風にのって…
初めての投稿となります。学生時代に書き溜めたものを、加筆修正しながらのんびりと掲載予定。
誤字などありましたら、ぜひお知らせください。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです!
どうして、こんな目にあってるのかな、私…
目に溜まった涙をぐいっとぬぐいながら、眼下に広がる色とりどりの屋根を見下ろす。
────屋根
だからといって、今自分が飛行機に乗っているとか、ビルの屋上に立っているとか。
はたまた、スカイダイビングをしているとか…そんな理由じゃない(涙の理由は似たようなものだけど)
自分でも、いまだに信じられないことだけど
今、私は
風に乗って、身一つで空を飛んでいるのだった…────
* * * * *
「うぅん! 今日も疲れたー…っ」
初夏だというのにすっかり陽が落ちてしまった時間に、ようやく職場の裏玄関を出る。
したくもない残業。だけど仕事は終わらない。
明日の自分のために、ある程度雑務を片付けてから帰ろうと思ったら、すっかり遅い時間になってしまった。
仕事の責任も重く圧し掛かり始めた28歳の私、矢凪 晶は、中小企業の一般的な事務職員。
容姿も身長も取り立てて特徴があるわけでもなく(別にコンプレックスの塊になるほど、ひどいわけでもないけど)
どこにでもいる、日本人女性…だと、自分では思ってる。
毎日同じような仕事をこなし…、それに不満があるわけじゃないけど、私だって時には胸ときめかすようなイベントがあったらいいな~と思う時はもちろんある。
出会いを求めて1人でふらふらっとカフェを巡ったり、イベントものに参加したりすることもあったけど
今のところ、胸振るわせる出来事には出会っていない…おしい
「ふ、この年になると1日も早いわ~」
暗くなった空を見上げながら、そんな言葉と共に小さくため息をつく…おっと幸せが逃げる
今日もまたいつもと変わらない日常だったな~と思いながら、玄関の階段を下りたところだった。
「ふ、うわっ?」
目も開けていられないほどの突風が全身を包み、思わず声を上げる。
ばたばたばたっと着ているスーツがあおられているのがわかるけど、押さえようにもバッグのハンドルを握り締めるので精一杯。
「な、ななななっ わぷっ!!」
悲鳴も途中で遮られるような、嵐のような風の中、ふいに、体が持ち上げられるような、奇妙な感覚に陥った。
目を開けることはできないが、確かにわかる。
足が、地面から離れてる!
「う、嘘でしょーっ!?」
必死の叫びを風はいとも簡単に飲み込み、そのまま私の体は上空へと引っ張り上げられたのだった…