参 変化
さて今日はどうしようかと考えながら朝ごはんを食べ、さて今日は何しようかと考えつつ伸びをした。
「よお」
?
不意に声がして、固まる。
伸びの姿勢のまま、目だけをぐりぐりと動かして、見える範囲の室内を見渡す。
まず目の前にはダイニングテーブルを下方に、その向こうにキッチンがある。
右手には玄関扉。
今見える範囲はそれだけだが当然のその中人影はない。
それで、右手を向いて、磨りガラスのスライドドアで仕切られた居室の方を見遣るが、そちらにも人が居る気配はない。
そのまま右手に若干振り返る様にして、残りの二つの居室や脱衣所の方を見てみるけれど、誰か居るという様子は感じられない。
誰も居ない。
そも、誰か入ってきていたなら気づいていた筈だし。
何せ人ひでり。
それはともかくとして、はて。
小首をかしげる。
空耳か?
「よお」
まただ。
声がした。
今度は確信がある。
絶対に聞こえたんだ。
すぐ左の方から。
鳥肌が立っている。
「よおってばよお」
ゆっくりと、恐る恐る、今度は左手に首を振った。
ぎょっとした。
そこには、誰も居ない。
磨りガラスの出窓と、その窓台に飾り置いてある、大量の真鍮の鳥や蛙の置物、そして歯車や金属のパイプなどだけがある。
俄かに肌寒い。
「ここだよここだよお」
また声がして飛び上がる。
椅子から飛び退いて出窓との距離を取った。
「いい加減気づけよぉニブくさいなぁ」
絶対に声がしているのだが、絶対に人影がないわけで。
そこにスピーカー付きの電子機器なんかも置いてないわけで。
増してこんな事はじめてで、久しぶりのリアルタイムな━━━と思しき━━━声で。
混乱。
動機が早まって、鼓動が高鳴っているのを感じる。
どくっどくっどくっ、とうるさいくらいだ。
「あぁもうめんどくせぇ」
そう聞こえるがいなや、窓台から何かがふっと飛び出してきた。
「うひゃあ」
我ながら思いがけないほどに情け無い声が出てそれにもびっくりする。
そして仰け反った拍子に、すぐ後ろに迫っていた磨りガラスのスライドドアに頭をぶつけた。
バァンという大きな音がこだましているように感じられる衝突だった。
頭を抱えて蹲る。
塩ビの白けたフローリング調の床が見える。
「あちゃあイタソー……だいじょうぶぅ?」
『心配です』と言う声音と言葉に、逆ギレに分類出来そうな種類の感情が湧く。
それより頭が痛い。
床には髪の毛が落ちている。
「ごめんねぇびっくりさせてぇ」
ほんとだよ。
てか頭が痛い。
「気づいて欲しかったからさぁ」
?
そういえば結局声の主はなんなのだろう。
『ぴょこっ』
と音がしそうな仕草で、そいつは視界に入ってきた。
「はじめまして、人間さん。わたしはあなたのおともです。」
それは真鍮の鳥の置物だった。