第6話 澪と南美
入ってきた高瀬は澪のいるテーブルに行った。二人は知り合いなのか?でもこれは話しかけるチャンスだ。俺は夢岡さんを見た。夢岡さんはまだ書類に目を通している。
「ねぇ・・・夢岡さん、あれ・・・高瀬じゃない?」
夢岡さんは俺の指差した方向をみた。
「あ・・・俊来だ。」
夢岡さんの顔が一瞬強張った。
「どうしたの?」
俺が心配になって聞くと、夢岡さんはいつも通りの顔をして、
「なんでもない。俊来のところいってくれば?」
と、言いながらまた書類を広げる。俺は一人で席を立った。澪と高瀬は俺たちは俺たちの座っている席からあまり離れていないテーブルに座っていた。
俺が高瀬たちの席に近づくと、澪と高瀬は仲よさそうに何かを話していた。俺がもう一歩近づくと話していた澪が顔を上げた。
『あ・・・千明君!また、会っちゃったね!』
澪は俺の顔を見て、あの笑窪を見せた。やっぱりかわいいなぁ・・・。
「おう。あのさ・・・高瀬じゃねぇ?」
俺は澪の笑顔に見とれながら、高瀬に話しを振った。高瀬はコーヒーを飲んでいたが、カップをテーブルに置いて僕を見た。
「あ・・・月波?」
高瀬は驚いた顔をして俺を見た。
「よう。久しぶり・・・。」
俺は精一杯の笑顔を作った。(澪と一緒にいることが気に食わなかったから。)高瀬とは一年くらいあっていなかったが、その外見はほとんど変わっていなかった。俺より少し背が高くて細身。メガネをかけているが、結構
決まっていて、いかにもサワヤカ系な雰囲気をかもしだしている。まぁそれなりに、カッコイイのだ。
「何?月波・・・白河さんと知り合い?」
「まぁ・・・高校の同級生?お前らは?」
「んー?」
と、高瀬は言ってコーヒーを一口飲んでから、ちょっと照れ笑いをした。もしかして・・・。すると、隣から澪が割って入った。
『同僚だよねぇ!』
俺はちょっと安心したけど・・・なんか怪しい気が・・・。
「ふーん。あっ・・・そうだ、高瀬。」
俺はすっかり忘れていた本来の目的を思い出した。
「何?」
高瀬はまたコーヒーを口に含む。いかにもブラックコーヒーって感じの真っ黒な色。ミルクも砂糖も入ってなさそうだ。それにあの、コーヒー独特の(俺が嫌いな)香りを漂わせていた。
「あーっと・・・翼のこと。」
「ん?あー聞いたよ。LAに行くんだろ。」
高瀬は手首につけていた時計を見た。
「そう。で、夢岡さんと一緒に送別会計画してるんだけど。」
高瀬の顔が上がった。高瀬の目が輝きだした。なんだ・・・コイツまだ夢岡さんあきらめてないんだ。なら澪ともなんもないかぁ。
「夢岡さん・・・そこにいるんだけど。」
俺が夢岡さんの座っているテーブルを指差した。夢岡さんはまだ書類と格闘をしている。高瀬は勢いよく俺の指差した方向を見た。
「何?お前・・・南美と仲いいの?」
メガネの奥で、高瀬の目が光った。
「んー、ただの同僚だけど・・・」
俺がそういうと、まだ高瀬は疑ったような顔をしながら、夢岡さんに視線を移した。
『あの人?きれいな人だね。』
澪はうっとりした目で夢岡さんを見ていた。俺的には澪の方がきれいだと思うんだけど・・・。その時、夢岡さんがこっちを向いた。澪と高瀬は四人用のテーブルに座っていたので
「あ・・・夢岡さんとこっちに移ってもいいかな?」
と聞くと、高瀬は喜んで、澪も快く承諾してくれた。
俺は夢岡さんのいるテーブルへと戻った。
「あのさ・・・向こうのテーブルいかない?」
俺が夢岡さんに言うと、夢岡さんは一呼吸した。それから俺の顔をちらりと見た。
「あの・・・女の人・・・月波君の彼女?」
あまりに唐突の質問で俺は少々驚いた。
「あぁ・・・高校のころのね・・・、それが?」
夢岡さんは少し間を置いてから、書類をまとめだした。
「別に・・・なんとなく聞いてみただけよ。じゃ、あっち行くんでしょ?行きましょう。」
夢岡さんは冷めた顔をし、まとめた書類を片手に、もう一方で飲みかけのコーヒーを持って、高瀬と澪のいるテーブルへ移動した。俺は会社帰りのカバンと飲みかけのアイスティーを持った。アイスティーがテーブルから離れた時、なにやら白い紙が出てきた。俺はそれを拾った。【せっかく二人きりだったのになぁ】と、夢岡さんの文字で書いてあった。・・・・。えっ?
俺が高瀬たちのテーブルの前に行ったときには、夢岡さんは高瀬の隣に座っていた。俺は荷物を持ったまま澪の隣に座った。アイスティーの入ったグラスをテーブルに置くと、澪が口を開いた。
『千明君、変わってないね。まだ、これ飲んでたんだぁ。懐かしい。』
「まぁな。」
俺は少し顔を赤らめた。荷物を椅子に置くと、夢岡さんが話し出した。
「初めまして、私は夢岡美南。えーっと・・・白河澪さんでしたよね?どうぞよろしく。」
夢岡さんは笑顔で澪の方へ手を差し伸べた。
『あ・・・はい。』
澪は戸惑いながら美南の手を握った。
「それで、今度ね・・・私たちの大学時代の友達がLAに行ってしまうのね。それで、送別会をやろうと思っていて・・・。その話させてもらってもいいかな?」
夢岡さんは笑顔(無理した)で澪に言う。澪も笑顔で
『いいですよ。私にも何か手伝えることがあったら遠慮なく、言って下さいね。』
と答えた。なんか“女の戦い”って雰囲気なんですけど・・・。
しばらく、送別会について話していると、会場の話にたどりついた。
「んー・・・どうしようね・・・。」
夢岡さんは頭を抱えた。俺は飲みかけのアイスティーを口に含んで、隣に座っている澪を見た。蒲公英・・・。俺は澪に耳打ちをした。
「ね・・・、おじいさんにたのめないかな?」
『えっ?』
澪は俺の顔を驚いた表情で見た。
「いや・・・だから、会場・・・蒲公英・・・。」
澪の顔にみとれた俺がおどおどしながら言うと、澪は納得した表情に変わって
『あー・・・そっか・・・。そのことね。多分大丈夫よ。おじいちゃん、私にはすごく優しいし、私が頼めば大丈夫よ。』
と、あの笑窪を見せた。俺は一瞬その笑顔で頭が真っ白になった、すぐに我に返った。
「本当に?助かるよ。」
俺は夢岡さんと高瀬の方を向いて、
「やっぱり・・・蒲公英にしない?澪も協力してくれるって言ってくれたから・・・。会場は蒲公英じゃダメかなぁ?」
夢岡さんと高瀬の俯いていた顔が上がって、俺と澪を代わる代わる見た。俺も澪も状況のつかめていない二人を笑顔で見ていた。
夢岡さんはやっと状況を把握して澪の顔を覗く。澪はそれを笑顔で返した。
「蒲公英・・・いいゎ。協力してくれるの?ありがとう。」
夢岡さんは何か吹っ切れたように、書類をまとめて、ファイルにしまった。
こうして、澪が俺たちに協力してくれるようになり、夢岡さんと澪の微妙な関係が始まったのだった。




