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第9話

急遽翔の決定により俺の家に一緒に帰って、リビングに入るや否や部屋の中をぐるっと見渡していた。


「あ!プロジェクターあんじゃん!いいなぁ。テレビより断然いいよな。え、桐谷サブスクなんか登録してんの?」


「ああ、それでたまに映画みたり。」


「ほえ~」


手洗いを済ませてソファに座った翔は、ソワソワしながらペットボトルのジュースを飲み、キョロキョロしていた。


「おい・・・落ち着かねぇな、犬かお前は・・・」


「え、だって一人暮らしって俺は憧れてんだもん。俺は4人の中じゃ一番家離れてるからさ~、一人暮らししてぇなぁって言ったことあんだけど、不摂生になりそうだからって許してくれないんだよなぁ。」


「ああ・・・お前ほっとくと同じもんばっか食うもんな・・・」


「いや、桐谷に言われたくねぇんだけど・・・。」


「うっせぇ」


日も沈んできたので俺がベランダを開けて洗濯物を取り入れると、翔は俺が放り投げた衣類を手伝うように受け止め始めた。


「・・・・あれ、これ西田の服?」


「・・・ん、ああ・・・昨日泊まりに来てたから。」


「え!そうなん!?何それ仲良しかよ!仲間に入れろ!」


「お前しょっちゅうゼミの連中と遊びに行ってんじゃねぇか・・・。」


翔が不貞腐れながら言い返そうとしていた時、ガチャリと玄関の戸が開く音がした。


「おじゃましま・・・あれ、桐谷今日バイトないんだ~?いる~?」


スーパーの袋でも持って訪ねて来たであろう西田の物音がして、翔はパッと振り返った。

リビングに入った西田は翔と鉢合わせると、一瞬表情を強張らせて足を止めた。


「・・・・あれ、翔?・・・おつかれ」


俺が洗濯物をかき集めて座ると、翔はポカンとして西田を見つめた。


「え、何で西田?」


「・・・・・えっと・・・昨日泊ったから洋服取りに・・・。」


「いや、そうじゃなくて・・・今玄関のドア鍵で開けたじゃん。何で桐谷んちの鍵持ってんの?」


袋を抱えたまま西田は俺に視線を向けた。


「・・・こいつがバイト帰りにしょっちゅう寄るようになったから、合鍵渡してやったんだよ。」


まぁ俺が言える言い訳として自然なのはこの程度だ・・・。

西田は話を合わせるように続けた。


「そうそう。桐谷ほっといたら甘い物だけ食って飯食わねぇからさ、気軽に泊めてもらう代わりに料理してんの。」


西田は冷蔵庫の前で食材を入れ始めて、翔の不信感から逃亡した。

果たして翔に通用するかどうかだ。

俺は何でもないように洗濯物を畳んでいると、翔は「ふぅん」と言いながら、俺を見下ろしてその後西田に駆け寄った。


「つーか水臭いって話してたんだよ!何で俺も遊びに来いって誘ってくんないんだよ!」


「え~?翔は女の子と合コンしたり、クラブ行ったりで忙しいだろ~?男だけだとつまんないと思ってさ。」


「何だよそれ・・・」


翔はカウンターに腕をついて、俺たちを交互に見た。

さっきまでの落ち着かない様子はどこへやら、じーっとまた考え込んでから、思い立ったようにピンと背筋を伸ばした。


「な~んか・・・お邪魔みたいだし俺帰ろっかな。」


「え?いや・・・」


冷蔵庫を閉じた西田が狼狽えると、翔は何でもないように続けた。


「二人がそういう関係なんだったらさ、別に言ってくれりゃあ良かったじゃん。桐谷が本気で付き合おうと思って西田と一緒にいるとは思えないけどさ、西田が普通に元気ってことは、仲良く了承し合ってそういう関係ってことだろ?俺別に偏見持たねぇよ。二人は俺に言ったら、何それキモ!って避けるとでも思った?」


いつもと変わらない調子で、平然と述べる翔に、西田は硬直していた。


「いや・・・・」


翔は俺の方に寄って座り込む。


「桐谷もさ、俺に言ったら『西田のこと弄んでんじゃねぇよ!』って、俺が怒るとか思った?」


「いや?俺が言わなかったのは、西田に周りには誰にも言わないでほしいって頼まれたからだ。翔や咲夜を信用してないからとかじゃない。遊びで付き合ってみるか?って提案したのは俺で、じゃあいいよって了承したのは西田だ。特に何もそこまで関係性に変化はないし、報告しなきゃいけない程じゃないと俺も判断した。」


