第1話 君と過ごした時間
数年前の春、俺はあいつと出会った。あいつは学校中の男子の憧れで、俺がそうそう近づける相手ではなかった。小柄で、色白のあいつの周りにはいつも男子が集っていた。俺もその一人になりたかったが、その勇気が俺には無かった。そんな俺に奇跡が起きた。なんとなく付き合った女に振られた俺。おれはこの道を、一人で歩いていた。振られた女の名前までおぼえていない俺。俺は、道の途中にあるベンチに座った。こんな所にいても、何かあるわけでもないが、俺はこの場所が気に入っていた。嫌な気分になったら、いつもここにきていた。この日も、俺はここにいた。
俺が一人でベンチに座っていると、一人の人が来た。俺は俯いていたので、顔は分からない。
『あの、ここ、座ってもいいですか?』
その人はいった。俺はうなずいて、ベンチの隅に座った。その人は俺の隣に座った。
『ね、あなたその制服、○○高校じゃない?』
その人は言った。俺は黙って頷いた。
『私もその高校なの!何年何組?私は2年A組なんだぁ。』
よくしゃべる人だ。今はしゃべる気分でもないのに・・・。俺は気分が乗らないが、話した。
「俺は、2年B組。」
『そうなんだぁ。隣のクラスじゃん!名前何て言うの?えっと、私は白河澪。』
一瞬、俺は耳を疑った。白河澪って、学校中の憧れの的、そいつなのか?俺は顔を上げた。俺の隣に座っているのは、間違いなく、白河澪だった。色白で、小柄で、目が大きくて、セミロングの真っ黒いストレートのきれいな髪・・・、すごくかわいい。なんでこんな人が俺の隣にいるんだ。
「え、あ・・・、俺は月波千明。」
俺は動揺しながら答えた。白河の隣に僕が座っている。こんなことがあっていいのか・・・。これは夢か?
『月波君っていうんだ。何でこんなところにいるの?』
白河が聞いてきた。
「別に・・・、なんとなくここにいたたいから。」
俺はここにいる理由なんか無い。ただ、なんとなくこの場所にいたかったからだ。ここにいると、なにもかもわすれられる。
『ね、私よくこの道通るんだ。月波君、よくここに座っているよね。この場所好きなの?』
「別に・・・・、ただ、ここにいると落ち着くっていうか・・・。」
『それ、気に入っているんだよ。』
白河さんは笑った。俺はその笑顔に見とれていた。笑窪が出来て、ヤイバが飛出てめちゃくちゃかわいい。
『あ、私はね、さっき彼氏に振られちゃったんだぁ・・・・。なんかすごく悲しくて・・・。』
白河さん、今度は泣き出した。笑ったり泣いたり、忙しい人だ。俺、どうすればいいんだよ。
『こんな話しちゃってごめんね・・・・。ね、月波くん、友達にならない?』
さっきまで泣いていていたのに、もう普通の顔して言っている。この子のスピードについていけない。俺は戸惑いながら、頷いた。白河さんはいつまでもしゃべっている。僕はそれに、一生懸命ついていった。これが、俺とあいつの出会いだった。
それから、俺と白河はよく、一緒にこの道を歩いて、このベンチに座ってしゃべった。たくさんの時間を一緒に過ごした。
『ね、千明君とさ、学校ではほとんど会わないよね。』
ある日、白河が聞いてきた。確かに、俺たちは放課後、この道で以外会ったことがない。たぶん、白河の周りに男子が集まってるから、ほとんど顔を合わすことがないのだろう。
「そうだな・・・。」
俺は言った。
『なんでだろうね・・・。じゃあさ、明日一緒にお弁当食べない?』
俺は一瞬ドキッとした。白河と一緒に弁当・・・、そんなことできるわけがない。白河と一緒に弁当なんて食べたら、周りの男子がなんていうか分からない。でも、白河と一緒に弁当を食べてみたかった。だか、俺にはそんな結城がなく、俺は白河からの誘いを断った。白河の悲しそうな顔が、俺の心を揺さぶる。俺の手の届かないところにいた白河が、今は俺のすぐ近くにいる・・・・。俺は自分の感情をコントロールできなくなっていた。俺の目のまで笑ったり怒ったり、悲しんだり喜んだり・・・そんな白河のしぐさの一つ一つがかわいらしくて・・・・俺は思わず白河に抱きついた。
「俺、お前と、もっと一緒にいたいし、弁当も食いたい。けど、できない。他の奴らの目が気になって・・・。だから、俺とお前の関係このままじゃダメかな?」
俺は感情をグッとこらえていった。白河は笑って言った。
『そっか、そうだよね。なんかさ、私モテルじゃん。だから彼氏すぐできるとか、幸せだなんてよく言われるけど。今、千明君に言われたこと、彼氏から振られるときに絶対言われる言葉なんだ。私のことは好き。だけど、一緒にいるのが辛いって。私、好きでモテてるわけじゃないのに・・・・。幸せなんかじゃない。モテたくなかった。』
笑っていた白河の顔がどんどん暗くなっていく。一粒の雫が、白河の頬を伝わった。その雫はどんどん白河の目から流れた。
「ごめん。俺、傷つけちゃったのか・・・・。」
白河は俺をみつめる。その顔は、やっぱりキレイだった。涙の痕が頬に残っている。俺も白河をみつめた。その時、俺はついにあの言葉を言った。
「白河・・・、白河澪さん。僕はあなたを愛してます。」
恥ずかしさで顔が真っ赤になった俺と白河。感情に任せていってしまった言葉。白河は俺に抱きついてきて、
『私も!月波千明君のこと、愛してる。』
俺と、白河は晴れて付き合うことになった。これから、人の目なんか気にしないで、俺は白河と一緒にいられる。俺は嬉しかった。俺たちはこのベンチの上で初めて口付けを交わした。
それから、俺と澪は一緒にたくさんの時間を過ごした。学校では毎日一緒に弁当を食べ、一緒に帰る途中、あの道を通り、あのベンチにこしかけ、二人でしゃべった。デートをしても、喧嘩をしても、その後にあの道にきて、ベンチに座った。一緒に過ごした時間のほとんどをこの場所で過ごした。最初は気になっていた人の目も、そのうちに慣れた。白河と一緒に過ごす時間はとても楽しかった。
そんな時間は、早々と過ぎていき、俺たちは別れの日を迎えた。
『ね、千明君、これから離れ離れになっても、あの場所でまた会えるよね。』
「うん。」
『千明君、本当に今までありがとう。これからもよろしくね』
「うん。」
俺の目にも、澪の目にも涙が溢れていた。これから一緒に学校へ登校することも、一緒に下校することもない。卒業は嬉しいはずなのに、こんなに悲しいなんて・・・・・・・。
『じゃ、またね。』
澪が泣きながら俺の前から去った。俺も後を追うように、立ち上がり、家に帰ることに。
俺たちは別々の道を歩む、第一歩を踏み出したのだった。




