感じる赤髪。学校の有象無象の女子達と同じ制服を着ているはずなのに、まるで違って見える。

 僕は、彼女の事を知っていた。

 彼女の名前は、阿久津優奈。

 今年から新しく転校してきた女子生徒である。僕の知り合いが、阿久津と同じクラスにいるので、彼女の事はそれとなく聞いていた。

 しかし、阿久津の体に染みついているものを見て、僕は我に返る。

「あの子……腕に怪我をしている」

 僕は張り付くように窓の外を見ると、阿久津の隣…丁度対面するように、もう一人の女子生徒がいた。

 女子生徒は軽々と片手にバッドを持っており、阿久津を睨んでいる。

「テメエ、前の学校で有名だったってなぁ? あたいの知り合いに テメエの通ってた学校の奴がいんだよ。そいつから聞けば、派手に遊んでくれたらしいじゃないかい? え?」

「知るかよ。どいつもこいつも勝手に喧嘩を吹っ掛けてきやがって……」

 阿久津は、吐き捨てるように台詞を言う。さも迷惑だといった様子で女子生徒を睨む。、

「これ以上オレに近づくな。うぜえんだよ」

「……へえ。思った以上に好戦的だねえ? ……生意気ぶってんじゃねえよ!」

 阿久津は、がっと首を掴まれる。

「余所者の分際で、アタイ達にたてつこうと思ってんじゃないよ! もし、次に同じ事をするようなら、タダじゃ置かないよ」

「……っ」

 阿久津は、強く下唇を噛む。その表情は、悔しさや怒りといったものではなく、深い青色を体現するかのように、悲しんでいるような様子だった。

 女子生徒は阿久津の襟首を離すと、阿久津を一瞥した後、その場を去った。

 理由はどうあれ、怪我人を放っておくわけにはいかない。僕は阿久津の元へと急ぐ。廊下から非常用の出入り口を利用して外に出る。僕はそのまま阿久津のいる中庭へと向かった。

「っ!」

 僕の足音に気付いたのか、阿久津は身の危険が迫る動物のようにこちらに振り向いた。

「なんだ、テメエ?」

 険しい表情と鋭い目つき、近くで見るとどれだけ凄味があるのか理解できる。その様子はまるで弱肉強食の世界で生き抜いてきた猛獣だった。睨みの利いた阿久津の瞳の中に、僅かに恐れが映っている。

 しかし、恐れていても、怪我は治らない。

「一年の阿久津さんだよね?」

「だからなんだよ?」

「阿久津さん、ちょっと保健室まで来てくれるかい?」

「……は?」

「いいから早く」

「ちょ、おい!」

 普通、警戒した動物には余計な刺激を与えると逆効果だ。それもお構いなしに僕は阿久津さんの腕を引っ張る。。

 僕の中では、阿久津の怖さより、怪我の心配で頭がいっぱいであった。別に阿久津は大傷を持っているわけではなかったが、一円を馬鹿にするように、小さな怪我でも放っておくのは良くない。そこから菌が入り病気に陥る可能性だってあり得る。実際に病原菌が怪我の傷口から入った結果、重度の疾患を受けた人間が死亡したケースも存在する。

「テ、テメエ! いきなり何しやがる! 離せ!」

 阿久津は強引に僕の腕を振りほどこうとした。攻撃を警戒した獣の威嚇行動によく似た阿久津さんの表情は、警戒と恐怖が丁度5分5分に割り切られたようだった。

「で、でも、怪我は治さないと……」

「怪我?」

「それ……」

 僕は阿久津さんの腕の傷を指さす。

「ふざけんな。こんなのただの切り傷じゃねえか。……何なんだお前」

「えっと……保健委員?」

「はあ?」

 阿久津は顔をしかめる。まさに「何なのコイツ? ひょっとして頭のネジがドラ○もん並に吹っ飛んだ勘違い野郎? 超キモイんですけど」なんて様子だ。だが、僕としては怪我人を見捨てる事だけは絶対にしたくないし譲れない。

「ちょ、ちょっとだけ! ほんのちょっとだけの時間で良いから! 怪我は怪我でも、小さな傷跡から菌が入ったりしたら大変だからさ」

「……」 

 いきなり、阿久津は押し黙った。別に僕の勢いに押され負けをして黙った、とかそういうものではない。

 不思議な様子で阿久津は僕を見つめていた。逃げようと思えば逃げれるのに、そのまま僕に腕を掴まれて引っ張られた状態だった。

 とりあえず、僕の言う事だけでもしっかりと聞いてくれたのは、とても有難かった。

 僕の第一印象は決まって『ひ弱』だ。誰が見ても「なんだ、こいつ弱いじゃん」が戦わずして分かってしまうレベル。

 僕の予想だとそのまま殴られてフルボッコされてしまうだろうと思っていたが、そんな様子は彼女からは感じなかった。

 僕は来た道を戻り、保健室までたどり着く。無機質なスライドドアを開き、阿久津を室内ベッドに座らせた。

「とりあえず、ここで待っててね」

「……」

 横顔でちらちらと目を泳がしている阿久津さんの様子はどこか落ち着かない様子である。保健室に入るのは初めてなんだろう。新鮮味のある場所と言うのは誰だって緊張するものだ。

「今から準備するから、適当に寛いでいててもいいよ」

「……おい」

「ん?」

 阿久津は手をもじもじとさせながら、僕に話しかける。

「こ、こういう時って、な、なんか言う事あるんじゃねえのかよ?」

「え、……あっ……あ〜〜っ。ごめん……。まだ謝って無かった、よね……」

 怪我の事を最優先に考えていた僕は、まだ阿久津さんに謝りもしていなかった。僕はゆっくりと頭を下げる。

「勝手に連れてきちゃってごめん。僕、怪我人を放っておく事が出来ない性格でさ。こういう時ってすごく夢中になっちゃうんだ」

「……は?」

 ポカン、なんて効果音が似合いそうな表情を阿久津は見せていた。

「ん? どうかしたの?」

「……」

 ふんっと僕から視線を逸らす。鋭く眉をしかめた顔とは対照的に顔が若干赤らめていた。はて、一体どうしたというのだろうか?