俺が答えると翔はまたパッと西田の顔を見て、また俺に目を合わせた。


「おい桐谷、関係が変化してないって思ってるのは桐谷だろ?西田は優しい奴なんだから、お前のこと本気で好きになってるかもしんねぇじゃん。そんな言い方したら傷つくだろうが。」


意外な指摘に今度は俺がポカンとしていると、西田が割って入るように自分の洋服を取りながら言った。


「翔、大丈夫だって、別に傷つかないよ。桐谷はこういう奴だって俺たち知ってるじゃんか。遊びに来てたの知らないで来て悪かったな。今日は洋服持って帰るから。じゃあな。」


そそくさと退散しようとする西田に、翔はガシっとしがみつくように抱き着いた。


「バカかお前!ちょっと傷ついた顔したくせに!気遣うフリして逃げんのやめろ!俺は一緒に居てほしいんだよ!お前ら二人が仲いいなら俺は嬉しいんだよ!別に関係がどうとか、そんなの俺がとやかく言う立場じゃねぇんだから、好きにしてろって言ってんの!」


「翔・・・」


洗濯物を畳み終えて、飲み物を淹れるべく立ち上がった。


「そうだぞ~西田。気まずくなって逃げんのは俺に悪いと思えよ~。で、お前コーヒーでいいの?」


「・・・うん・・・。無糖の割って飲むやつ買ったからそれにしろよ。」


「は?何お前無糖とか買ってんの?ガムシロ入れる手間かかるだろ。」


俺が悪態をつくと、西田は苦笑いした。


「だから・・・甘いの飲み過ぎだって。」


それから少し俺たちのやり取りを眺めていた翔は、小首を傾げて言った。


「・・・西田は桐谷のお母さん代わりなん・・・?」


西田はふぅとため息をついて眉を下げる。


「ま・・・そう言われても過言じゃねぇよな。」


「過言だわボケ。」


それから3人で適当に夕飯を拵えて早めに食べた後、まだ観てなかった最新の映画を堪能した。

お菓子をバリバリ頬張りながら映画の余韻に浸る翔は、ああでもないこうでもないと楽しそうに感想を語った。

すると西田は何となく確認するように、自信なさげに視線を落とした。


「翔・・・その・・・咲夜以外の周りの人にさ、俺らのこと言わないでくれる?」


「あ?うん、別に言わねぇよ。」


「言うつもりねぇけど口滑らすんだろうなぁ翔・・・」


俺が言うと翔は隣で向き直って頬をつねった。


「言わねぇわ!西田はあれだろ?変な目で見る奴もいるからってことだろ?」


「まぁ・・・」


「大丈夫だよ、言わない。てか咲夜にも別にあえて言わない。」


「ふ・・・そうなん?」


「だってあいつは特にそういうの気にしない上に、興味ないと思う。」


そう言われて俺も西田も同時に咲夜の顔を思い浮かべた気がした。


「まぁ・・・あいつは俺の次にそこまで人間に興味ない奴だからな・・・。というか、人から興味を持たれ過ぎる人生だから、自分から根掘り葉掘り探ったりしないタイプだな。」


西田も頷いて納得していた。


「確かにな・・・。あれこれ聞くことも聞かれることも嫌いって感じだからなぁ。」


咲夜は大人び過ぎていて、ある意味俺たちの中で一番浮いている存在だろうと思う。

助力を請われればきちんと向き合って話を聞くだろうが、誰かが誰かとどういう関係とか、そんな他愛ないことに構う程の奴じゃない。

翔はお菓子を食べ終えて意外にも丁寧にティッシュで口を拭った。


「咲夜は俺らより遥かに大人だからさ、大学生の取るに足らない事情なんてあしらうよな。精神年齢高いんだよ。」


これまた意外と翔は咲夜をよく見て理解しているようだ。

するとジュースを一口飲んで、翔は意気揚々と俺たちに尋ねた。


「んで?二人はどこまでいったん?」


その質問ばかりは、俺も西田も辟易せずにいられなかった。


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