【放送事故】天才幼蘭姫のわからせ配信中に人類の希望が幼児退行した件。なお、姉は魔王をデコピンで消した模様【悲報】私の平穏、配信一回で終了のお知らせなんだけど?どうしてくれるメスガキキャラの妹よ
舞台はCランクダンジョン。十歳の美少女蘭は、最新鋭のドローンカメラに向かって不敵に微笑む。彼女は若干十歳にして、国から特別一級探索者に指定された本物の天才だ。配信越しに少女はリスナーを煽る。
蘭:「ざぁ~こ♡おじさんたちが必死に剣を振ってる間に、私は欠伸が出ちゃう……ねえ、もっとマシな敵はいないの?天才を退屈させるなんて罪だよ?」
〈さすが幼蘭姫!マジで次元が違う〉
〈今の回避物理法則無視してねーか?〉
〈はいはい雑魚でサーセンw〉
コメント欄は熱狂。しかし、その時、画面外から場違いすぎる生活音が響く。背後で袋がガサガサ鳴る音がして。
???:「蘭。調子に乗ってると、また明日の漢字テストでケアレスミスするよ。あと、帰り道で買い食いしたでしょ。口の横にチョコついてるし」
蘭:「っ!?」
肩が跳ねてから、カメラが音の方を向く。そこにいたのは学校指定のジャージを羽織り、パンパンに詰まった買い物袋を下げた中学生の少女、姉の菫。
菫:「言葉遣いもなっていません。視聴者の方はおじさんじゃなくてお客様。……ほら、晩ごはんのハンバーグ、ピーマン入れるからさっさと帰るよ」
蘭:「げぇっ、お姉ちゃん!?なんでここに……ってピーマンはやだ!絶対やだ!!」
〈え、誰この人。しかもジャージ姿w〉
〈幼蘭姫が蛇に睨まれたカエルになってて草〉
〈待て、姉はここがダンジョンの最深部だって分かってるのか?w〉
ダンジョンの空間がひび割れ、漆黒の炎を纏った死神アビス・リーパーが姿を現す。想定を超えたこの世の終わりのようなプレッシャー。
蘭:「(顔が真っ青になる)……嘘。これ、勝てない……私、死ぬの……?」
蘭の鎌が震える。天才として持て囃され、人類の希望という重圧を背負わされた十歳の少女。絶望に瞳を潤ませたその時菫が蘭の前に一歩踏み出した。
菫:「全く。スーパーのタイムセールに間に合わない」
蘭:「お、お姉ちゃん逃げて!スキルなしの一般人が勝てる相手じゃ」
菫:「スキル?……便利なだけの補助輪のこと。あんなのに頼ってるからいつまで経っても魔力の使い方が甘い」
菫は買い物袋を地面に置くと無造作に死神へ歩み寄る。スキルは、本来の魔力の使い方を制限する不自由なものでしかないのにと肩をすくめた。
菫:「お座り。お行儀が悪い」
菫が指先で死神の額をピンと弾く次の瞬間、世界ランクの探索者たちが束になっても勝てないはずの怪物が、大爆発を起こして消滅した。
静まり返ったダンジョン。
蘭:「…………は?」
菫:「ほら、蘭。いつまで座り込んでるの。お尻が冷えるよ」
蘭:「……あ……あぁ……。お姉ちゃん……。私、あんなに怖かったのに……お姉ちゃんに比べたら、私、ただの子供じゃん……っ」
重圧から解放された瞬間、蘭は菫の腰にしがみつき、顔をジャージに埋めて子供のように泣きじゃくる。
蘭:「うわぁぁぁん!おねえぢゃぁぁん!ごめんなざいぃぃ!ピーマン食べるからぁぁ、一緒に寝てぇぇぇ!!」
菫:「よしよし。はい、鼻水拭く……あら、カメラ回ったままだった。はあ、見られないよね?」
菫が冷めた目でレンズを見つめ、スイッチを切る。暗転した画面の後に残されたのは、かつてない速度で流れるコメントの弾幕。
〈なにこれ〉
〈なにこれ〉
〈【速報】人類の希望、実はただの重度シスコンだった〉
〈いや待て、今のデコピン。スキルが出てないぞ……?〉
〈あの姉何者だよ。お座りでSランク爆散はヤバすぎる〉