「しょ、少女漫画なんて、嘘だらけじゃねーか……」

「へ? なんか言った?」

「う、うっせえよ! さっさと離せ!」

「いやいや駄目駄目。ちゃんと怪我を治さないと」

「はぁ!?」

「いいから、いいから」

 ため息をついた阿久津の眼は、僕の事を、どこか期待はずれのスポーツマン溢れる新人君のように軽蔑した目で見ている。そんなに期待されても何も出ませんよ。高一からバスケットゴールにダンクぶちかませる新人じゃあるまいし。

「とりあえず、阿久津さん。腕を見せて」

 手当ての段取りを終えた僕は、治療のため阿久津に腕を見せてもらう。

「なんのつもりだ、テメエ?」

「いや、手当てできないから」

「初対面の相手に抵抗ねえのか!?  てめえは!」

「抵抗っていうか、そもそも見せてもらわないと……そんなに腕を見せるのが嫌なのかい?」

 男が女に腕を見せろというのは、確かにセクハラ行為といえばそうなる。しかしここは神聖な保健室……桃田先生は神聖とはちょっと違うけど。自ら犯罪を行う事は決してあり得ない。僕がそういった厭らしい事に疎い(桃田先生にそう指摘された)事もあるが、そもそも興味がない。それ以前にそんな事をしようものなら、阿久津さんに一瞬のうちに殺されるだろう。ファーストタッチ・オブ・ザ・デッド。略して痴漢黙示録。

「い、いや……これは……。テ、テメエが悪いんだよっ! いきなり出てくると思えばこっちの話も聞かずに腕を掴んで、こ、こんな所に連れて来るから、へ、へ、へ、変な勘違いしちまったじゃねえか……ふ、ふ、ふっ……二人っきり、だし」

「……えーと、ごめん。最初の方は理解できたんだ、確実に。でも途中から何を言っているのか、よくわからないんだけど……」

 もう一度いうが、保健室とは神聖な場所である。基本室内には一人か二人しかいないのだから、二人っきりになる事なんてざらにあるだろう。

「っ! ああもううっさい! なんなんだよテメエは!」

「す、すいませんっ!」

 一応、保健委員です、てへ。なんて言おうと思ったけど、今にも殴ってきそうな雰囲気をギンギンに出している阿久津さんがかなり怖いので辞めておこう……。 

 僕は暴れる阿久津さんを手なずけるように落ち着かせる。今の状況を言うなら、エジプトに出てくるあの壺のコブラもどきが阿久津さんと仮定すると、僕はそのコブラを操る笛吹きなのだろう。

 阿久津さんは壺に舞い戻るかのように静かになる。

 にしても、阿久津さんはなにを恥じらう事があるのだろうか……それこそ初対面の相手だろうに。異性恐怖症……なわけがないか、男子が逆に阿久津さんを恐れるくらいだし。

「とりあえず簡単な手当だけでも、ね」

「……だったらさっさとしろ」

「うん…。じゃあちょっとピリっとするけど、我慢してね」

「……」

 阿久津さんは素直に腕を出す。丁度中央辺りに、ピッっと一本線が張るように出血している。僕が思っているほど怪我は大きなものではなかったようだ。

 僕は小物置き場から滅菌ガーゼを取り出し、それをピンセットで挟み、阿久津の腕に付ける。

「ひ、ひゃっ!」

「うぉっ!」

 ビクっと阿久津さんの体が跳ねた。それは間違いなく小動物。気高きライオンから、巷のペットショップで見かける萌え萌えキュンなマングースちゃんへ魂がソウルシフトした。マングースじゃなくてハムスターだっけか? まぁいっか。

「いきなり何しやがんだてめえ!」

 反応はマングースちゃんかと思いきや、やっぱりライオンだった阿久津さんは問答無用で僕の襟首に掴みかかる。

「だからピリっとするっていったじゃない……」

「そんな生優しいレベルじゃねえだろこれは!」

 阿久津さんは吠える。気高く吠える。そう、声だけは気高いのだがいかんせん顔が赤く、瞳の筋からは可愛い涙が出ているせいか迫力なんてなかった。

「オレを泣かせるなんていい度強じゃねえかぁ! あぁ!? 表出ろ! 表!」

 阿久津さんはワンワンと吠える犬のように赤らめた顔を僕に押し付ける。阿久津さんの予想以上にピリ辛だったんだろう。このガーゼは。

 本来、不良やヤンキーというのは、明確に強い存在だ。常に目立ち、周囲を雰囲気で黙らせ、強くあり続ける一族だ。保健室など言語道断。彼ら彼女ら誇り高き戦闘民族は引き返す事を知らないのである。……それでも切り傷程度の手当てで、ここまでビクつくのはどうかと思うが。まぁ現在の小学生でも泣きはしないだろう。いや昔の方が泣かないか。

 全く、今時の小学生は、休みの日は家に居る時が殆ど多い。インターネットなんてものが普及しすぎだからだろう。まさにハイテックチルドレン。いかんいかん。やはり子供は外に出ないと。だから病気が移るんだ。風の又三郎さんとかを見習った方がいい。あんまり知らないけど。

「人の話を無視してんじゃねえ!」

「い、痛い痛い! 首が痛い!」

「今、絶対関係ない事考えてたろ!?」

「なんでわかるんだよってぐえぇえあいたたたた!」

 阿久津さんの締めるパワーが強くなる。それ以上は抜ける。色々と抜ける。どれくらい抜けるかと言うと、アOパOマOの頭部を3割程抜かれる程度だ……中々ホラーだな。

「しゃらくせえ! 帰る!」

「ちょ、ちょっと阿久津さん! 治療中なんだから『逃げちゃ』だめだって……!」

「……」

 阿久津さんが扉の前で取っ手を持とうとした時、ピクっと体がうねる。

「あ、阿久津さん?」

「……今なんつった?」

「え? なんて言ったって……」

 アーイドル♪ と答えてしまったら最後、阿久津さんにその首をもぎ取られてしまうだろう。僕は素直に答える。

「保健室から出たら、怪我の手当てができないからだよ」

「そうじゃねえよ」

「え?」

「誰が『逃げる』だって?」 

 ヤンキーの習性を忘れていた。再確認すると、彼ら一族は誇り高いのだ。何処かの惑星の王子よりも誇り高い。奴らの亜種と言ってもいいんじゃないかと思うくらいだ。

 彼女らヤンキーは逃げるとか泣くとか、そう言った悲観的行動を嫌悪している。それは全国共通、道端のヤンキーから裏社会を握る人間たちまで何処に行っても変わらないだろう。……後者はヤンキーじゃなかった。

