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第8話

かけると空きコマがかぶっていた或る日、昼食前だったのもあって、食べに行きたい所があると意気込む翔について行くことになった。

一駅先まで電車に乗って街を歩きだすと、藪から棒に翔は言った。


「なぁなぁ桐谷・・・」


「あ?」


「なんかさ~最近西田さ~、落ち込んでたのから元気になってきたのはいいんだけど・・・なんか怪しいよな~。」


「・・・何が?」


半歩先を歩きながら翔は腕組みしていった。


「あれは・・・女の影あるな・・・。」


たぶん男の影しかねぇけど・・・と内心思いながらも、さすが伊達に2年もつるんでないな。恐らく咲夜も何となく気付いてはいるんだろうけど・・・


「どう思う?桐谷」


「あ~?・・・別にどうでもいいわ・・・。」


正直西田が他に仲良くなる女がいようと、男がいようと心底どうでもいい。

過ごす時間は前より長くなってはいるが、元より十分情がある友人だ。


「桐谷はホント・・・あ、店あった~~!テレビで紹介されてたんだよね~美味そうな中華料理屋!」


「おお・・・。げ・・・何だあの行列・・・。」


「え、桐谷行列やだ?」


パッと振り返って翔はガシっと俺の腕を掴んで構わず列に並んだ。


「有無言わせねぇじゃん・・・。」


「だって待ってる時間も楽しいじゃんか~。街中の雰囲気とかさ、美味しそうな匂いとかさ!だんだん近づいてくるとワクワクしてくんじゃん。」


「言ってることがまるで10歳児。」


翔はニカっと笑って、並んでいた後ろを指さした。


「あ!あっちの店知ってる。ここにも店舗あったんだ。美味いんだぜ?あそこのタピオカミルクティー。食べ終わったら飲もうぜ。」


「あ?ああ・・・。」


翔はスマホを取り出してスイスイ画面に指を滑らせる。


「心配しなくても1時間も待たねぇって。ここアルコールの提供は夜しかやってないから、昼間は回転率いいんだよ。」


「ほう・・・意外と下調べバッチリか。」


翔は少し黙ってスマホを眺めると、またパッと俺を見て言った。


「桐谷ってさ~めんどくさがりなフリして意外と付き合ってくれるしさ、なんだかんだ優しいよな。」


「・・・・優しくしてるつもりはないけどな。気乗りしないなら断ってるぞ。」


「マイペースなフリして実は気遣い上手じゃん!」


「ふ・・・お前もな。」


「俺は結構適当だよ。」


「そうか。適当さも大らかって捉えりゃ長所だな。」


「勿体ないと思うんだよな~。」


「・・・何が」


少しずつ進む列を二人してゆっくり歩きながら、翔は華奢な肩をいからせてまた腕を組んだ。


「だって中身も見た目もいいのにさぁ、モテんのにさ~全然付き合ってる恋人の話とか聞かねぇもん。マジでそういうの興味ないの?」


普段の会話の中で散々あしらわれているからか、翔なりに核心をついてきた質問だった。


「・・・興味はないな。つまらないとか下らないとは思ってない。必要性の有無の話でもなく、好きだと思う相手が現れないだけだ。」


「ふぅん・・・そうなんだ・・・。桐谷実はいい奴だし、付き合えた恋人は幸せだろうにな~。」


「・・・。」


横目に流れていく人並みを見やりながら、それからも翔の話を聞き流していた。

やがて入店して料理を注文し終えた頃、翔は尚も適当な話題を続けた。


「俺みたいな喜怒哀楽激しい奴はさ~、付き合いやすいって言われるけど、男女問わず若干嘗められんのが玉に瑕なんだよな~。桐谷は絶対そんなんねぇよな。」


「・・・ん~・・・どうだろうな。まぁ人間レッテル貼って安心する生き物だからな、色々周りから思われたり言われたりっていうのはしょうがねぇし、イメージに大した意味はねぇよ。」


