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第6話

合鍵を渡してからひと月程

何度か休日や平日のバイト帰りに、西田はうちにやってくるようになった。

だが正直そこまで何かが変わったわけでもない。

変わったことと言えば、抱きしめられたりキスをされたり、そういうコミュニケーションが増えたくらいだ。

西田は俺に対して、気遣い癖を減らそうと奮闘しているように見える。

時に自分勝手と思われる言動も見られるし、どうも慣れている友人相手だと楽に出来ているようだ。


その日もバイト帰りに俺のうちに寄った西田が泊まりに来ていた。


「あれだな・・・男同士だと・・・着替えをすぐ貸せるし、俺と桐谷は体の大きさが大差ないから都合良いな。」


「確かにそうだな。」


「てかさ・・・こないだ母さんにさ・・・『あんた彼女出来たんでしょ』ってすっげぇドヤ顔で言われた・・・。」


「・・・?なんで?」


「いや・・・友達んち泊るって言ってここに来てんのが、彼女のとこなのに誤魔化してんじゃねぇかって疑われてんだよ。」


「はは・・・なるほどな。」


俺から付き合ってやるとは言ったものの、短い間と言ったし、そこまで長々と恋人ごっこを続ける気はない。

そんなこと西田にとっては無意味だろうし、俺が西田を好きになるということもないであろうから。

西田もそれをきっとわかっている。


「正直に言えばいいんじゃね?」


俺が何気なく返すと、真面目な西田は困った顔を向けた。


「言えるか・・・。そもそも・・・恋人ごっこであって、正式な恋人同士じゃないだろ?そりゃお互い好きで付き合ってるなら、相手が男だろうが俺は言うけどさ・・・。」


建前や嘘の言い分を言うなら、容赦なく刺して突っ込んでいくつもりでいるけど、今のところ注意すべき点はない。

注意するとすれば、俺から西田へ放つ言葉の一つ一つだ。


「まぁそうだな・・・。じゃあ適当に誤魔化し続ける方がいいだろうな。」


「連れてこいとか言われないことを祈るわ・・・。」


「ふん・・・つーか、泊まりに来なければいいんじゃね?」


いつでも来れるようにと合鍵を渡しはしたけど、定期的に泊まりに来いと言った覚えはない。

西田は少しつまらなそうな表情をして、隣に座った俺に傾けて体重をかけた。


「んなこと言うと食べちまうぞ。」


「なんで?」


「・・・恋人なんだろ?一応・・・。甘えさせてよ・・・」


「泊ることは甘えなのか・・・。」


「そうとも言えるし・・・そこじゃなくてさ・・・。一晩中一緒にいたいなぁっていう独り占めの仕方を、俺はしてもいいってことなんだから、その方が長く話せるし、普通に楽しいじゃん。・・・それとも桐谷は俺といてそんなに楽しくない?」


そんなことを言って寂しそうな目をして、それが癖なのか西田は俺の髪を撫でて頬に触れる。


「・・・楽しい・・・?」


西田が俺に甘えていることくらいはわかる。

キスをするのも抱きしめるのも、愛おしさを自分の中に生み出したくてしてることだろう。

俺はこいつがそうしたい相手がいないから恋人を買って出たまでだ。


「あんまり楽しいっていう感情はないな。」


俺がハッキリ言うと、西田は明らかに傷ついた顔をした。


「そう・・・。」


「安心したいんだろ?お前は・・・」


「安心・・・?」


俺は西田の手を握って、もう片方の手で頬に触れてキスした。


「こういうことをしたいのは、お前が愛情を向ける相手を持て余してるからだろ。お前はいい奴だからそれを有り余るほど持ってるのに、好きな相手がいない。ぶつける相手がいないから、俺の提案に乗って、もしかしたら好きになるかもなっていう期待を抱きながら、この気持ちはそうじゃないって否定しながら、それでも甘い時間がほしくてしてるんだろ?」


「・・・・・そうだな・・・。」


「俺に見透かされていちいち傷つくのやめろ。」


西田はふっと視線を落として、何かに落胆したようなため息を落とした。


「桐谷にとっちゃ俺は・・・そういう奴だもんな。・・・けど・・・ホントにその通りだからさ、わかったよじゃあもうやめるよこんな関係、ってスパっと切れねぇの・・・。でもさ・・・そういう情けない自分で居ても、桐谷は許してくれんじゃないかなってまた甘えてる。」


「・・・別に許す許さないとかはないな。それは西田の勝手だろ。俺はお前が勝手な関係を築いて、それを好きな時に破棄していいぞって言ったんだ。だから何ら問題な・・・」


話している途中に西田は俺の言葉を飲み込むように激しくキスした。


「っ・・・おい!人が話してる最中にキスする癖でもあんのか?」


「ふふ・・・ごめん・・・。じゃあさ・・・俺が本気で桐谷のこと好きで好きでしょうがなくなったら・・・どうしたらいいと思う?」


「お前ドMなんかぁ?んなこと言われても俺は、あっそ、って振るわ。そんなことお前もわかってるだろ。そんな不毛なことに脳みそ使うんじゃねぇよ。暇つぶしくらいに考えてろ。」


「ふふ・・・わかった・・・。」


西田が何かに傷ついたり、落胆したり、自己否定したり、考え過ぎたり・・・そういうことを繰り返しているのは目に見えてわかる。顔に出過ぎるから。

俺はそれが面白いと思ってるわけじゃない。出来ればこれから先、こんないい奴が傷つかないように生きていく術を持ってほしい。

ずる賢くなってほしい。もっと世の中を知って変な女に引っかかって、変な曲がり方をしてしまうくらいなら、真っすぐまた人を好きになれる自分を取り戻したらいい。


「その間の・・・愛情や性欲のはけ口くらいにならなってやるよ・・・。」


何も言わなくなった西田を抱きしめて撫でてやりながら、ポツリとそう言った。

すると西田はゆっくり顔を上げて、また唇を重ねた。


「していいの?」


「あ?」


「俺がしたいと思ったら・・・セックス・・・」


「・・・男同士のそれは・・・そう簡単にはいかんらしいぞ?」


「ふ・・・そうだよなぁ・・・。桐谷に痛い思いさせるなら、初めからしたくないまであるし。」


「・・・お前が挿れる側かよ。」


「え!桐谷が攻め側なん?」


「どうでもいいわそんなこと!」


思わず本音が出ると、西田は快活に笑った。


「ははは!そうだろうな!ふふ・・・まぁそういう桐谷が好きだわ。」


素直でかつ、世話の焼ける奴だな・・・。



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