 阿久津は挑戦的な表情で保健室の扉から手を離し、どかどかと僕の前まで戻ってくる。椅子に座るとばっと手を見せてきた。

「これでいいだろ。さっさとやれよ」

 僕から顔だけを逸らして捻くれる阿久津さん。というか、この人ってこんなに表情の多い人だったっけ?

 だがそう疑問を持っても仕方がない。

 ヤンキーとは全く縁のない僕にとって、今日が初めてのファーストコンタクトに違いない。

 僕は新しい滅菌ガーゼをピンセットで摘み、今度はゆっくりと阿久津の腕に乗せるように移動させる。

「……っ」

 阿久津さんを無駄に刺激させないように、優しく包み込む白い雲の如く、消毒液で濡らしたガーゼを傷口に当てる。

「ひゃ……んっ」

 やはり、これだけ優しく当てても阿久津さんは拒否反応が大きいようだ。しかし、阿久津さんは涙堪えながらも腕を震わせている。

 確かに阿久津さんは、素の美人である。性格を知らなければ誰だって羨むし、心を打たれる。先ほどの僕がそうだったからだ。だがよく見れば、彼女は正真正銘のどヤンキー、誰だって恐れるし、心が怯える。先ほどの僕がそうだったからだ。

 しかし、彼女の心の底にでは、誰よりもわかりやすい「女の子らしさ」が閃光のように輝いている、そんな風に僕には見えた。

「なんだよ……?」

「いや。阿久津さんって、色んな顔するんだなぁ〜……とか?」

 いきなり何を口走っているのか分からない僕は途端に口を押さえる。しまった。正直な感想を口に出して言うのは僕の悪い癖だ。特に、知り合いの女の子の前で酷評を曝け出してしまった時の罪悪感は半端じゃない。そんな体験談が僕にはある。

 同じクラスの友達が僕の事を『正直者は嘘をつかない』と励ましてくれた事があるが、敢えて訂正するなら『正直者は人を傷つける』だ。根拠は僕の体験談。今もまさにそう。

 阿久津さんは今頃、「いっそのこと東京湾の海に沈めようか?」なんて思っているに違いない。せめて沈めるなら沖縄の島でお願いします。死ぬなら心が晴れるくらい綺麗な景色を見て死にたい……。

「……そ、そうか?」

「へ?」

 阿久津さんの意外な反応に僕は一瞬戸惑う。

「お、怒らないのかい?」

「別に。なんでオレが怒るんだよ」

 阿久津さんは「こいつ何いってんの? もしかして巷の草食系?」みたいな目線で僕を見てくる。僕の場合は草食系以前にブラキオサウルスと友達から言われた事があるんだけど……あれって草を食べるんだっけ? というかなんでブラキオ? 動物じゃなくて最早恐竜クオリティ。

「……オレの事、怖いのか?」

「へ?」

 その表情は少し曇りがかっていた。頭の上から小雨がパラパラと降ってくるような、しみる悲しさを僕は感じた。

「……確かに、最初見た時はちょっと怖そうだなって思ってたけど、今は、怖いって感じはしない。というか……」

「え?」

「…すごく、女の子らしい……のかな。だから、怖くないよ」

「! ……そ、そうか」

 阿久津さんの表情から、微かに笑みがこぼれた……。

 微かに見せた、阿久津さんの笑顔はとても女の子らしく温かさを感じた。いうなれば、天使という表現が似合っているだろう。

 そんな奇妙でしんみりとした中、僕は阿久津さんの手当てを済ませる。終始、阿久津さんの表情はさながら注射を嫌う子供のように、半泣きした状態で赤らめた顔をしていた。

「お……終わった?」

 語尾が小学生らしからぬ怯えた声質で僕に呼び掛ける。

「うん。これでもう大丈夫だよ」

「そ、そっか……」

 阿久津さんから安堵の息が漏れた。

 正直な話、僕の予想以上に阿久津さんの怪我は酷い状態だった。最初に阿久津さんの腕を見たときから、僕は確信を持つ事が出来た。彼女の腕に流れ落ちる赤い血が、黒ずんで見えていたからだ。

 小学生の頃、「怪我」から来る病気、所謂バイ菌に関して教わった人たちが殆どである。。 

 しかし、中学生になれば、バイ菌がどうのこうのなんて馬鹿馬鹿しく、小学生じみた子供っぽい情けなさを感じる者が多くなっている。小学生を卒業する事は大事と言えばそうだが、だからこそ甘く見てはいけない。大人になっても怪我からバイ菌が入ってくるのである。

 その典型的な例として、怪我からにじみ出る赤い血が黒くなるいう現象がある。実際に過去にも、その症状が出てからも放っておいた学生が病死したという具体例が存在する。

 僕はそれを見た瞬間、無意識に体が動き、阿久津さんを保健室に連れて来ていた。

 少々乱暴で、しかも相手はヤンキーとくれば殴られる事も覚悟していたが、それでもここに連れてくる意味は十分あったと思っている。

「あ、そうだ」

 僕は保健室の小物入れがある場所に行き、ある物を取りだす。

「なにしてんだ?」

「えーっと……あ、あった」

 僕が取りだしたのは、一つの絆創膏。

 それは何の変哲もない、シンプルなデザインの施されたものだ。

「はい、これ」

「えっ……?」

 阿久津さんは目を丸くする。

 僕は一枚の絆創膏を、阿久津さんの手に優しく包み込むように渡した。

「一応、お守りってことで」

「お守り?」

「うん。昔に習った先生がね、絆創膏を一枚、長い間持っておくと、大きな病気にかからなくなるって言い伝えがあるんだって。だから、保健室に来る人には、必ず一枚はあげているんだ」


