表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラグをへし折りまくる桐谷くん  作者: 理春


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

50/68

第50話

目が覚めて薄っすら瞼を持ち上げると、彼女の茅色と錆色が混じった髪が目に入った。


「おはよ。」


先に目覚めて俺を眺めてたらしい彼女が、また一段と愛おしそうに微笑む。


「可愛い寝顔にずっと癒されてた♡」


「・・・じゃあ今度は俺より先に起きんな。」


「うふふ、そうね。代わりばんこだと平等ね。」


待つように目を閉じる彼女に、軽くキスを落として体を持ち上げた。

まだボーっとする脳を起こそうにも、なかなか起動せず枕元の時計を見ると、ちょうど午前8時だった。


「・・・無理だわぁ・・・。昨日のなんかが残ってる・・・・無理。」


溶けるようにまたベッドに横たわると、菫はせっせと下着を履いて俺の頭を撫でた。


「お休みなんだから好きなだけ寝てていいよ?」


下から見上げるように見えた彼女が、下着姿なこともあって思わず凝視した。


「・・・どうしたの?」


「・・・・あのさ・・・」


「ん?」


「・・・今度無防備なカッコで出歩いたらキレるからな。」


「んふふ、わかってるよ。」


「後・・・・・・・・」


「なあに?」


「・・・んでもねぇ・・・」


「・・・んふふ・・・」


菫は察したように笑いをこらえながら、また俺の隣に潜り込んだ。


「ねぇ春・・・春は普段からファッション拘ってコーディネートしてる人?」


「ん~・・・ファッション誌を見るのは好きだけど・・・。着たいものを適当に買ってるから、拘ってるっていうのとは違うな。」


「そうなんだ・・・。」


菫は何かソワソワと視線を動かして、何かを言おうとしては躊躇った。


「なに・・・?」


「ん・・・えっとね?・・・春が持ってる私服、色々着て見せてほしいなぁって思っちゃって・・・」


彼女の視線のそれは、俺をモデルとして私服のファッションショーを期待する目だった。


「はぁ・・・まぁ・・・別にいいけど・・・」


「ホント?ありがとう。」


勢いよくまた起き上がる彼女は、さっと昨日俺が貸したTシャツとスエットを着直した。


服を着て見せるくらいなら造作もないことだけど、彼女はそれを見て何がしたいんだろう・・・


パンツを履いてクローゼットを開くと、菫は横からパッと覗いて洋服を手に取る。


「ふぅん・・・へぇ・・・ん~と・・・あ、これ素敵ね。花柄のシャツ。」


「あ~・・・ごくたまに着てる。夏場はちょっと暑い。」


「そっかそっか、生地が通気性ないもんね・・・。今時期はどういうのを着まわしてるの?」


「あ~・・・普通にこなへんの・・・シャツとか、Tシャツとか・・・ワイドパンツと合わせたり。」


「なるほど、涼しさ重視のナチュラルコーデでいいね。・・・春はぁ・・・」


彼女は眉をひそめてじーっと俺の顔を凝視した。


「パーソナルカラーはブルベ冬っぽいかも・・・。今ちょっと日焼けしてるだろうけど、きっと本来色白よね。うんうん、ハッキリした顔立ちだから色柄物も絶対似合う!あ、このストライプのシャツと~・・・こっちのタイト目なパンツ合わせてみて。」


