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プロローグ

10話程で完結する予定です。



 空からふわりふわりと冷たく柔らかい雪が降る夜。

 スワン伯爵家に一人の可愛らしい女の子が生まれた。

 屋敷全体は新しい命の誕生に慌ただしくも、幸せに包まれている。

 

 生まれたばかりの我が子を抱いた母親は、愛おしい表情を浮かべている。瞳は慈愛で満ち溢れ優しい。


 二人だけの空間に、コンコンとノック音が響く。

 返事をする間もなく入ってきたのは、旦那であり父親である伯爵と、星を連想させる美しいローブを身に纏った男性だ。

 星のように煌めく衣装を纏えるのは、この国では魔術師だけ。

 魔術師とは生まれながらに魔力を持って生まれたものだけがなれる者。

 そんな魔術師が、生まれたばかりの子供とまだ疲弊している母親の元へ来たのだ。

 母親はぎゅっと我が子を抱き寄せて、悲痛な表情を浮かべた。 

 

 魔術師は母親に向かってゆっくり一礼をすると、母親と女の子の元へゆったりと歩いていく。


「初めまして伯爵夫人。私は魔術師のノワールと申します。」

「初めまして、魔術師様。貴方がここを訪れたということは……この子は、魔力を持っているのですね……。」


 ノワールと名乗った男性はベットの傍まで寄ると、母親と目線を合わせるように床に片膝をついた。


「はい。先程、今までに感じたことの無い程、凄まじい魔力量を感じました。

 酷なことを申しますが、娘様を我々に預けては頂けないでしょうか?」


 ノワールの真っ直ぐな言葉に、母親はさらに悲しげな表情をする。

 魔術師が何の連絡もなしにいきなり屋敷に訪れてきた時点で、魔力を持って生まれたのだと気づいていた。

 

 魔力持ちが少ないこの国では、魔力を持って生まれてくるというのは貴重だ。

 魔力を持って生まれてくる子がいれば、大人になり突然魔力が目覚める者もいる。

 魔力持ちの特性は未だに分からず、魔力を持つ者の条件は解明されていない。


 そして一般人には魔力の有無など分からない。

 だからこうして魔力を持った才ある子の元に魔術師が現れる。

 

 本来なら魔力を持っているということが分かった時点で、魔術師に預けるのが正しい行いだと理解はしている。

 魔術師になることは栄誉なことだ。

 しかし、母親はその事実を受け止めることができず、腕の中でスヤスヤと眠る我が子を見る。

 そして、ノワールの一歩後ろにいる伯爵に意見を求めるように視線を向けた。

 

「……考えさせてくれと伝えた。男だったら伯爵家を継ぐという責務があるから、魔力を持っていても魔術師には出さないだろう。

 ……しかし、その子は女の子だ。」


 伯爵の放った言葉が母親の胸に重くのしかかる。

 魔力を持っていても、持っていなくても、男の子でも女の子でも関係ない。

 生まれたばかりの大切な我が子を、魔力持ちだから、女の子だからという理由で手放すなんて、そんなこと考えたくなかった。


「……どうするかは、お前に任せる。」

「……(わたくし)に任せて下さるのですか?」

「ああ。お前がどんな決断をしても責めはしない。

 だから、お前の心のままに決めるといい。」


 そう言い残して、伯爵は部屋から出ていく。

 母親は少し考えた後、ノワールを真っ直ぐに見つめた。

 母親の瞳は、悲しげに揺れることなく、決意に満ちている。


「……ノワール様。(わたくし)はこの子と思い出をたくさん作りたいのです。本を読んであげたり、一緒に庭園をお散歩したり、お茶会をしたり、時には貴族の娘として厳しさを教えたり。

 全て、(わたくし)がしてあげたいのです。

 それに、決められた道ではなく、この子には自分の進みたい道に進んで欲しいのです。例えそれが、貴族としては間違っている道だとしても……。

 なので、お願いです……!この子が……ブランシュがもう少し大きくなるまで待っては頂けないでしょうか?」

「分かりました。」

「……よろしいのですか?」

「私達は強制したい訳ではありません。

 もちろん魔術師は少ないので、すぐにでもお連れしたい気持ちもあります。その子は魔力に優れていらっしゃいますし、今からでも魔力について学んで欲しい。

 しかし、私たちは人生を縛りたい訳ではありません。

 ですが、ブランシュ様が魔力持ちである以上、十七歳になったら、魔術師になるか否か答えを聞くためにも、お迎えに上がります。

 もしそこで、ブランシュ様が拒否された場合は諦めましょう。

 それで、よろしいですか?」

「……っ!ありがとうございます……!」 

「それと、もう一つだけ。」


 そう言うとノワールは、腰につけていた鞄から、金色のアンクレットを取りだした。


「これは?」

「魔力を宿す子ということを、他の魔術師から分からないようにするための道具です。これを付けていれえば、手出しされることは無いでしょう。

 アンクレットは魔力で作ったものなので、足にはめると勝手にサイズが合うようになっています。」


 ノワールの手の大きさほどある大きなアンクレットを受け取り、ブランシュの右足にはめる。

 すると、アンクレットは光を放ちブランシュの足に合わせて小さくなった。

 ノワールがアンクレットに触れながら何かを確かめ始める。

 一通り確認したのか、ノワールは穏やかに頷いた。


「不備も無いようですし、問題ないようですね。」

「ノワール様。本当にありがとうございます。」

「私は何も特別なことはしておりませんよ。」


 ノワールが穏やかに微笑む。


「ブランシュ様。十七歳になりましたらお迎えに上がりますね。」

「それでは、私はこれで失礼いたします。」


 優雅に一礼して去っていくノワールを見送り、母親はブランシュを見つめる。


「ブランシュ。貴女が魔術師の素質がある子ということは、私よりもずっっと長い時間を生き続けるということ。

 貴女にとって(わたくし)との時間は一瞬の出来事で、瞬きするように忘れてしまうかもしれない。

 それでも、(わたくし)は貴女との思い出が欲しい。そんな(わたし)のわがままをどうか許してね。」


 母親はブランシュのおでこに、そっと口付けた。

 魔術師がおでこに贈るキスは、祝福という意味合いを持つと聞いたことがある。

 魔術師では無いけれど、少しでもブランシュに祝福が訪れるように、祈りを込めたかった。

 

 「(わたくし)の可愛いブランシュ。貴女が十七歳になるその時まで、たくさんの思い出をお母様と一緒に作りましょうね。」


 

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