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第12話 繋いだ手

ありがちな結果な上に、過去最短だったり。

 市が開催されている通りに着くと、そこは活気と人が満ち溢れた場所だった。コク達の家の周りが閑静なことを考えると、とても同じ村の中だとは思えない。

 雰囲気に圧倒されて知らず知らずのうちに立ち止まっていた。

「すごい……」

 感嘆の言葉が意図せずに口から漏れる。

 まだ距離があるのだが、自慢の品を宣伝する商人達の声はここまで聞こえてくる。

 コクは眼前に広がる光景に呆然としながらも言葉を発する。

「ハク、ここっていつもこんな感じなのか」

「はい。市が開催される時はいつもこのくらいの賑わいですね。しかし開催されていない時でも、ここまで活気はありませんがそれでも人は多いですよ。市とは関係なく開いている店もたくさんありますから」

「へぇ、そうなのか。同じ村のなかでも店があるなしでは人の出入りが違ってくるんだな。俺達の家の近くとは大違いだ」

 そう言って、コクは笑った。

 だが、ハクの耳に響いたのは笑い声ではなく、コクが無意識に呟いただろう"俺達(・・)の家"という言葉。

 訂正しなければならないと思ってコクに視線を向けたハクだったが、そこに浮かんでいる笑顔を見て思い留まった。無闇にコクを不機嫌にする必要はないのだ。

 結局はコクを肯定する返事をすることにした。

「そうですね。やはり人は物がお金で買えるという利便性に惹かれるのでしょう。それに、家のある場所はこの村の中ではどちらかと言えば農業地帯に属していますので、もともと住んでいる人口も少ないんです」

「ああ、確かに。あそこはやっぱり感じからして農業だろうな」

 コクが納得して一人で頷いているとハクが遠慮がちに声をかける。

「コク様、そろそろよろしいでしょうか」

「そうだな。いつまでも突っ立ってちゃ、来た意味がないからな」

 コク達はなにも見学に来た訳ではない。こんなところで立ち止まっているままでは買い物をするという目標が達成できず本末転倒なのだ。

 そうして歩き出そうとしたコクだったが、一歩目を踏み出したところでハクに手を掴まれて止まる。

「なに?」

 振り返って尋ねる。

 ハクは顔を背けて言った。

「あの……手を繋いでいただけないでしょうか」

「え?」

 ハクの表情は黒いフードが覆い隠していてよく見えない。ありえないと分かっているが、フードの奥で頬を染めているハクの顔を想像してしまった。

「いや、いいんだけどさ」

 頬を染めながらも、おずおずと手を差し出した。

 ハクは顔を俯かせてコクの手を確認すると、すうっと手を差し出して、握った。

「あ、ありがとうございます。失礼かも知れませんが、私がこうさせていただきたかったのです……」

 ハクは背けていた顔をコクに向けた。そこに浮かんでいたのは恥ずかしがっている表情ではなく、いつも通りの無表情だった。

「この人ごみの中では(はぐ)れてしまう可能性がありますので」

「……あっ、ああ。そういうことね。はははっ」

 乾いた笑い声で誤魔化し、言葉で納得したことを表現してみるが勘違いしてしまった恥ずかしさは消えない。耳が熱くなっているのを感じる。

 ハクはコクを見上げて言った。

「コク様? どうされたのですか。耳が真っ赤ですよ」

「い、いや。なんでもない。なんでもないよ」

「もしかしてコク様」

 ハクがにやりと笑みを浮かべた。

「勘違いなさったのですか?」

 その顔を見て、コクは自分が騙されたことを理解した。

「……はぁ。俺ははめられたのか」

「えっ、コク様? そこは焦って否定するところではないのですか?」

「だってお前さ。普段は無表情なのに、俺をはめたときはいっつも"してやったり"って顔してるんだもん。そりゃ慣れれば分かるよ」

「ううっ。それではこれからは出来るだけ気持ちを顔に出さないように精進いたします」

「……精進する方向が間違ってるから。表情云々(うんぬん)の前にやらなきゃいいだろうに」

 コクは肩を(すく)めてため息を吐いた。

「それにさ、お前には無理に飾らずにお前らしくしていてほしいんだよ」

 コクが若干疲れが漂う微笑みを浮かべながら告げると、ハクは―――――ジトッとした視線を返した。

「コク様はそんなに私を落としたいのですか?」

「は? なんでそんな展開になるんだ?」

「……無意識のうちにやっていたんですか。昨日といい今日といい、よくそんな恥ずかしい台詞を真顔で言えますね」

「えっ、いや、それは……えーっと」

 昨日自分が言った台詞を思い出して、また顔が熱くなっていくのを感じた。

「今思い出してみるとやはり恥ずかしいですね。『お前には笑って――」

「ストップ! それ以上言わないでくれ。余計に恥ずかしい」

 ハクはため息の後にジトッとした視線で応える。

「コク様は天然なのですね。ジゴロですか? それともたらしですか?」

「いや、俺はどっちでも――」

「天然ジゴロですね」

「いやいや、今の俺の回答のどこにシゴロな要素が入ってんだよ。そもそも俺はジゴロの正確な意味知らないんだけど」

 言葉を聞き、珍しくハクが微笑んだ。

「気が合いますね。私も知りません」

「何故に!? 何故意味を知らないのに俺はジゴロにされるんだ!?」

「女の勘ですが……?」

 とぼけた表情を見ているとなんだか真面目に会話するのが馬鹿らしくなってきた。

「勘で判断しないでくれ。頼むから」

「分かりました。では勘ではなくコク様の台詞の代表例を明示しながら――」

「さっさと行くぞ!」

 好ましくない展開に向かおうとする現状を壊すために、ハクの手をぐいぐいと引きながら人ごみの中に歩き出す。

「ま、待ってくださいよコク様」

 ハクは引きずられながらも小走りで距離を詰める。

「そんなに急がなくてもいいじゃないですか」

「誰のせいだよ、誰の!」

「へ? 誰のせいなのですか? 私には見当もつきませんが」

「お前だよ! ハク。……まったく。分かっていてやっているんだから性質(タチ)が悪いよな……」

 自分が責められているにも関わらず微笑を浮かべているハクを見て、ため息が漏れる。

 コクは苦笑しながらも、繋いだ手が離れることのないように握る力を強めたのだった。

ありがちなラストになってしまいました……。


というか、もう12話目になるのにいまだにまともな事件が起こっていない。

まったく話が進んでくれません。


この調子では主要人物が全員出る前に20話まで行ってしまうかも知れません。



以上が最近の麻道の悩みだったりします。

宿題もやらないといけないし………

いや、でも小説は書くんですけど。


「死神」の方の手直しを同時進行しているので更新ペースがいつもと変わらないわりに内容が少なかったりする。

と、言い訳してみたり。


ま、頑張ります。




次話投稿は日曜日辺りを予定しています。

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