「そうなのか……」

 阿久津は、少し顔を赤らめて、小さな絆創膏を握り締める。

「だからって阿久津さん、余計に喧嘩なんてしたら駄目だよ? また大きい怪我を負ったら、もしかしたら、もっと大変な事になってるかもしれないし」

「べ、別に、喧嘩しようがどうかなんて、てめえには関係ないだろ」

「関係ないにしても、怪我をするなら関係ある」

「……ふん」

 阿久津さんは詫びる事もない様子で、ぷいっと顔を背ける。

 保健室に来てから、なぜか分らないけどとても女の子らしくなった阿久津さんだったが、やはり根はしっかりとしたヤンキーらしい。

「……ありがと」

「え?」

「なんでもねえよ!」

「あ、そんなむやみに動いちゃ……」

 阿久津さんは一言、言い残すと椅子から立ち上がって保健室を出ようとする。

 その寸前、阿久津さんは脚を止めた。

「……」

 僕の眼を覗いていた。

 頬を少し赤らめ、ちょっとぎこちなさうに、僕を見ていた。

 嫌悪でもなく、好意でもない。

 その表情は、何処か僕を、明るい目線で見つめていた。

「……じ、じゃあな」

「うん、気を付けて」

「……っ! う、うっせえ!」

 阿久津さんの体が小動物のように体をピクっと反応する。

 阿久津さんはすぐに、ピシャっと扉を閉めた。

「なんだか、危なっかしいよなぁ……」

 初めて会ったものの、いかにもヤンキーだと思っていたが、彼女と接するうちにいつのまにか話せるようになっていた。

 むしろ阿久津さんの方から話しかけている事が多いように感じた。

「うーん。なんでだろう。でも……」

 また会ったら、今度はちゃんと友達として話したい。

 そう思わせるくらい、彼女は魅力的だった。

「そういえば、阿久津さん。常時顔が赤くなかったっけ」

 思い返してみれば、阿久津さんの顔は、何処か赤らめた様子だった。別に変態的な事をしたわけではないし、怒らせたわけでもない……怒らせかけたけど。

 まぁ、保健室なんて入った事もない場所だから、緊張したんだろう。

 頭の中の疑問は、自然と雲に消えていった。

 以上、僕と阿久津の出会いの話である。

























 目覚めた朝の太陽に照らされる今日の街。

 芽を咲かせるように鳴き声を上げているスズメ達が飛びまわっていた。

 保健室で一騒動あった日から一日が経過。

 あのまま意識を失った僕は、保健室で一眠りついて起き上がった時には、阿久津と城ヶ崎さんの姿は無かった。 

 桃T曰く『若いっていいわね』との発言を受けたが、何のことやらさっぱりで、桃Tの冗談と受け止めて忘れることにした。

「おはようございます〜」

 僕は保健委員の仕事があるため、早めに学校へ登校し、保健室に来ていた。

 扉を開いて室内を覗いてみるものの、桃Tの姿は見当たらなかった。職員会議でもあるのだろう。

 だが、その代わりに別の生徒が保健室へとやってきていた。

「阿久津?」

「……っ!」

 阿久津はビクンと体を子猫のように震わせこちらを恐る恐る振り向いた。ジェイソンか僕は。

 というか、朝っぱらからここで何をしているんだろう?

「おはよう、阿久津さん……って、何してるの?」

「や、薬師!」

 阿久津は僕を見るなり、ライオンの警戒態勢に似た姿勢を取る。警戒というか、相手の餌を見る時の体勢である。こ、殺されるのか?

「って何やってるんだよ、阿久津。保健室にはどうやって入ったんだい」

「……桃田に頼んで開けてもらったんだよ」

 どうやら桃Tは最初に保健室へ来ていたらしい。阿久津はこくんと頷くと、辺りをキョロキョロと見回す。その仕草は不審者のように動作がぎこちなく、表情も不安そうにしている。

「何か探しているの?」

「は、はぁ!? バカか。別にオレの探し物とかじゃねえし。てめえは引っ込んでろ」

 顔を赤くさせて怒っている阿久津だが、もろに自分の所有物を探していると宣言していたも同然だった。

「うん、探し物だね」

「っ……て、てめえには、関係ないし……」

「いや、大在りだよ。保健室での紛失物なら僕だって手伝う意味があるさ」

「う……」

 阿久津は嫌そうに顔を僕から背ける。

 阿久津は事あるごとに無理強いを張る性格だ。それは初めて僕に会った時からそうだったし、今でも変わらない。

「僕も手伝うから、一緒に探そう」

 あまり強く声は発さず、柔らかみのあるトーンで阿久津に話す。

「……わ、分かった」

 阿久津はなぜか顔を赤くして、僕の意見を承諾する。別に赤くなることはないと思うんだが……。

「それで、何を無くしたの?」

「……携帯電話」

「携帯か……。そうだ。なら、僕の携帯を使って、阿久津の携帯を見つければ早いね」

 僕はポケットから携帯を取り出す。

「え!? ちょ、ちょっと待てよ」

「ん? どうしたの?」

 僕が言葉を返すと、阿久津は手をあやふやさせており、挙動も不自然であった。

「そ、それってよ。つまり、オレの電話番号を、お前に教えるって事だよな?」

「うん。そうだけど……?」

「うんっててめえ! はっきりいってんじゃねえよ……い、異性に電話番号教えたことなんて今までなかったのに……ましてや薬師になんて…」

「阿久津?」

「ああもう分かった! 教えればいいんだろ!」

 阿久津は急に怒りだすと、早口で僕に電話番号を伝える。そこまで怒る事だろうか。別に相手の電話番号を登録するわけではない。仮に阿久津の電話番号を今知ったとしても、それはあくまで阿久津の探し物に協力しているから。

