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prologue -b

 銀髪の少女は黒いローブを纏った魔術師然とした男に連れられて石で組み上げられた廊下を歩いていた。長く続く先の見えない道に窓はなく、所々に付けられている松明(たいまつ)の灯りも心許ない。陰鬱な雰囲気と先に待つ暗闇に、少女の心は飲まれそうになっていた。

「あの……どこまで歩けば――」

「静かに歩け。『ハーフ』は黙っていろ」

「……はい」

 不安を払拭(ふっしょく)しようと男に質問を投げかけた少女だったが一蹴(いっしゅう)されるだけだった。

 少女は歩きながら自分の腕に取り付けられた白い腕輪を見た。その腕輪は奴隷の証だ。一年ほど前に人攫(ひとさら)いにあって売り飛ばされ、身分を奴隷に落とした少女は『ハーフ』と呼ばれるようになった。

『ハーフ』とは彼女のように何らかの理由で身分を落として奴隷になった者を指す言葉である。人生の一部を人間として過ごし、残りを奴隷として過ごす。半分は人間。ゆえに『ハーフ』。この言葉は『ハーフ』たち自らが、生れ落ちたときからの奴隷とは違うという自尊心から作った物らしい。しかし現在では人間から奴隷に落ちた、すなわち人間としての身分に見合うだけの才能を持たなかった無能、という意味で蔑むために用いられる表現となっている。

 無言のまま数刻歩き続け、長かった廊下が終わり開けた空間に出た。立方体の部屋で、中心部が円形に一段高くなっている。円形の段の直径は大人の男が二人寝そべることが出来るくらいの長さで、円周上のちょうど少女の頭くらいの高さに、天井から()るされた六つの灯りが揺れている。しかし灯りが弱いために部屋の隅まで照らされておらず、不気味さを(かも)し出していた。何かの儀式に使う祭壇のようだと少女は思った。

 あの、と口に出そうとして少女は留まった。何を聞いたとしても「黙っていろ」と切り捨てられることは明らかだった。

 無言の時を立ち尽くすだけで過ごし、少女の我慢も限界に達して口を開きかけた時だった。

「来るぞ」

 男が小さな声でぼぞりと言った。何が、と聞く前に祭壇の中心がまばゆい光を発し、思わず目を閉じた。やがて光が収まりゆっくりと目蓋を上げた少女の視線の先には相変わらず不気味な祭壇とその祭壇の中心に黒い服に身を包んで眠る少年の姿があった。

 ローブを纏う男は何事もなかったかのように祭壇に上がり、少女もその後を追った。少年に傍らに立つと、男は見下ろして告げた。

「これが今日からお前の(あるじ)となる」

「はい」

 男は懐から黒い腕輪を取り出すと少女に渡した。腕輪を受け取った少女は屈んで、少年の手を取って腕輪をつける。黒い腕輪、それは奴隷を使役する者の証。

 次いで少女は少年の顔を見た。自分がこれから一生仕えることになるかもしれない人の顔を脳に焼き付ける。少しあどけなさが残るが端正な顔立ちをしていて黒い髪を持っている。その服装とも相まって『黒い人』という印象だった。

「行くぞ」

 男はそう言って祭壇から降りて長く続く廊下に歩き出すと、少女も少年を背負って急いでローブの男を追った。

 少女は、新しい主の鼓動の音を背中に感じながら先の見えぬ道を歩くのだった。

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