天国か地獄か 4
「ひったーーぁあ!」
ぎうぅっと自分の頬をつねってみたけど、無情にも現実だいうことを知らされただけ。
隣では三枝さんが、なにやってんだ、と心底呆れた顔。いや、当然の行動だと思うけど! だって、目の前に龍だよ? 龍!
龍っていっても、東洋っぽい龍で、色は白銀…あぁ、某映画のハクみたいな感じ?
「これで理解してもらえたでしょうか。この龍の名は巽 達樹。貴方は急降下した達樹の爪に引っかかり、風にも巻き込まれながら彼の背中に乗っていた。そこにもともといた相模が気がついて、貴方の救出を試みたわけで…」
ここで、ちろり、と立原さんを見る。
立原さんはぎくり! としたように一瞬毛を逆立てる…、なに?
おいで、と羽音さんに優しく手招きされ、もと座っていたソファに腰掛ける。
立原さんは部屋の隅に、こちらを伺うように座っている。なんとなく、その表情はじとっていう感じ…なんで?
「さて、貴方に聞きたいことがあります」
立原さんに向いていた視線を、羽音さんに戻す。
正直なところ、もうとっくに頭の許容量はオーバーしているので、出来れば家に帰りたいんだけどなぁ…なんて、私の思いはまったく届かず。羽音さんは優しげな表情に悪魔のような笑みを浮かべながら、爆弾を投下してくれた。
「相模はどうやって、狼になったのかな?」
その言葉に、立原さんは尻尾の先から頭のてっぺんまでざわざわざわーっっと毛を先ほど以上に逆立てる。
なんていうか、もう、変身することは当たり前のこととして、話は進むんだね…
私的にはすっっっっごい突っ込みたいんだけど、まぁそれは後でにするとして。
羽音さんに無言の圧力をかけられている立原さんは、じぃっとお互い睨み合っていたけど、ふと、困ったように私を見た。あれ? 私?
立原さんの視線を受けて、みんなの視線も私に集まる。
え? えぇ? 私は別に何にもしてないよ!?
私関係ないですよ!? と頭をぶんぶんと振るが、
「相模は、満月の光でしか変身できないんです。これまでいろいろと変身をコントロールする方法を試してきましたけど、まったく改善しなかった。とすると、考えられる原因は貴方しかいないんです」
そんなこと言われても…と、眉を寄せて首を傾げつつも、あの時起こったことを思い出してみる。
…お
「あー…、ひょっとして、あれかな…」
ぽそっと漏らした言葉に、羽音さんはにーっこり☆
う、なんか、怖い…
ていうか、変身云々の話をし始めたあたりから、結城さんがすっごい目で睨んでるんだよね…
なんだっていうのよぉ…
半泣きになりそうな私に、立原さんを無理やり抱えて側に連れてきた三枝さんが、ほらっと、
「じゃ、やってみて」
バタバタ手足を振って嫌がる狼さんを、私に押し付ける。
ううん、このもふもふ感はたまりません。私の涙もひゅっと引っ込むほどの癒され感。うぅ、連れて帰りたい…
ぎゅうっと狼さんを抱きしめると、観念したのか大人しくなり、黙って抱きしめられててくれる。
周りの視線はすごい期待してるし…、ていうか、しないと帰してもらえそうにない。
これはもう仕方ない。私は意を決して狼さんを体から離すと、
「いきます…、えいっ!!」
ごつっ!!
額を思いっきりぶつけ合ったのだった。
い、痛い…