 それに、成り行きに混じって相手の電話番号……特に異性の携帯番号の場合、自分は知人だとしても、異性からすれば知らない相手から電話がかかってくるわけである。疑り深い人間であればあるほど、警察に通報されることだってあり得る。

「えーと、これで合ってる? 阿久津の電話番号」

「……ああ。それでいい。さっさとかけろ」

「じゃあ、かけるね」

 僕は携帯の発信ボタンを親指で触る。そして、耳に受話部分を重ねようとしたが……。

 ツー、ツー。

「阿久津……」

「な、なんだよ?」

 ツー ツー

「……全く繋がらないんだけど?」

「はぁ? そんな事はねえって…………あ」

 え? なにその『あ』って。どう考えても嫌な合図としか思えないそのフレーズは、最早全国共通であろう。

「もしかしたら、電池切れかも……」

 阿久津は中指を擦るように髪にひっかけて恥らう。なるほど。繋がらないわけだ。

 携帯電話の電源というのは、いつも思うんだが肝心な時にバッテリーがなくなってしまう。大抵の原因はバッテリーの充電回数にあると思う。何度も使い続ければ段々とバッテリー事態にダメージを与え、携帯で音楽を聞くだけですぐに無くなってしまう。

 僕は携帯をしまい次の手はないか?と頭を唸らせる。

「携帯が繋がらないんだったら……うーん。こうなったらしらみ潰しに当たるしかないな。阿久津。携帯を無くしたのはいつごろ?」

「さっき気付いた。お前より早く保健室に来た時だ」

「保健室に来るまでに、何処を通った?」

「……保健室に向かう前は、図書室にいた」

「図書室?」

「オレは保健室に来る前、棚ちゃんと一緒にいたんだよ」

 阿久津の言葉から出てきた、棚ちゃんという人物。

 それは、俺の幼馴染である『棚澤たなざわ しおり』という女の子であった。

 栞は無類の本好きで、学校では図書委員に所属している。

「栞と喋っていたのかい?」

「……お、おう」

「そうなると、携帯は図書室に落とした可能性もあるってことだね……。よし。今から棚ちゃんにかけてみるよ」 

 僕は再び携帯を取り出し、栞にコンタクトを取ってみる。

 しかし……。

「……」

「何やってんだよ?」

「あ、あれ? かからない?」

 時を待って数十秒。耳元で聞こえる通信音がうるさいんぁと感じるくらいに鳴り響く。

「駄目だ。電話に出ない……これはもしや」

 僕は電話を切ると保健室を出て、図書室へ向かった。

「お、おい! 薬師。待てよっ!」

 保健室を出て階段を上り、つきあたりの廊下に出た所を右に曲がる。しばらく行くと、図書室のネームプレートが扉前上に飾られている場所に辿り着く。

 僕は図書室の扉をゆっくりと開けた。 

 目の前に広がったのは、群がる本の聖域であった。

 室内の前側、入り口付近の場所は丸テーブルと長方形テーブルが複数あり、その後ろ側には綺麗に並べ揃えられた本棚が設置してある。

 比較的テーブルに近い場所には、文庫系のサイズの本が取り揃えており、設置してある棚の奥の方には、宇宙や歴史、世界に関する資料や数学の科学的な証明やら、様々な学術本が取り揃えてあった。

 朝頃のためか、本を借りに来ている生徒達は少なかった。 

 そこでふと、一つの丸テーブルに気になる姿を目撃した。

「いたいた……」

「あっ……」

 テーブルの上に重なる本は数えて10冊程度。ライトレーベルから物理学の本まで多種多様に積み上げられている。そして重なる本の隣には、椅子に座っている一人の女子生徒がいた。

 女子生徒は睨み続けていた。何を睨むかというと、その相手は本しかいない。彼女が見つめ続けるのは、『モーツァルトの人生』と描かれている伝記本である。つまり、モーツァルトとにらめっこをしている事になる。ならないか。

「おーい」

 僕は女子生徒に呼び掛けるが、一向に返事は帰ってこない。

 もう一回、彼女の名前を含めて呼び掛ける。

「おーい。栞ー」

「……うーん」

 ちょっとまて。普通『おーい』だったら『はーい』って帰ってくるのが基本だろ。なんだよ『うーん』って。お前は寝ているおっさんかカンガルーか。え? 違う?

 すると、女子生徒こと栞はいきなり立ちあがって。

「やっぱりコンスタンツェはいい妻だった!」

「……」

 出た。これが栞の得意技もとい奥義『SMT(スーパー・メガネ・タイム』である。

 要は本に集中して周りが見えなくなるということですよ。その間は何者も寄せ付けない岩と変化する。城ヶ崎さんなら『石の上にも三年とはこのことね』といいそうだ。

「あれぇ〜。やっ君だ〜」

「おはよう……」

「あっ! それに優奈ちゃんもいる〜?」

「ちょっと聞きたい事がある」

 阿久津の質問に疑問を持った栞は首を傾げ、緑色の髪は優しく横に流れる。

「聞きたい事? もしかして……コンスタンツェ?」

「いや、違うから……っていうか栞。コンスタンツェって何?」

「コンスタンツェはね〜。モーツァルトの妻の名前なんだよ〜」

「は、はぁ……」

 栞はその口調を崩さないものの、少し興奮気味に話しはじめる。

 栞は無類の本好きなので、一度テンションが高まって解説に入ると止まらない。所謂、最高に「ハイ」ってやつだろう。

 栞の解説によると、コンスタンツェというのは、モーツァルトの音楽活動を陰で支えてきた妻……だったらしいが、モーツァルトの死後、彼女は別の男性と結婚したのだとか。ここまで見ると、ただのお金欲しいだけの腹黒女性である。

 しかしコンスタンツェは、モーツァルトの偉大さを完全に理解していたようで、コンゥタンツェと結婚相手の男性の手によってモーツァルトの楽譜や手紙類が保存、整理され、後世に完璧な形で伝わったということが記録として残っている。ここまで見ると、ただのお金欲しいだけの腹黒女性に見えないのである。以上。これがコンスタンツェである。

