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第4話 始まり

 しばらく、俺たちはベンチに座っているだけで、時間が過ぎていったんだ。二人とも何も話そうとしないで、ただ互いの存在を感じながら・・・。でも、時間はゆっくり刻々と過ぎていった。

しばらくそうしていると、澪が立ち上がった。

『千明君ごめん、この後まだ仕事残ってるんだ。じゃぁ、そろそろいくね!』

澪は俺の顔を見て笑顔で言った。その顔にはやっぱり笑窪があって、ヤイバが飛び出て少し幼い少女のような澪の笑顔だった。

「あ・・・うん。」

そんな笑顔に見とれながら俺は澪に言った。

『じゃ、またね!』

澪はそういうと、顔を前に向けて歩き出した。

「澪!」

俺は思わず澪を呼び止めてしまった。

『何?』

澪は立ち止まって俺のほうを向いた。

「あ・・・ごめん。えーっと・・・また、会えるよな?」

恥ずかしさを抑えて俺は澪の顔を見た。澪はにっこりと俺に微笑んで

『あたりまえでしょ!またね!』

「おう。じゃ」

俺は澪の後ろ姿をいつまでも眺めていた。長い髪を振りながら澪は俺の元から去っていった。そんな澪の姿が俺にはすごく愛しかった。


 澪と再会してから三日が経った。この日も俺はいつも通り会社に向かった。電車の中で夢岡さんと会った。

「おはよう、月波君。あのね、翼の送別会に呼ぶ人にリスト作ってみたんだけど・・・これでいいと思う?」

そう言いながら、夢岡さんはバッグからズラーッと名前の載っている紙を出した。大学時代の懐かしい名前が並べてあった。

「抜けている人いるかな?」

俺はリストをジーッと見た。一緒にバスケをやっていた友達、同じ学科だった友達・・・。いろいろな人の顔が浮かび上がってきた。

「いいと思う。」

しばらくリストを睨み、答えた。

「そっか・・・。これだと、五十人くらいだから・・・場所はどこがいいのかな?」

夢岡さん頭をひねりながら考えていた。その間も、俺はリストを睨み続けた。いいと思うのだが、何かが抜けているような気がしたから・・・。

 電車が俺たちの降りる駅に近づいてきたとき、分かった。リストに入ってない人・・・。

「夢岡さん、高瀬・・・高瀬俊来が抜けてるよ!」

電車内ということも忘れ、俺は大声で言った。同じ車両に乗っていた人が全員俺の方を見た。俺は我に返り、顔を赤らめた。そのとき、俺たちが降りる駅に電車が止まった。俺は恥ずかしさのあまり、夢岡さんの腕をグイッと引っ張って、電車を足早に去った。夢岡さんは俺に腕を引っ張られながら笑っていた。

 駅を出ると、俺は夢岡さんの腕を放した。

「あ・・・っと、ごめん。」

俺は顔を紅くしながら夢岡さんに言うと、夢岡さんは大声で笑った。

「月波君面白い!」

そういいながら・・・・。

夢岡さんはようやく落ち着きを取り戻して、俺の言葉に耳を傾けた。

高瀬俊来とは、大学時代の翼のライバル。バスケをやるにも、勉強するにも、いつも翼と競い合っていた。まぁ、バスケで翼が負けることはなかったが、勉強では惨敗だった。頭が良くて、将来を期待されていた。俺とはとくに関わりはなかったが、頭いいからといって、人を見下すような奴ではなく、とても面白くて親しみやすい人だった。翼と一緒によく、課題をみさせてもらった覚えがある。翼と一緒で、努力家で、夢に向かってがんばっていた。(確か翼とは恋のライバルでもあった・・・。夢岡さんを巡って二人で猛アタックをしていた。まぁ、これは翼の圧勝だったのかな・・・)

「高瀬君かぁ・・・。懐かしいな。なんかスッコンと抜けてたよ。高瀬君ね・・・はい。」

夢岡さんはバッグからボールペンを取り出し、リストの下の方に“高瀬俊来”と付け加えた。これが俺の悲劇の始まりだったんだ・・・。これから始まる悲劇の物語のことなんて頭にない俺は、翼の送別会を成功させようと、はりきっていたんだ。


 “高瀬俊来”思い出すんじゃなかった。変えられない、過去の出来事。こうして、これから始まる悲劇の物語が幕を開けたのだ。



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