天国か地獄か 3
「じゃあ、自己紹介しましょう。僕は羽音 翔です。あなたに抱きしめられて赤くなっていた狼は、立原 相模」
穏やか笑顔の美男子さんの言葉に、狼さんが「お、俺は違…っ!」と慌てて訂正するも、完全無視の羽音さん。うーん、力関係が垣間見えたような…、ま、いいか。
今は私が目覚めた部屋に置いてあったソファにみんなで腰掛けながら、自己紹介をしている。
羽音さんが、そう促してくれたのだ。
「俺は三枝 乾。よろしくなー」
金茶髪さんは軽い感じで自己紹介してくれる。女性の扱いに慣れてそうな印象…コホン。
「…結城 叉那江だ」
眼鏡をくいっと直し、静かに一言。いくつくらいなのかな、この人…。私よりは上だと思うけど…、なんか、視線が妙に絡んでくる気がして、落ち着かないのよね…
「ええと、矢凪 晶です。あの、とりあえず状況を説明してもらえると、とても助かるんですけど…」
私のもっともな問いに、羽音さんは苦笑しながら、
「そうですね。なぜ助かったのかは、簡単です。相模が吠えて、達樹に気がつかせてまた拾ってもらったんですよ」
…ええと?
いろいろ足りない説明に、私は眉を顰め、そんな様子に三枝さんがまたぷっと吹き出す。
いやいやいや、それじゃわからないでしょ!?
「そもそもね、ありえなかったんだよ。君が達樹に引っかかるなんて」
「俺も驚いた。気がついたら、達樹の背に乗ってるんだからな」
立原さんは、三枝さんの言葉にうんうんと頷き、私を見る。
私が引っかかる…?
みんなの話はまったく要領を得てなくて、私の頭の中は?マークが乱舞している。
「あの、引っかかるって、どういう意味ですか?」
いい加減ちゃんと説明して欲しい! とソファから身を乗り出すと、羽音さんがごめんごめん、と笑いながら謝ってくれ(怒)、
「あなたは風に攫われた、と思っていますよね? 違いますか?」
私はあの時の状況を思い出しながら、そうです、と頷く。
「はい、あれは風じゃないんです。龍になった達樹だったんです。達樹の爪に、あなたはひかかってしまったんですよ」
…は
「信じてないですね、まぁ、仕方ないと思いますが…。じゃあ、ちょっとその窓から外を見てもらえますか?」
羽音さんの言葉が、うまく頭に入っていかない。りゅう? りゅうって言った? 爪? 龍!?
うまく言葉を処理できず、その場から動こうとしない私に三枝さんが焦れたのか、強引に私の腕を取って立たせる。
「いいから、外、見てみろよ?」
不安そうにする私の手を引いて、窓の側に連れて行く。
私は恐々窓に顔を近づけ…、目の前にあるモノに、文字通り言葉を失った。
龍って、実在するん…だね