翌朝、世界は謎の最強姉の正体を探るべく大騒ぎになる。一方、学校では幼蘭姫の姉ということがバレてしまった菫。昨夜の配信は世界中のSNSで一億回以上再生されていた。
「人類の希望(笑)が赤ちゃん返り」
「デコピンでSランク消滅」
「ジャージの聖母」
しかし、白瀬家の朝は相変わらず。姉の膝の上で朝食を食べながら。
「おねーちゃん、あーん。やっぱり昨日の配信、消さなくてよかった。お姉ちゃんの凄さが世界にバレちゃったね♡おふふふ!」
「何言ってるの恥ずかしい。あと重い。……ほら、今日はテレビ局の人が来てるみたいだから裏口から学校行くよ」
玄関の外には昨日のデコピンの正体を突き止めようとする記者や、姉をスカウトしようとするギルド幹部が五十人以上詰めかけていた。中学校に登校すると、校内は異様な熱気に包まれていた。廊下を通るだけで生徒たちが道を開け、遠巻きに拝む者まで現れる。
「おい、マジであのジャージの姉さんだ……え、まじい?」
「スキルなしなのにSランクをデコピンってどんなバグだよ……」
そこへ、学校一の探索者候補と言われるエリート男子が立ち塞がる。
「白瀬!昨日のあれはトリックだろ?スキルもなしにそんな力があるはずない。……これを見ろ俺のレベルは」
話を遮り、彼の肩に付いた糸屑を取る。
「……はぁ」
瞬間、エリート男子は巨大な山に押し潰されるようなプレッシャーを感じて腰を抜かす。菫はただ無意識に魔力を最適化して動いただけなのに。
「ごめん、急いでるから。……あ、廊下は走っちゃダメ」
エリート男子が配信していたのでコメントが溢れる。
〈待って今、白瀬さんが動いただけで空気震えてなかった?〉
〈エリート君一言も発せずに気絶してるんだけどw〉
一方、小学校の蘭。昨夜の幼児退行を見られ、学校へ行くのが怖かったが現実は逆だった。
「蘭ちゃん昨日の配信見たよ!お姉さん、超かっこいいね!」
「あんな凄いお姉ちゃんがいたなんて……蘭ちゃんが強いのも納得!」
今まで怖くて近寄れない天才だった蘭に、同級生たちがお姉ちゃんの話をきっかけに集まってくる。
「……え、あ、う、うん!そうなの!私のお姉ちゃんは世界で一番強いし、一番優しいんだから!……メスガキ?何のことかな、私はお姉ちゃんがいればそれだけで幸せなの」
ドヤ顔。放課後、蘭が中学校まで姉を迎えに来る。校門の前で待ち構える蘭。全速力でダイブ。
「おねえちゃぁぁん!!」
「はいはい。……誰か付いてきてる」
蘭の後ろには懐いた小学生の親衛隊と、それを見守る中学生たちが大行列を作っていた。さらに、空からヘリが降りてくる。降りてきたの、国内最高ランクの探索者。
「白瀬菫さん。あなたを人類の守護者として招待したい。その力どうやって手に入れた?」
「毎日、蘭の修行に付き合いながら家事をしてたら、普通にこうなっただけですけ。それよりヘリの音がうるさい。近所迷惑」
菫が軽く手を振るとヘリの周囲の空気が固定され、エンジンが停止して強制着陸させられる。ヘリコプターの男も当たり前のように配信しておりコメントが爆発している。
〈え、今の魔法?〉
〈いや、物理現象を上書きした……?〉
〈白瀬菫、ガチで関わっちゃいけないタイプの人類だ〉
触ってはいけない姉に関わるとメスガキ妹が黙ってない。
「おじさあん、あっちいけよー」
「な、私はまだ若い!」
「私からしたらおじさんなのー!お姉ちゃんとの時間を奪うおっさんなんて敵だー!ガルルルル!」
メスガキというより犬である。姉は犬に改名してもらえればいいのにと静かに思ったが、すでに己に対してこうなので意味はないなと完結させた。
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