「じゃあさ~桐谷は西田に対してどういうイメージ持ってる?」


「西田?ん~・・・イメージ・・・気遣いが過ぎる奴。」


「はは!確かに。じゃあ咲夜は?」


「・・・ん~・・・色々抱えこみ過ぎる奴。」


「そうなんだwへぇ・・・んじゃあ大穴!俺は?」


「大穴って・・・。翔はそうだな・・・明るい性格だけど、実は達観してそう。」


俺がそう言うと、翔は口を尖らせて「ふぅん・・・」と少し考え込み、手持無沙汰な様子で割り箸の袋を折り始めながら言った。


「俺さぁ・・・去年別れた彼女にさ~『私じゃなくてもいいんでしょ?』って言われたんだよね。別に俺は浮気したこともないし、他の子たぶらかしたりもしてないんだけど、周りにいい顔してるって思われてさ、仲良くすることを否定されたんだ。俺色んな人の考え方とか感性とかに触れると楽しいからさ、見聞を広げたくて色んな質問したり話したりすんの好きなんだけど・・・そもそもその子だから付き合ってるのに、特別だと思ってんのに伝わんないんだよね。何でかな・・・。」


翔が自分の話や愚痴ること自体珍しいことだが、何か引っかかってモヤモヤしてるんだろう。

自分の悪いところを探そうとしているように見えた。


「お前が十分恋人に対して、愛情持って接してて伝わってないなら、それは相手と相性が悪かったのかもな。別れるための言い訳を言う人もいるし、自分を正当化させようと思い込む人もいる。明らかにお前に非がある出来事があったならまだしも、相手の考え方一つで受け取り方が変わってしまったんなら、それはもうしょうがない。好きで一緒に居た相手と別れてしまえば、何かと引きずる気持ちが残るのは当然だ。それだけ翔が相手を本気で好きだったってことだろう。伝わる伝わらないは人それぞれ。少なくとも西田や咲夜や俺は、お前のことを元気一杯で頭空っぽな奴とは思ってない。」


「思ってるっぽい~!w」


翔はケラケラ笑いながら、到着した中華料理をキラキラした目で見て、「いただきま~す。」と手を合わせてから頬張り始めた。

同じく割り箸でおかずをつまみながら、エビチリで口の周りをオレンジにした翔をチラリと見た。


「翔が翔だから好きだって思う奴と、一緒に居られたら理想だろうな。」


「んふふ・・・おん。桐谷もそういう人が現れたらいいな!好きな人出来たらぜってー教えろよ!全力で茶化すから!!」


「そこは応援するから、だろ・・・。」


俺が翔と飯を食べるのが好きなのは、美味しそうにリスの如く頬張る姿に、食欲促進効果があるからだ。

翔が女にモテるのかモテないのかは知らないし興味もないけど、こいつは西田より要領がいいし物分かりも早い。

色んな人の考えを知りたいっていう好奇心故か、柔軟的な思考と吸収力、本当に幼子のようだ。

まるで子供らしく振舞っている学習能力高いロボット。

俺が翔に抱いている本当のイメージはそういうものだった。


やがて満足するだけ食べつくした翔は、ゆっくりお茶を飲んでいた俺に声をかけて店を後にした。


「いやぁ贅沢した~!めっちゃ美味かったぁ。」


「確かに、早く提供されるわりには味は良かったし、繁盛してるだけあって本場の味だったな。」


「な!そこそこ辛いし本格的だった!来月はどこ食べに行こっかなぁ~。月一に一食贅沢するっていう俺のルールなんだ~。」


「ふ・・・そうなのか。翔は・・・今実家だっけか。」


「おん、両親と妹と4人暮らし。姉ちゃんいるけど一人暮らししてる。そうだ、気軽に車借りて出かけてるからさ、どっか4人で遠出しねぇ?結局旅行とかも行ったことないよな。」


「まぁそうだな・・・。夏休み長いし、その時考えるか。」


「意外と咲夜が腰重いんだよなぁ・・・。金持ちの坊ちゃんなのに・・・。」


「まぁ・・・あいつはあいつで家の事情があんだろ。後、旅行行こうぜって提案すると、すぐ彼女との旅行の予定を先に立てようとする癖がある。」


「確かに・・・。婚約しててこの先もずっと一緒に行くチャンスあんだから、俺らと行けっての!今度言ってやろ!」


「はは・・・」


咲夜に絡む理由を見つけてイキイキする翔は、また思い出したように振り返って言った。


「そういや桐谷は一人暮らしだよな?」


「おう。」


「家行ったことねぇし行きてぇ!」


「・・・?ああ・・・別にいいよ。」


「よっしゃ!じゃあ今日どうせ同じ時間で終わりだし、講義終わったら家直行な!」


小学生のように即日の予定を決定づけられたけど、バイトもないしまぁいいか・・・


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