「ん。」


その後何着か着替えて、作る物のイメージが固まって来たのか、彼女は満足した様子で息をついた。


「うんうん、ありがとう。ごめんね、ファッションショーさせちゃって。」


「別にいいよ。」


下だけ楽なスエットに履き替えると、彼女は少しボーっとした様子で俺を眺めた。


「・・・どうした?」


「・・・ううん・・・。」


菫は自信なさげに視線を落として首を振った。

彼女がいったい何を思っているのか、そんなことはいちいちわかりはしない。

ある程度気持ちを推し量っていればいい、という友人関係なら問題ないかもしれない。


ならどうする・・・。わからないなら調べ尽くして勉強してきた。

人の心理を学んできた。自分の人付き合いが100%正解ではないだろうけど、恋愛に関してもそれは同じだろう。

正解がないなら、相手を知るしかない。


「菫・・・」


洗面所で顔を洗った後、大人しくリビングのソファに座って、スマホを眺めていた彼女に声をかけた。


「・・・なあに?」


「・・・あ~・・・」


見切り発車で声をかけてしまって、相手を知るための質問に悩む。


「あぁ・・・そうだ・・・。一つ気になってたことあったわ・・・」


「ん?」


小首を傾げる彼女に、二人分お茶を淹れて隣に座った。


「ありがとう。・・・それで?」


「・・・あの日・・・心が折れたって言ってた、白いチューリップ買った日・・・何があったか聞きたい。」


女性に対してさして興味が湧かない自分が、ずっと心の隅で気になっていたことだった。

菫は真顔で少し黙ると、視線を泳がせてから気を遣うような笑みを見せた。


「・・・あのね・・・その・・・会社の直属の上司と、私ちょっと・・・セフレみたいな関係だったの。」


「・・・ほう・・・」


「・・・仕事が出来る人で、そんなに年変わらないのにかなり実績上げてる人でね・・・。憧れがあったんだけど、遊び人だって噂もあって、まぁいっかなぁって思ってて・・・。何となく付き合う感じになるかなぁって思ったけど・・・そんなつもりないってハッキリ言われて・・・。そんな感じね。」


終始歯切れ悪く説明する彼女は、話を端折ってはいるだろうし、苦い思い出でしかないのか、俺と目は合わせようとしなかった。


「・・・今は?」


「今は・・・そうねぇ・・・特に何でもないというか、関係が切れてからしばらく経つけど、お互い忙しいこともあって、業務的なやり取りはあっても、何か個人的にどうとかはないね。」


ため息を落として、菫はやっと落ち着いた笑顔で俺の頬に触れた。


「ある意味・・・貴方がくれた生け花で火が付いたから、それをきっかけに没頭出来て、忘れられたのかもしれない。」


「・・・それは・・・良かったのか?菫にとって」


「もちろん。」


その時ばかりは真っすぐ見つめ返す彼女が、どれだけ服飾デザイナーを誇りとしているかがわかる。


「もっと・・・目の前で見たくなったもの・・・。貴方の作品。」


「・・・・そ・・・。」


心の中で、彼女が作ったワンピースを思い出した。


「学祭で・・・広報部の展示に協力することになって、そこで出すんだ。」


「・・・え!そうなの?」


「ああ・・・。だからちょっと・・・寝室で練習したい。」


菫は目を見張って子供のように何か、ワクワクしたような堪えたような笑みを見せた。


「見学しててもいい?それから・・・学祭・・・私行っても大丈夫?」


「あぁ・・・まぁ・・・・たぶん・・・」


「・・・たぶん?」


「いや・・・・・・・何となく恥ずかしいだろ・・・」


「そうなの?別にいつも通りにしてていいよ?私は周りに失礼のないようにしてるから。話す余裕がないなら展示を見るだけでもいいし。」


どうにも引き下がりそうにない彼女は、もう今から楽しみでならないという顔をしている。


「まぁ、いいけど・・・」


グラスのお茶をまた一口飲んで、寝室で仕舞っていた花材を取り出す。


「・・・プレッシャーがあったりする?」


器に剣山を置くと、目の前に正座した彼女が静かに尋ねた。


「プレッシャー・・・?ないな。俺はプロとして作るわけじゃないし・・・俺の作品が何か、誰かに影響をもたらすわけでもないしな。」


「・・・そう?春にとっては、自分自身に影響があることじゃない?それに・・・貴方がくれた何気ない作品が、私に大いに影響したじゃない。自由に見学出来る学祭なら、誰が何を感じ取るかわからないよ?」


自分では思いもしなかった意見を、彼女から差し出されて、思わず返答に困った。

そんなこと今まで考えもしなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