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第42話

着いた先は焼き肉屋だった。


「母さんが仕事先でクーポン貰ったっつってくれてさ、食べ放題安いし、酒も種類多いんだよ。」


「ほ~いいじゃん。」


店内も少人数客には個室ばかりで、落ち着いた雰囲気の座敷に座る。


「桐谷店内うるさいとこ嫌だろ?最適だと思って。」


「まぁ・・・普通の大衆居酒屋の、ああいうガヤガヤした感じが醍醐味みたいなとこちょっとあるけど、落ち着いて飲んで話せるほうが気が散らないからな。」


二人して適当に酒と肉を注文して、おしぼりで手を拭きながら西田は言った。


「ふぅ・・・も~最近暑いのやばいから昼間ずっと家にいるわ・・・。桐谷あれ以来熱中症なってないか?」


「なってないな。より気を付けるようになった。というか・・・階段から落ちそうになった一件もあったし、最近不注意の事故が続いてるから・・・反省したわ。」


西田はくつくつ笑って頬杖を突く。


「そうだなぁ、なんかこう・・・不運が重なる時ってあるもんなぁ。俺はなんかやらかしてたっけなぁ・・・?」


「・・・そういや、結構前に翔とクラブ行ったっつってたけど、遊んでんの?」


「はぁ?遊んでないわ・・・。その一回だけだよ行ったの。完全に付き合いで行ったっていうだけだなぁ。」


「ふぅん・・・。何か話したい事があるとか、相談事があるとか・・・そういう理由で誘われたわけじゃねぇんだな。」


西田はわずかに視線を落として考え込み、また真顔で見つめ返した。


「相談事ってのはないかなぁ・・・。もちろん悩んだり落ち込んだりしたら、愚痴こぼしたいって頼りにするつもりはあるけど・・・なんつーかさ・・・前まではさ、自信の無さゆえにだいぶ、周りと自分を比較して色々考え込んでたんだよ。でも最近はいい意味で他人と自分を切り離して考えられるようにはなったな。まぁこれでいいよなって自己肯定してる感じ。」


静かに口元を持ち上げて笑う表情に、前よりも落ち着きを持った様が見て取れた。


「ふぅん。よかったな。」


「・・・桐谷は?なんか最近変わりあった?」


「あ~・・・・?ん~・・・・・・?」


酒と肉が到着して、お互い一口グラスに口をつける。


「いや、別に・・・特にない。」


西田はそれでも何か期待しているのか疑っているのか、口元を持ち上げたままジト目を返す。


「ふぅん?ホントか~?」


「あ?なんでだよ」


「な~んか、前までとちょっと変わった気ぃすんだよなぁ・・・。突然髪の毛切ったりさ・・・」


「・・・・直接的に聞きたいことあるなら言えよ。」


「・・・恋人でも出来た?」


少し拗ねるように口先を尖らせる西田が、子供っぽくて「なんだこいつ」という想いさせる。


「出来てねぇ。お前は?」


「・・・出来てませ~~ん。」


肉を網に乗せて次々焼きながら、お互いどうやら、何か変わった気がする友人の理由を探ろうとしてるようだった。


「んでもさ、楽しいことは多いよ。色々友達と出かけることもあるし、最近親しくなった友達と色々話せたりさ。交友関係がちょっと変わったから、新鮮で刺激はあるかな。・・・んでもさぁ・・・悶々とすることはあんだよ~健康的男子過ぎて・・・」


苦笑いを落としてまた酒に口をつける西田は、あまり反応が返ってこない俺相手がちょうどいいんだろう、若者らしい愚痴を吐く。


「それはしょうがねぇな。ある意味心身ともに健康な証拠だ。」


「まぁな~。誘惑が多いんだよ周りに・・・」


「・・・モテる奴は苦労すんなぁ。」


さっそく焼きあがったタン塩を口に運ぶと、塩分不足だった体に染み渡る。


「うっま・・・。」


「タン塩から食べるあたりわかってんなぁ。大人数で食べに行くのもそれはそれで楽しいけどさ・・・あ!そういやさ、咲夜は時間合うかわかんないけど、ビアガーデン行かないかって翔が言ってたんだよ。祭りとか人込み歩くより、桐谷はそっちの方が好きそうだと思って。」


「あ~・・・まぁ酒飲むくらいなら行くよ。体動かすことは嫌だけど。」


肉を頬張りながら答えると、西田はまた苦笑いを落として、スマホを開いて空いてる日をピックアップし始めた。


「翔が腰が重いお前と咲夜を連れて行くために、あれこれ提案してくんだよなぁ・・・。」


「つっても月末に旅行行くじゃねぇか。」


「そうなんだけどさ、あいつはなんか・・・お互い忙しくなって、大学卒業したらさ、簡単に縁が切れちゃうもんだと思ってんだよ。自分が俺たち3人と違って、仲間内で遊びたいって欲求が強いから、振り回してるのも自覚してて、自分よりも早く大人になっていく気がする俺たちに対して、寂しいなぁって思ってるんだよ。」


「めんどくせぇ奴・・・」


「はは!言うと思った。んでも翔はそういうところが可愛いだろ。」


「お前は兄弟もいねぇのに兄貴気質だなぁ・・・。」


「そうかな・・・。慕ってくれてるなら大事な友達だし、応えてやりたいんだよ。」


「まぁ・・・それはそうだけど。お前は境目が曖昧だろ。気も合うし大事だからっていう付き合いでいて、相手からは恋愛感情を向けられてた・・・なんて経験腐る程あるんじゃねぇか?」


