表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青碧蒼  作者: 心夢宇宙
2/5

壱 記憶 感覚

思い出すと思い出せること。


そういえば。


そういえば、学徒の頃は。


学徒の頃は、人が居ただろうか?


景色は思い出せるけど、しかしそこに人が居た記憶がない。

イメージがない。


高校の帰り道、バスに揺られて、イヤフォンで耳に栓をしながら、雨の降る窓の外を見ていた。

夕方の外は雨のせいもあってか既に碧く、木々は『黒々とした』とも言えるような、深い蒼へと姿が変えていた。


あの時人はいただろうか?

バスに乗っていたということは運転手が居たのだろうか。

しかして自動運転という可能性もある。

今だってそれはあるんだから、あの頃あってもおかしくない。

そもそも自分は一体いくつなのだろうか。

今は何年?


何もわからない。


デジタル機器に表示される日付表示は、何故か年数の表示が1970年になっている。


どうしてこんなことになっているのだろう。


記憶にある最後の最新の日付表示は、どうなっていただろうか、と思い出そうとしても、思い出せない。


20という先頭二桁の表示は思い浮かぶのに、そのあとの二桁が一つも思い出せない。


いつからこうなったのかもわからない。


人が居ないから、誰かに聞くこともできない。


ただいつも、冷蔵庫を開ければ無機質な食材が現れているので、誰かがいるような気もして『気持ち悪い。』


最初の数ヶ月は警戒していたが、今やもう諦めて、そう、『諦めて』受け入れることにした。


『絶望』しても仕方がないが、絶望せずには居られないが、それにも慣れて、絶望し『飽きて』いる。


まぁもうそんなこと『どうだっていいんだ』と言い聞かせて、なんとか感情をやりくりしているが、『いずれ限界が来るかもしれない。』


寂しいとは思わないが、時々『苦しく』なる。


別に誰かに会いたいわけじゃないが、誰も恋しくはないのだが、ただ単に、どこからともなく『苦しく』なる。


だって『途方も無い。途方に暮れて』しまう。


これが全部夢で、起きたら全部なかったことになったらどうだろう、とよく思う。

でもそうだったら、こういう思索━━━のようなもの━━━も全部無かったことになってしまうのだろうか、と思うと、それはそれで『遣瀬ない。』


ま、いっか。


そうして再び味に集中する。

どうも、変なことを考えていると味のことを忘れてしまうと言うか、意識の外に追いやられてしまうきらいがある

いつからこうだったか思い出せないが、これが変なことだと感じているということは、多分、前は違ったんだと思う。

定かではないけれど。


ということで、味に集中する。


箸で名前のわからないそれをつまみ取って頬張った。


不味くも美味しくもない。

食べられるし、何でか食べ飽きないけど、よくわからない。


よくわからないものを、よくわからないけど火に掛けて、よくわからないけど食べている。


『別にもう全部どうだっていいので、これが毒だろうと何だろうと関係ない。知らない。』


ただそこにあるし、お腹が空くし、食べられるから食べる。


でもどうしてか、心の中で発声して言葉で思考する時にも、口に出そうとしても、紙に書き出そうとしても、これがなんであるか、そしてどういう形をしているか、どういう色であるかなどが何一つ形容できない。


この感覚を表すことは非常に困難なのだけれども、なんとか表したいところである。


しかして出来ないので仕方ない。


『もう諦めた。』


『どうでもいいよ。』


『知らないよ。』


『やっぱり今日もダメだった。』


『集中してみようとしたけど上手くいかなかった。』


『仕方ない。』


『切り替えよう。』


『切り替える。』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