 栞の解説が終了した。隣の阿久津を見やればぐったりと肩を下げている。

「ねぇ? いい妻でしょ〜」

「あ、ああ。そ、そうだね……」

 というか、モーツァルトの歴史の本を読んでたんだよな? もっと他に語る所はあるんじゃないか? と思うのははたして僕だけなのだろうか。

「あ、それで栞。阿久津の携帯が何処にあるか知らない?」

「携帯? 優奈ちゃん、携帯落としたの?」

「べ、別に落としたくて落したんじゃねえよ……」

 栞は僕の話を聞くと、うーん。と頭をうなずかせる。人刺し指をくるくると米かみ部分に当てて回転させるが、これといって思いつく様子がない。

「ごめん〜。ちょっと心辺りがないかも……」

「そっか……」

「そういえば……無くしものと言えば、図書室の小物の無くなってたんだよねぇ〜……」

「小物? 栞も何か探してるの?」

「うん。重要な物じゃないんだけどね〜。小物入れのペンが殆ど無くなっちゃったんだよね〜。 えへへ。優ちゃんと一緒だ〜」

「なっ! 抱きついてくるな! 馬鹿!」

 朝と言えど公衆の面前で阿久津の腰に抱きつこうとする栞。女子から見ればただのじゃれあいに見えるが、所謂変わった癖を持った人から見たら刺激的な一場面である。もちろん僕にそういったものはない。断じて。……うそじゃないよ?

「ごめんね、やっ君。力になれなくて」

「ううん。仕方がないよ」

 何か手掛かりはないかと図書室へと訪れたものの、栞も同じくして物を探しているらしいが、阿久津の携帯というわけではなかった。僕は栞に感謝の言葉伝え、阿久津とともに図書室を去る。

「図書室にはなかったね……」

「な、なんだそれ。慰めてんのかよ」

「そんなことはないって、保健室でも言ったじゃない。阿久津の問題は僕の問題でもあるんだから。一度引き受けた以上、最後までやり遂げないと」

「……お前」

「ん?」

 急に言葉数が減った阿久津は、僕を見てじっとしていた。身長差もあるせいか、びみょうに上目使い気味に瞳をこちらへ向けていた。

「どうしたの?」

「……! 別になんでも……」

「そう? それにしても栞も知らないとなると……」

 阿久津が他に行きそうな場所、という条件で絞られる事になる。それも阿久津の歩いた道筋、廊下やその近くの教室辺りという所だろう。

 と、思っていた時、ふと頭の中に、暗闇の中に閃光と言う名の閃きが放たれるように、一つの思案が浮かんだ。

「それじゃあ、城ヶ崎さんに聞いてみない? 朝の時間帯は見周りしているはずだから、落し物に関しても何か知っているはずだよ」

 この学校の風紀委員は、朝のホームルームが始まる前の自由時間と昼休憩に、風紀の乱れを阻止、改善するために見周りを行っている。いわゆる直接指導というやつだ。

 それなら今の時間帯も見周り調査を行っているはず、阿久津の携帯について何かしら情報を持っている可能性が高い。

「お、おい薬師……あの野郎に聞くのか?」

「そうだけど?」

「別に城ヶ丸のヤローなんかに聞かなくったっていいだろ! 聞いたって無駄だ……」

「別に無駄なんてことはないと思うけど……」

 阿久津はハエが空を飛ぶようなスピードで首を横に振る。『城ヶ丸のヤローだけには聞きたくない、というか馬鹿にれるはず。だからオレは動かない。何を言っても無駄無駄無駄』といいたいのだろう。阿久津は本当に城ヶ崎さんの事が苦手なんだなぁ……。だが、少なくても、嫌いというわけではなさそうだ。それならあんなに仲良く喧嘩はしない。

「阿久津、意地張っていても仕方がないと思うよ。たまには城ヶ崎さんに頼ったっていいじゃない」

「……」

 阿久津は亀が甲羅に閉じこもったかのように黙りこみ、ハエから亀へと一気にシフトダウンしていた。数秒の間に虫から動物へ早変わりなんて、中々超進化すぎるじゃないか。それならシフトダウンというマイナスイメージな言葉で片づけるより『おめでとう! OOOはOOOへ進化した!』と言えばポジティブイメージが増大するであろう。どうでもいいか。