グビっと酒を口に運んで言うと、図星だったのか西田はため息交じりに苦笑した。


「まぁ・・・翔はそんなこと絶対ないけど。最近は慎重に交友関係築いてるよ。仲良くなりたいっていう気持ちがなければ、境界線は引いてるし。てか桐谷と話してるといっつも何かしら苦言を呈されてるよなぁ。」


「・・・別に俺は説教のつもりで言ってないぞ。あしらえばいいんだよ。お前は故意に悪いことしてねぇんだから。」


西田はトングで肉をひっくり返しながら、ボーっと焦点の合わない目をする。


「うん・・・確かに悪いことって思われるような行為はしたことないな。でも知らず知らず傷つけたりしてることもあんだろうなぁって、思うことはあるよ。」


「そんなもん生きてりゃ誰でもあるわ。」


「だよな~。」


飲み食いしながらそんな調子で他愛ない会話をしている中で、何か西田は思いあぐねていることがある、ということはわかった。

モヤモヤしてる、とまで行かずとも、自分の中で答えが出ないことばかりで、ハッキリ答えを出すことも気が引けて・・・というような、そんな空気だ。

こういう時は助言を避けるべきな気がした。

そもそも西田は助言など求めていないし、本当に何気なく飲みに行きたかっただけだろう。


「桐谷はさ・・・いつか自分に恋人が出来る日は来ると思う?」


「・・・さぁなぁ・・・・。意識してそういうこと考えねぇからな。」


「そっか・・・俺はずっと考えちゃうな・・・。また付き合おうと思って誰かと一緒に居られるんかなぁって。確固たるアイデンティティがないからさ、桐谷みたいに・・・。だから自分を見てくれる人がほしくなんだよ。」


「確固たるアイデンティティ~?んなこと考えて生きてねぇよ。」


「はは、そっか・・・。」


焼けた肉をひょいひょい皿に運んで、側にあったタレをかける。


「翔の言葉を借りるわけじゃねぇが・・・。考え過ぎずに、いいなぁと思った相手と付き合ってみたらいいんじゃねぇか?寂しいとか、自分の在り方とか、人との関わり方とか、そういうことに年相応に思い悩んでる自分を晒せる相手なら、上手くやっていけるだろ。・・・あ~余計な事何も言わないでおこうと思ったのに・・・」


「ふ・・・言わないでおこうと思ったんだ?別にいいよ、思ったことは何でも聞きたいよ。今日誘った理由はしいて言うならそれかな。」


「ふぅん・・・そうか。」


西田は抱えてる気持ちがあれこれあっても、どうしても他人の気持ちを優先する奴だ。

だから迂闊なことは言えない。けどこいつは、俺がそう気を遣っているということが嫌なんだろう。

だからと言ってこいつの言う通り、思ったことをつらつら言えるわけじゃない。

一度恋人まがいな関係を持ってしまった以上、こいつの恋愛に対する不器用さを刺激していい立場にないからだ。

気を持たせていることにすら関心がなく、傷つけて振ってしまった俺は余計なことを言えない。


「人として悪いと思われるようなことを、何一つしてこなかったっていうなら、そろそろ自分の性格に自信持ったらどうだ?人間誰しもな・・・20年くらい生きてりゃ、人に言えないような悪行の一つや二つ、やっちまってるもんだろ。大小はあるだろうが。」


「へぇ~!桐谷なんかあんの?」


途端に目を輝かせる西田を睨み返す。


「うるせぇな。言えないようなことっつったろ?言わねぇよボケが。」


ケラケラと笑う西田にため息をついて、一杯目の酒を飲み干してメニューを手に取る。

その後も二人で飲み食いして、制限時間一杯までゆっくりして21時頃店を出た。


「桐谷ぁ・・・2軒目行く~?」


「・・・行かねぇよ馬鹿が。酒強いわけじゃねぇのに調子乗んな。」


「出たぁ・・・桐谷の毒舌久しぶりだなぁあはは。」


フラフラする西田の腕をガシ!っと掴んで、犬の散歩のように誘導して駅を目指した。


「桐谷ぁ送ってってくれんの~?」


「めんどくせぇアホが、送らねぇよ。別に泥酔してるわけじゃねぇだろ、降りる駅くらい間違えんなよ?」


「・・・俺さぁ・・・桐谷みたいな引っ張ってってくれる彼氏がほしいかもなぁ。」


「・・・殴られたいらしいな?」


ヘラヘラと冗談を重ねる西田を引きずっていると、不意に夜道で声がかかった。


「あれ・・・西田くん?桐谷くんも・・・」


パッと振り返ると・・・・見覚えのある・・・あれ、名前出て来ねぇな・・・


「あれ!?佐伯さんじゃ~~ん!」


ああ、そうだ佐伯さん。

酔っ払った西田が片手を上げた。


「二人とも飲みに行ってたの?ふふ、酔っ払ってる西田くん新鮮だね。」


「そ~お~?へへ、佐伯さんは今日も可愛いね。」


息をするようにチャラい言葉を吐く西田に、彼女は少し戸惑っていた。


「・・・佐伯さん、金払うからこいつを家まで送ってやってくんない?」


「え!えっと・・・」


「佐伯さん一緒に帰ってくれんの~?」


酔ってはいるが女性に気安く触ろうとはしないあたり、西田は西田だ。


「タクシー代出すわ。ほら西田、佐伯さんに迷惑かけんなよ。」


「何で押し付けんだよ~!」


「俺はお前とは逆方向だろうが・・・!」


西田に5千円札を握らせて、タクシーアプリで車を呼びつけた。

佐伯さんはニコニコヘラヘラしている西田と普通に会話しているし、迷惑そうにしているわけじゃないので、そのまま任せてそそくさと帰ってやった。



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