 とにかく、阿久津も城ヶ崎さんに対して完全に否定的ではなさそうだ。

「とりあえず城ヶ崎さんに聞いてみよう」

「……お前がそういうなら、分かったよ」

 阿久津はゆっくりと首を縦に振ると、僕の意見を承諾した。

 僕は携帯を取り出し、城ヶ崎さんに電話をかける。

 委員会活動でもしもの事があったらと、城ヶ崎さんから電話番号をもらっていた。

 しばらくし数秒後。

『も、もしもし?』

「もしもし? 薬師だけど?」

『っ、や、薬師君………こ、コホン! いきなり電話だなんて、一体どうしたの? まぁ、もし放課後のお誘いというなら……』

 最後の方は何を言ったのかよく分からないが、咳き込みをして息を整えている。

「実は阿久津の携帯が無くなっちゃってさ」

『え? あ、そ、そうなの?』

「うん。ついさっき無くしたばかりなんだよ」

『そ、そう……。なんだ……』

「? 城ヶ崎さん?」

『い、いえ! 気にしなくていいわ。それで、阿久津さんの携帯が無くなったのね? ………うーん。でも見周り途中に携帯の落し物はなかったわね……』

「そっか……わかった。協力してくれてありがと」

『えっ? い、いえ。大したことではないわ。あと……や、薬師君?』

「ん?」

 少しづつ時間の経過に伴い、城ヶ崎さんの声が小さくなっていく。

『よし………。そ、その……今度、お時間があればーー』

 と、城ヶ崎さんが何か言いかけた時。

 ピッ。

 プー、プー。

「あれ?」

 遮断回線ゼロ、いきなり謎の妨害電波が襲来したかのように、電話の切った音が残照に響く。

 しかし、僕の携帯を見てみれば、『電池残量がありません』との表記が映し出されていた

「……あー。そういえば、昨日充電し忘れていたっけ」

 これはいけない。日ごろからこういう事は徹底しておかないと。

 というか、城ヶ崎さんは何を言おうとしていたんだろう……うーん。、こんどお時間が…と言ってたっけ。まぁ委員会活動の仕事だろう。今度会ったら謝っておこう。

「阿久津。とりあえず保健室に戻ろうか」

「ああ……」

 結局、城ヶ崎さんにも宛てがなく、僕たちは渋々保健室へ戻ることにした。なぜだろうか、帰り道は足取りが重く感じる。

 そうゆっくりと廊下を歩いている時であった。

「……薬師?」

「ん? ……って。そうだよね。結局見つけられなかったからね。僕から協力するって言っておいて、ごめんね」

「謝る事じゃねえだろ……」

「?」

 僕は不思議に思って阿久津の横顔を眺めてみる。

 透き通る瞳を細めに閉ざしながらも、廊下の窓から入る日差しに照らされた褐色の肌に淡い赤色が混じっていた。

 すると、阿久津はゆっくりとこちらへ向く。

 赤らめた頬が、朝日に照らされる。

「……色々と、ありがと」

 光に照らされた表情が輝きを放つ。

 僕は一種の、太陽を目撃した。

 その時の阿久津は、何者とも比べ物にならないくらい、素敵な笑顔だった。

「……阿久津」

「……や、やっぱ忘れろ! 死ねバーカ」

「え? な、何を!?」

「う、うっさい! 死ねバーカ」

 阿久津はいつもの不良ならぬ目つきに戻ると、ぷいっとそっぽを向いてやり過ごした。というかその死ねバーカってのは何だ? 新しいキャラ作りのための語尾か? 似合わないから辞めとけといいたいがその瞬間僕の命はグチャっとなっちゃいそうだから言わないでおこう、それがいい。

 しかし、怒っている様子に見えていても、阿久津の頬は赤かった。

「でも嬉しいよ。ありがとう、阿久津」

「……っ。う、うっせえ!」

 そういうと阿久津はどしどしと廊下を歩いていく。しかしその様子は何処か健気さを感じ、楽しそうにステップを踏んでいた

 僕は、仕方なく、阿久津の健気な足取りを追っていく。

 そして、しばらく歩き保健室に辿りついた時のことであった。

「あれ……?」

 ふと保健室の扉を見て僕は疑問に感じた。

「扉が開いている? 桃Tが戻ってきたのかな?」

 僕は扉に手をかけ『桃T〜』といつものように彼女の名を呼びながら開けた。

 その時であった。

 扉を開けた瞬間、僕の視界に暗闇が広がった。

「っ!?」

 一瞬何が起こったのか理解できない。

 暗闇は瞬く間に僕の視界を覆う。

 そう、それはまるで漆黒の獣が鎖を解き放とうとした人間を襲うかのように野生で培った牙で相手を切裂く、自分の血肉に変換させる。暗闇の中で僕が思った事は一つ。それは危機だ。命の危機は心臓の鼓動を加速させ魂に死の暗示を知らせる。

「……!」

「薬師っ!?」

 阿久津の疑問と驚愕に満ちた声が響き渡る。僕の暮らしてきた保健室の扉の前で。

 僕は、倒れていく自分の体の感覚の中にいた。

 ああ、これから僕は死ぬんだ。

 きっと体にはナイフが刺さっているんだ。保健室に忍び込んだ何者かが、きっと僕を刺したんだ。もしかすれば、阿久津の携帯が無くなっていたのも、その何者かが原因だったのかもしれない。

 一瞬で視界が暗闇になったのは、僕が死の自覚に気づいていないからだろう。考えなくても分かる。

 人生というのは何が起こるかわからないものだ。 

 ごめん、阿久津。お礼を言ってもらっておいて、こんな事になるなんて。

 僕はきっと死にいくのだろう。

 ほら、体を触れば、なま暖かい血の感触が手に染みつくはずだ。

 そして、視界が見えなくても、いずれ漂うだろう。

 血の臭い……。僕の血の臭いが。

 …。

 ……。

 ………。

 …………。

 ……………。

 ………………。

 …………………。

 ……………………。 

 ………………………。

 あれ?

 お、おかしいな。全然、臭ってこないぞ? 

 というか、むしろ鼻がむずむずするような。

『プゥ〜』

 え? 何? 今の音? わっ! なんかオナラ臭っ! 

 うわ、何これ。何この臭い。めちゃくちゃ臭いんですけど?

 というか、臭いんですけど。とりあえず大事な事だから二回いいました。てへぺろ。

 ……ってそんな場合じゃない。

「……薬師。いつまで倒れてんだ? てめえ」

「あーら。雄ちゃんじゃない? それに優ちゃんも。どしたの? 二人でこんな所いて」

「居たのかよ」

「居たのって…そんな言い方ないじゃない。貴方が探し物をするから保健室の鍵を貸したのは何処の誰だっけ?」

「そ、それとこれとは関係ないだろ」

「あ。それで優ちゃん」

「あ? なんだよ?」

「雄ちゃんとは何処までイったのよ?」

「馬鹿かテメエは!」

「あーら。優ちゃん急いで『鍵を今すぐ貸してくれ!』なんて役者顔負けの覇気で言ってくるものだから。それだけ欲求が溜まっていたのかな〜って思って♪」

「桃田と一緒にすんな!」

「あのー………………」

 僕は、平凡的かつ色気的な二人の日常会話に割り込む。

「今、僕どうなってるんですか?」

「あー。雄ちゃんまだ気づいてなかったのね。自分の手で頭に乗っかっているものを掴んでみなさい」

「へ?」

 僕はそう言われて、頭に乗っている何かを手で取ってみた。

「ニャァー」

「……」 

 黒猫だった。黄色い猫目で生意気そうに鳴いている。

 どうやら暗闇の正体はこいつらしい。あまりにも急激すぎたからびっくりしたじゃないか。それこそ『目の前がまっくらになった』みたいな気分にてもおかしくないだろ。おまけに近距離でおなら噴射させられる、この始末。

「これは…どういうことでしょう?」

「だから猫よ」

「いやそれはわかってますけど! なんで猫がこんな所にいるんですか?」

「そうねぇ……それを説明すると、話は長くなるわよ? 悶絶しちゃうわよ」

「悶絶なんかしたくねえよ。というか早く立てよ薬師」

「あ、ごめん」

 阿久津とは別の意味で目つきの悪い黒猫の首を、ひょいと手でつまみ上げる。にしてもこいつ……臭いオナラだったな。

「その猫ね。いつのまにか保健室に紛れ込んでいたらしいのよ。おまけに……見てごらんなさい」

 桃Tの意味深な言葉に頭を捻った僕達は、案内されるように桃Tの後を追う。

 すると、保健室の一角……丁度ベッドの四隅の一つに、なにやらごちゃごちゃしたような瓦礫の山が見える。

 否……これは。

「これって、学校の備品じゃないですか!」

「そういうことよ」

 それは単に瓦礫の山等ではなく、様々な備品が積み上げられている。しかもそれは保健室の備品だけではない。

「この小物入れは……そういえば栞が探し物をしていたっけ……」

「そういうこと。この黒猫。ありとあらゆる場所で窃盗未遂を犯していたわけ。全く、いつから紛れ込んでいたのかしら……私猫アレルギーなのよねぇ……ハックシ!」

「ということは、阿久津の携帯もここに?」

「もう探しているわよ」

 僕の知らない間に、阿久津はさっそうと接盗品の山に入り込み探し始めていた。そんなに焦らなくてもいいのに……。

「……あった」

 阿久津の動きがピタっと止まる。見ればその手には彼女の携帯が握られていた。

 それと、もうひとつ……。

「……あれ? 阿久津……それって」

 目に見えていた。

 彼女の手に持っているものを。

 それは、一つの絆創膏であった。

 僕と阿久津が初めて出会った時、おまじないとして彼女に上げた無機質な絆創膏だった。

「それ……持っててくれたんだね」

「っ!」

 阿久津はギョっとしたように僕を見る。流動する体の動きは一種の豹。獲物を取られまいと必死で守っている動物の本能がちょっぴり見えた気がする。

「……見たのか?」

「いや、見えてたし」

「……持ってて悪いかよ」

「ううん。そんなことない。すごく嬉しい。ちゃんと持っててくれていたなんて」

「……っ!」

「ありがとう、阿久津」

「!!!!」

「わーお」

 桃Tのリアクションとは対照的に、阿久津は顔を一気に真っ赤にしていた。

 その焦りようは今までに見たことないくらいに女の子らしかった。

「バッ、バカか! てめえは! 恥ずかしくねえのか!? このっ!」

「ってちょ! 備品飛ばさないでよ! あぁ! ガラスに当たるって!」

 ……と思っていたが、やはり根はヤンキー娘である。

 備品の投げる速度が半端じゃない。あ! 痛い! 何かの角的な何かがあたった!

「いやあ〜ん。ラブラブね♪ どうやら私はお邪魔みたいかしら?」

「別にお邪魔じゃないいですというか止めてくださいよ〜〜!」

「いいわよ、遠慮せずに使いなさい。そのベッドも……好きなように使っていいから。でも、掃除はちゃんとしておくこと」

 何言ってんだアンタは!?

「っ〜〜〜〜〜〜! 薬師の死ねバーカ!」

 何も言ってないし。言ったのは桃Tだし。というか超痛い。

(でも……)

 阿久津の、あんなに女子らしい姿は初めて見た気がする。

 なんというか、自分でも良く分からないが、胸の鼓動が速くなっているのが分かる。

 阿久津 優奈。

 4月に知り合った。トンデモヤンキー娘。

 でもそれは外見上の問題で。

 本当は、誰よりも女の子なのかもしれない。

 そして、そんな彼女を見て、僕は……。

「痛っ!」

「テメー! どこ見てんだ! 死ねバーカ!」

「そんな事いうなら投げるなよっ!」

「うっせえ! ああもう! 見られたくなかったのに! 死ねバーカ」

 とりあえず、今は阿久津の攻撃を止める事に専念するか。痛いから。

 春の季節が始まって一カ月。

 学校に花咲かせる青春の一ページ。

 だが、教室や屋上以外にも、楽しい一ページがある。

 それは一つだけではなく、人の数だけ、いくつも存在する。

 僕たちは学校の一角、保健室を中心に色々な青春を送っていくだろう……。

 バタン!

「や、薬師君! さっきは電話を切ってごめ……」

 保健室からいきなり城ヶ崎さんが入り込んできた。

「……阿久津さん?」

「あ、城ヶ崎さん……」

「て、てめえは! 城ヶ丸!」

「……こんなにも室内を汚してまぁ、イチャイチャと楽しそうでなによりで」

 おじいちゃんは言っていた。城ヶ崎さんの怒りのボルテージが上昇していると……。ちなみに僕の祖父は今も元気で実家に暮らしています。

「そ、その城ヶ崎さん! ででで電話を切ったのはホントにごめん! 別に悪気があって言ったわけじゃ……」

「問答無用! 貴方達二人共! 死ぬまで指導してあげるわ!」

「はぁ!? てめえいきなり入ってきて何をほざいているんだか……この城ヶ丸」

「またその名で! やはり指導は無しよ! 今日こそ阿久津さんを叩きのめす!」

 あ、あれ? 僕は?

「というか! 保健室で喧嘩はご法度だってぇえええ!」

 こうして今日もまた、刺激的で大変な日常が流れていく。



 完


はじめまして、ちぇりおすと言います。


ここまでお読みくださり、ありがとうございました。


『オキシドールとバンソーコー』は、地元の友達四人で『何か一つの物を作ろう』と思ったのが始まりです。

『保健室を舞台にした作品を作りたい』という発言から、それを小説という形でだしてみました。原案は他の人が考え僕がそれを文にしました。。

教室という表舞台以外にもストーリーは存在する、という意味合いを込めて書きました。ざっと一年前のものです……。


またこれからも色々と書いていくので、お暇であればぜひとも見ていっていただけると嬉しいです。

失礼します。

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